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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情
1-32.朝チュンは物語だけの特権だろォ!? と主張したい
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自分の呼吸が荒く、また酷く耳障りだ。身にまとっていた夜会用の無駄に豪奢なジャケットを脱いで、適当に床に放り投げる。ブチッ、と嫌な音が聞こえた気がしたから、もしかしたら何か飾りでも引き千切ってしまったのかもしれない。だが、そんな些細なことに構っている余裕はない。スラックスとやたらフリルのついたドレスシャツだけ残し、ベッドに腰掛けた。シャツのボタンを三つほど外してから、ようやく一息つけた。
とはいえ、まだまだ身体の熱は高まり収まりがつきそうにない。ならば、とさっさと用事を済ませてしまうことにした。
「アッサール、……はぁっ、いるだろう」
「……我が君」
「俺のこの症状は、帝国所以のものか?」
「ご賢察の通り、帝国の呪術と見ていいでしょう。以前見た呪術に似ておりましたし、帝国の呪術師も今宵は紛れ込んでしまったようです。現在、王家直属の諜報部隊に私の部下も合流させ事に当たらせております」
情報の裏付けとしてアッサールに尋ねてみるが、案の定肯定された。助かるし追及する気はないが、こいつの情報収集能力というか、そういうのどうやっているんだろうか。魔法のある世界だから、やっぱり諜報向きの魔法とかあるんだろうか。……と、つらつらと別のことも交えないと熱が一番集まっている個所に意識を持って行かれそうだ。
帝国で最近事件にもなっている、仮称・催淫の呪術による無差別呪術テロ。まあ明らかに臨床実験であるだろうという話で、今宵の夜会だって急遽お披露目も込みにするということで、色々と警備体制とか招待客の見直し、対策とてんやわんやだったのだ。
最悪なことに、この呪術は性欲を発散しないことにはどうしようもない。不幸中の幸いは、雄は自分で出してやれば楽になることだ。雌は悲惨らしい、精を満足するまで受けなければ収まらないとの話だ。
となれば、俺も出すだけ出して熱を冷ますのが手っ取り早い。
「そうか、っ……。アッサール、お前も現場で指揮に当たり原因究明を急がせろ。ユーハンが呪術の解析もしていたはずだ、必要であれば助力を願うがいい。俺の名前を使え」
「ですが、我が君は……!」
「お前もか、……いいから行け。お前が本来、男を受け付けないのを知っているぞ。それとも俺の初体験を悲惨にしたいのか。っ、疾く去ね!」
「……御意。御前を失礼いたします」
不思議なことに、アッサールは俺のことを心酔しているけど、俺に触れることは絶対にない。それは俺が王族であり、あいつが臣下であるというだけでは収まらない距離だ。性的に見ていないということもないだろう、人の夢精パンツを回収しているのはアイツだし。ケニーの自室でオナニーしているの盗撮してるし、恐らく俺も盗撮されている。何がしたいかわからんが、アイツなりに思うところがあるんだろう。
だから、これからもいい距離感でいるために、性欲を持て余す前にアッサールを追い出す必要がある。
不満げであったが、了承してアッサールも立ち去った。これで、この部屋には俺だけだ。そう思ったら、もうダメだった。
辛うじて、自分が出したものは触りたくないな、という意識が働いて端切れは手元に持ってきたのだろう。でも、それ以外はずっと自身を握って扱いていたように思う。途中から慰めるように抱きしめられたような、とても温かくて気持ちよかった気がする。とにかく、熱が高ぶり過ぎて吐き出さなければヤバいということだけは、本能的に感じ取ったと思う。あつい、とうわ言のように幾度も呟きながら、ひたすら熱を高めるべく夢中だった。
* * *
目が覚めて、現状を把握した途端に頭を抱えた。生娘よろしく悲鳴を上げなかった自分を褒めたい。
