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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情
1-21.異世界なんだから常識ももちろん違う訳でして
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地雷原を回避すべく、日本と言ってもどのくらいの時代だったのか、何が好きだったのか、エトセトラ。当たり障りのない会話をしながら、本題にどうやって入ろうか悩んでいた。ちなみに、俺と万葉殿で話していて、大神官長が時折話に入る。ユハは、頷いたりとリアクション係に徹してくれた。思ったより状況が悪かったから、ユハに説明する余裕がない。
だが、色々と言いたいことや聞きたいことを飲み込んで、サポート役に徹してくれるユハには感謝しかない。本当に優秀だ、こんな人を俺のお嫁さんにしていいのだろうか。絶対娶るけど。
そしてそんな俺にとうとう痺れを切らした、空気読みの日本人。とうとう、万葉殿の方から水を向けられた。
「――で、雑談しに来たんじゃないんだろ?」
「……配慮、痛み入る。まず聞きたいのだが、万葉殿は自分の状況をどこまで知っている?」
「なんか、結婚して子を産めとか言われた。神子とはそういうものだって、僕は男なんだけどな?」
「ふむ。常識を教える立場にある者は、万葉殿に接触してないのだな?」
「下っ端の見習い神官と過ごしてたんだけど、アイツらと話がイマイチかみ合わないとは思っていた」
万葉殿の言葉に、大神官長は視線を逸らした。たぶん、神殿において神子を教育する立場の者は全員双子の弟の方へ流れてしまったのだろう。それか、万葉殿の存在を知らないに違いない。
ということで、この世界の常識講座を簡単に行う。
この世界では、日本からするとあり得ないほど倫理観ゆるゆるで、少なくとも平民は乱交上等なところがあるので、市井で暮らすのは無理ではないかと思っていること。神殿で匿い続けるにも、そもそも神殿は開かれた場所だから無理があること。この世界の出生率の問題があり、前提として神子とはこの世界の人間と婚姻するために、遣わされた存在と認識されていること。過去の神子は皆必ず子を産んでおり、万葉殿も同じように結婚を求められること。貴族家は基本的に血統を守るために、ハーレム・逆ハーレムを作るのが普通であること。そのハーレムの一員になることを求められている、と思ってもらって構わないこと。
ホントもう、いきなりこの世界にきて理解しろっていう方が無理がある。
「だから、な? 正直、確実に子を産めると思われている神子という存在は争奪戦になりやすい。誘拐等の危険から守るためにも、高位貴族以上に嫁いでもらうことになる」
「……誘拐」
「それで、一番理解を得にくいと思うのだが。この世界、魔法で女が男役を出来るように生やせるし、男が孕めるように子宮を作れる。だから、万葉殿も女役が求められていて、子を産めと言われているのだと思う」
「そんな、魔法が……」
「ただ、別に異性愛も同性愛も自由な風潮だ。逆ハーレムを築く女の子の家を探して、そちらで結婚という形も取れる」
すべては万葉殿の心次第だ、と告げて神官が用意した茶を口に含む。もちろん、万葉殿には改めて常識を教える必要があるだろうが、必要なところだけ抜き出すとしたらこんなものだろう。
きっと、理解しきれないところや、今までの不可解な部分が判明したところがあったのだろう。難しい表情をして黙りこくってしまった。うーん、性急だっただろうか。でも、正直警備の問題を考えると、このまま万葉殿を王宮へ連れ帰ってしまうのが手っ取り早いのだ。たぶん、両陛下もそれを望んでいる。が、信頼が地に落ちていて神罰が下る可能性も考慮して、動けなかったのであろう。
気が付くと、膝の上に置いていた俺の手に手が重ねられた。隣に座るユハは万葉殿の方を見ているが、耳がちょっと赤い。心温まるのを感じながら、万葉殿が考えているのを邪魔しないように待つ。
「なあ、もし。なんだけど。結婚するのは、事情を知っている殿下がいい、って言ったら、出来るのか?」
「うん? こちらの事情としては、私の嫁になってくれるのが一番助かるが。制限も色々あるぞ?」
「もし、だってば。制限って、やっぱり王子だから色々あるの?」
「うーん、雑に言うと王太子に、次期国王になる予定だからこその制限、かな?」
「は? 次期国王?」
一応、リモとは王太子候補であり、次期国王候補なのだと説明。ついでに、十妃についてや、俺は雄――男役だから、仮に結婚するなら女役になる訳にはいかないこと。まあ、王妃という一番表に立つ立場になる必要はあまりないかもだが、神子である以上は引きこもりも難しいかもしれないこと。
ざーっと雑に説明してみた。ら、めっちゃビックリした顔で固まっていた。
「――まさに、ハーレム王みたいなものだ。私以外にも、いっぱいハーレムの主はいるがな」
「え、めっちゃリア充」
