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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情

1-23.恋愛対象と性癖、つまり何が好きかというシンプルな問い

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「その、殿下って、同性愛者……?」
「いや? どちらでもないし、偏らないよう教育されている。実際、可愛い年下の女の子とも婚約している」
「……でも、男とも婚約しているんだよな?」
「うーん、説明しがたいのだが。男女という括りではなく、雄と雌という……要は男役か女役で、恋愛対象にするかしないか選ぶ。というのが、一番近いと思う」


 万葉殿の困惑具合に、わかるわかると返したい。最初に驚いたのは、同性同士で子どもが出来ると知った時だった。5歳くらいだっただろうか、俺と同じ年齢くらいの男の子を抱いた綺麗な男性と本宮ですれ違ったことがある。その時、あとから第二側妃と第三王子、つまり俺の義母と異母弟であると教えてもらったのだ。そこで混乱しまくって、父上もあの人も男じゃないか、俺の母上は女だ、と訴えた。で、そこで初めて雄と雌の概念を幼児向けにゆるくだが教えてもらったのだ。そして、中身はオッサンの俺、何となく察した。ついでに、父のようになれと言われ、自分は突っ込む側でいいのだな、と安心した覚えがある。
 あの時の衝撃は、今でも覚えてる。問い詰めたのはリリー乳母だっただろうか、ケネスと一緒に聞いたが、そう言えばあの時はケネスがちらちら俺のことを見てきたな。俺が雄で居たいと思ったように、ケネスも雌の目覚めでもあったのだろうか。

 まだ困り果てている様子の万葉殿に、言葉を重ねることにした。こればかりは、元日本人の感覚が邪魔するからなぁ。


「結局のところ、誰を好ましいと思うかなんだ。実際、私が最初に好きになったのは、そこのケネスだと思う。だが、ケネスは普通に男だろう? 私には立場もあるし、かなり悩んだ。その時はまだ男と恋愛できるか不安だったからな。だが、ケネスの母である乳母に『この子は雌だから殿下の好きにしていいですよ』って言ってもらって、ああコイツは俺のモノにしていいんだ、と思った時に受け入れられていたと思う」
「待って、母上はそんなことまで言っていたのか?」
「言っていたが? その時ついでに、ならケネスが欲しいからケネスの婚約話とか全部断って欲しい、伯爵の許可も欲しい、っておねだりしたら次の日には『夫も説得したからケネスは殿下のモノです。末永く大事にしてあげてくださいね』って言われた」
「俺は母上に、殿下へ売られたのか!?」
「うーん。俺だって母上が王妃陛下へ売りつけてるし、似たようなもんだろ」


 傍で給仕に徹していたケニーが、思わずといった様子でツッコミを入れてくる。残念なことに、実話である。なんていうか、俺の母上に仕えてるだけあって思考が似てるな、とちょっぴり思った。息子を使えてる人間に差し出すところとか。

 俺とケニーの掛け合いに目を白黒させていた万葉殿は、盛大に噴出した。


「まあ、話が逸れたが。つまるところ、孕ませるか孕むかの違いが大きな問題であって。あとは胸好きと尻好きの違いというか、残りは性癖によると思う」
「くくっ、なるほど。本当に、同性愛も何も問題ないんだな」
「理解して貰えたようで何より。ちなみに、万葉殿に紹介したユーハンもケネスも雌であり、日本風に言えば俺の女だ。是非とも手出し無用で頼む」
「言われなくても、それくらい分かる。……そっかぁ、なら僕も男を好きでいていいんだな」
「おや、万葉殿も男の雌の素晴らしさに気付いたか?」
「違っ、……この世界風に言うなら、僕は雌だと思う」


 ぽくぽくぽく、ちーん。そんな間抜けな音が聞こえてきた気がした。え、何、この子異性愛者じゃなくて同性愛者で雌なの!? 動揺を隠そうと必死な俺を見て、残念な子を見るような憐れみの視線をくれるケニー。いや、気付けるか? だって同性愛者が迫害されまくってた部分のある日本だぞ、ちょっとでも人と違うとめっちゃ叩かれるみんな一緒でそれでいいっていう日本人だぞ?
 ええー、と微妙な表情になったが、万葉殿は自分の発言を噛みしめるように俯いて自分の手をじっと見ていた。なんとも、儚く消えてしまいそうなほど頼りなく見える。実際、自分の性的嗜好を把握するのはとても心にくることだろう。

 つい、救いを求めてケニーの方へ向くと、顎で行け、と促されたように思った。いい、のだろうか? うーん、と思っていると、手でしっしっと追い払うような仕草までされてしまった。慰めろってことですね、一応ケニーと心を交わした婚約者なのに、それはいいのか……?

 そうっと万葉殿に近寄り、拳ひとつ分あけて頭をぽんぽんとたたいてやる。


「朴念仁で悪かった。別に、万葉殿が男の雌であろうと私は困りはしない。まあ、あまり雌らしくされると手を出したくなってしまうがな」
「……婚約者の前で、そんなこと言っていいのかよ」
「もちろん。流石に配慮はするが。10人も嫁を貰う以上、こういうことは避けきれないというか……」
「そうだよな、10人も嫁を貰うって大変そうだ」
「だからか、王より周りの人間の方が優秀なことが多い。王は子作りに忙しいからな、周りが政治を回す。だから王は、優秀な人間を見抜ける目を養い、その優秀な人間がやっていることをある程度理解できる教養があれば、最悪それで問題はない」
「……なんか想像と違う」


 だろうなぁ、と微妙な顔をする万葉殿に頷いておいた。
 最初、それでいいのか王様、って思った。が、王が代々優秀だなんて時代育成が大変だ。ついでに、独裁になっても困る。よって、王はそこそこ優秀ならばそれでいいのだ。必要なのは、人を見る目とそれなりの教養。セドの教育を受けていた時、だから父上である国王陛下は黙っていることが多いのかと納得した。最後にお伺いを立ててもらえるが、優秀な王妃陛下と宰相アガタ殿がぱっぱと決めていくからな。父上は、生き生きとしている王妃陛下を見るのが好きなようなので、むしろうっとりと見とれていることが多い。これで、それなりに国を治めているのだから、すごいことだと思う。

 ちなみに、何だかいつまでもぽんぽんしているのも、って思って髪を梳くように撫でることにシフトしたのだが。止め時がわからない、これいつまで撫でていいんだろう……? ついでに、ケニーが空気になろうと壁際で静かにしているが、見られているのも微妙です。俺、ケニーと心を交わしているよね?
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