隣に眠る彼を起こさないように、そうっとベッドから抜け出して、いつの間にか用意されていたバスローブを羽織る。とにかく逃げたくて、寝所から抜け出すとリビングスペースでケネスが侍従姿で作業していた。
「レーメ様っ? 起きて大丈夫なのか、体調はどうだ? ……どうした?」
「あの惨状は俺がやったのか……?」
「どういうこと? ユーハン様以外の人でもいた? さっき様子見た時は二人で寝てたけど」
「……昨晩のことをあまり覚えてない。ユハと会った記憶も、何をしてしまったのかも覚えてない」
「いや、……昨晩だけど。伝言聞いてすぐ来たけど、ユーハン様が殿下のこと慰めていらしたよ。だから、俺は人払いだけしておいたんだけど」
俺とケニーの間に、沈黙が落ちる。慰めていたということは、俺はユハに無体を働いたということだろうか。その上、ケニーに意図してなかったとはいえ浮気現場を見せたのか。……最悪過ぎて、何を言えばいいのか分からない。
起きたら、朝だったのだ。恐らく朝、日が昇ったばかりのようで薄暗いから早起きし過ぎたかもしれない。そしていつ寝たのか記憶にないから、媚薬に近い呪術をかけられて、抜いているうちに寝てしまったのだと思っていたのだが。ちょっと下半身のどことは言わないがバキバキに筋肉痛だし、妙にスッキリしているし。それに隣に裸のユハが寝ていたら、そりゃびっくりしてひっくり返る。しかも、そっと確認したらユハの身体にはキスマークらしき跡がたくさんついてて、シーツといい彼の身体にといいナニとは言わないがカピカピだった。
どう考えても事後です、どうしてこうなった。
「……レーメ様、よかったらユーハン様に濡れタオルとか用意しようか? シーツは後で片づけておくからさ」
「ケニーの冷静さにもう心が折れそうだけど、ありがとう。世話は取り敢えず俺がするから、頼む」
「そうしてあげれば? 結構、恥ずかしいし。……爺にだけ報告してくる、でないと色々と出遅れそうだ」
「そっちも頼む、……本当にすまん」
苛立つ気持ちを抑えて、しばらくして用意してくれたケニーの心遣いを無駄にしないよう、ユハを清めていく。ユハの長身に合わせた大きなバスローブを苦労して着せると、ユハの隣に寝そべった。確か、初夜の翌朝に放置するのは最低、という話を聞かされたことがある。初夜ではないが、その雌たちのアドバイスは実行した方が良いだろう。
はあ、本当に許さないぞ、犯人。帝国だろうが、どうしてやろうか。苛立ちに任せて、帝国抹消計画を立てるべく思考を巡らせた。
とはいえ、まだまだ身体の熱は高まり収まりがつきそうにない。ならば、とさっさと用事を済ませてしまうことにした。
「アッサール、……はぁっ、いるだろう」
「……我が君」
「俺のこの症状は、帝国所以のものか?」
「ご賢察の通り、帝国の呪術と見ていいでしょう。以前見た呪術に似ておりましたし、帝国の呪術師も今宵は紛れ込んでしまったようです。現在、王家直属の諜報部隊に私の部下も合流させ事に当たらせております」
情報の裏付けとしてアッサールに尋ねてみるが、案の定肯定された。助かるし追及する気はないが、こいつの情報収集能力というか、そういうのどうやっているんだろうか。魔法のある世界だから、やっぱり諜報向きの魔法とかあるんだろうか。……と、つらつらと別のことも交えないと熱が一番集まっている個所に意識を持って行かれそうだ。
帝国で最近事件にもなっている、仮称・催淫の呪術による無差別呪術テロ。まあ明らかに臨床実験であるだろうという話で、今宵の夜会だって急遽お披露目も込みにするということで、色々と警備体制とか招待客の見直し、対策とてんやわんやだったのだ。
最悪なことに、この呪術は性欲を発散しないことにはどうしようもない。不幸中の幸いは、雄は自分で出してやれば楽になることだ。雌は悲惨らしい、精を満足するまで受けなければ収まらないとの話だ。
となれば、俺も出すだけ出して熱を冷ますのが手っ取り早い。
「そうか、っ……。アッサール、お前も現場で指揮に当たり原因究明を急がせろ。ユーハンが呪術の解析もしていたはずだ、必要であれば助力を願うがいい。俺の名前を使え」
「ですが、我が君は……!」
「お前もか、……いいから行け。お前が本来、男を受け付けないのを知っているぞ。それとも俺の初体験を悲惨にしたいのか。っ、疾く去ね!」
「……御意。御前を失礼いたします」
不思議なことに、アッサールは俺のことを心酔しているけど、俺に触れることは絶対にない。それは俺が王族であり、あいつが臣下であるというだけでは収まらない距離だ。性的に見ていないということもないだろう、人の夢精パンツを回収しているのはアイツだし。ケニーの自室でオナニーしているの盗撮してるし、恐らく俺も盗撮されている。何がしたいかわからんが、アイツなりに思うところがあるんだろう。
だから、これからもいい距離感でいるために、性欲を持て余す前にアッサールを追い出す必要がある。
不満げであったが、了承してアッサールも立ち去った。これで、この部屋には俺だけだ。そう思ったら、もうダメだった。
辛うじて、自分が出したものは触りたくないな、という意識が働いて端切れは手元に持ってきたのだろう。でも、それ以外はずっと自身を握って扱いていたように思う。途中から慰めるように抱きしめられたような、とても温かくて気持ちよかった気がする。とにかく、熱が高ぶり過ぎて吐き出さなければヤバいということだけは、本能的に感じ取ったと思う。あつい、とうわ言のように幾度も呟きながら、ひたすら熱を高めるべく夢中だった。
* * *
目が覚めて、現状を把握した途端に頭を抱えた。生娘よろしく悲鳴を上げなかった自分を褒めたい。
隣に眠る彼を起こさないように、そうっとベッドから抜け出して、いつの間にか用意されていたバスローブを羽織る。とにかく逃げたくて、寝所から抜け出すとリビングスペースでケネスが侍従姿で作業していた。
「レーメ様っ? 起きて大丈夫なのか、体調はどうだ? ……どうした?」
「あの惨状は俺がやったのか……?」
「どういうこと? ユーハン様以外の人でもいた? さっき様子見た時は二人で寝てたけど」
「……昨晩のことをあまり覚えてない。ユハと会った記憶も、何をしてしまったのかも覚えてない」
「いや、……昨晩だけど。伝言聞いてすぐ来たけど、ユーハン様が殿下のこと慰めていらしたよ。だから、俺は人払いだけしておいたんだけど」
俺とケニーの間に、沈黙が落ちる。慰めていたということは、俺はユハに無体を働いたということだろうか。その上、ケニーに意図してなかったとはいえ浮気現場を見せたのか。……最悪過ぎて、何を言えばいいのか分からない。
起きたら、朝だったのだ。恐らく朝、日が昇ったばかりのようで薄暗いから早起きし過ぎたかもしれない。そしていつ寝たのか記憶にないから、媚薬に近い呪術をかけられて、抜いているうちに寝てしまったのだと思っていたのだが。ちょっと下半身のどことは言わないがバキバキに筋肉痛だし、妙にスッキリしているし。それに隣に裸のユハが寝ていたら、そりゃびっくりしてひっくり返る。しかも、そっと確認したらユハの身体にはキスマークらしき跡がたくさんついてて、シーツといい彼の身体にといいナニとは言わないがカピカピだった。
どう考えても事後です、どうしてこうなった。
「……レーメ様、よかったらユーハン様に濡れタオルとか用意しようか? シーツは後で片づけておくからさ」
「ケニーの冷静さにもう心が折れそうだけど、ありがとう。世話は取り敢えず俺がするから、頼む」
「そうしてあげれば? 結構、恥ずかしいし。……爺にだけ報告してくる、でないと色々と出遅れそうだ」
「そっちも頼む、……本当にすまん」
苛立つ気持ちを抑えて、しばらくして用意してくれたケニーの心遣いを無駄にしないよう、ユハを清めていく。ユハの長身に合わせた大きなバスローブを苦労して着せると、ユハの隣に寝そべった。確か、初夜の翌朝に放置するのは最低、という話を聞かされたことがある。初夜ではないが、その雌たちのアドバイスは実行した方が良いだろう。
はあ、本当に許さないぞ、犯人。帝国だろうが、どうしてやろうか。苛立ちに任せて、帝国抹消計画を立てるべく思考を巡らせた。
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