「ちなみに、私の隣にいるユーハンと、真後ろに立っている侍従のケネスも私の婚約者だ。つまり、十妃の中の二人ということだ」
「え……? 婚約者の前で嫁にしろって言ったの、僕」
「そこはこの世界的には問題ない、たぶん」
思わず、隣のユハを見たがにっこり微笑んでくれた。……この微笑みはどっちだ!? いや大丈夫大丈夫、たぶん理解してくれるはず。理解、してくれているから怒らないといいなぁ……。ケニーはたぶんこの状況、慣れているので後でフォローすれば大丈夫という信頼はある。
顔を赤くしたり青くしたり、万葉殿の顔がくるくると変わっていく。まあ、日本人の感覚だったら正式な妻の前で結婚してくださいって言う、色々修羅場な状況としか思えないもんなぁ。
「ちなみに、王家の不始末であるから、身の安全上許可出来ないことを除いて、望みは最大限に配慮する。万葉殿の希望は、どうしたい? 私と取り敢えず婚約して、友人として始めるでも構わない。そうするのが一番、猶予期間が作れるとは思う」
「……そうしたい、って言ってもいいのか?」
「構わまいのですよ、神子様。愛の女神様は、貴方様の幸せを願っておられます。クレーメンス殿下は信頼できるお方です。大神官長たる私が保証いたしましょう」
「……よろしく、お願いします」
こちらこそよろしく、と応えながらホッと安心した。思った以上の成果であるが、これならば王家という最大権力が万葉殿を守るのだから、神罰カーニバルは避けられたと言っていい。
万葉殿の背を押してくれた大神官長に、感謝の意を込めて目礼する。なんかウィンクを返されたけど、この方この立場に見合わずお茶目なのでそこは問題ない。うーん、ここまで信頼を得ていたとは思っていなかったけど、神子が来るまでは定期的に神殿に通っていて良かった。
あの男が双子の弟である神子、俺が双子の兄である神子を得た形になり、宮廷が荒れるかもしれない事実には全力で目を逸らした。
だが、色々と言いたいことや聞きたいことを飲み込んで、サポート役に徹してくれるユハには感謝しかない。本当に優秀だ、こんな人を俺のお嫁さんにしていいのだろうか。絶対娶るけど。
そしてそんな俺にとうとう痺れを切らした、空気読みの日本人。とうとう、万葉殿の方から水を向けられた。
「――で、雑談しに来たんじゃないんだろ?」
「……配慮、痛み入る。まず聞きたいのだが、万葉殿は自分の状況をどこまで知っている?」
「なんか、結婚して子を産めとか言われた。神子とはそういうものだって、僕は男なんだけどな?」
「ふむ。常識を教える立場にある者は、万葉殿に接触してないのだな?」
「下っ端の見習い神官と過ごしてたんだけど、アイツらと話がイマイチかみ合わないとは思っていた」
万葉殿の言葉に、大神官長は視線を逸らした。たぶん、神殿において神子を教育する立場の者は全員双子の弟の方へ流れてしまったのだろう。それか、万葉殿の存在を知らないに違いない。
ということで、この世界の常識講座を簡単に行う。
この世界では、日本からするとあり得ないほど倫理観ゆるゆるで、少なくとも平民は乱交上等なところがあるので、市井で暮らすのは無理ではないかと思っていること。神殿で匿い続けるにも、そもそも神殿は開かれた場所だから無理があること。この世界の出生率の問題があり、前提として神子とはこの世界の人間と婚姻するために、遣わされた存在と認識されていること。過去の神子は皆必ず子を産んでおり、万葉殿も同じように結婚を求められること。貴族家は基本的に血統を守るために、ハーレム・逆ハーレムを作るのが普通であること。そのハーレムの一員になることを求められている、と思ってもらって構わないこと。
ホントもう、いきなりこの世界にきて理解しろっていう方が無理がある。
「だから、な? 正直、確実に子を産めると思われている神子という存在は争奪戦になりやすい。誘拐等の危険から守るためにも、高位貴族以上に嫁いでもらうことになる」
「……誘拐」
「それで、一番理解を得にくいと思うのだが。この世界、魔法で女が男役を出来るように生やせるし、男が孕めるように子宮を作れる。だから、万葉殿も女役が求められていて、子を産めと言われているのだと思う」
「そんな、魔法が……」
「ただ、別に異性愛も同性愛も自由な風潮だ。逆ハーレムを築く女の子の家を探して、そちらで結婚という形も取れる」
すべては万葉殿の心次第だ、と告げて神官が用意した茶を口に含む。もちろん、万葉殿には改めて常識を教える必要があるだろうが、必要なところだけ抜き出すとしたらこんなものだろう。
きっと、理解しきれないところや、今までの不可解な部分が判明したところがあったのだろう。難しい表情をして黙りこくってしまった。うーん、性急だっただろうか。でも、正直警備の問題を考えると、このまま万葉殿を王宮へ連れ帰ってしまうのが手っ取り早いのだ。たぶん、両陛下もそれを望んでいる。が、信頼が地に落ちていて神罰が下る可能性も考慮して、動けなかったのであろう。
気が付くと、膝の上に置いていた俺の手に手が重ねられた。隣に座るユハは万葉殿の方を見ているが、耳がちょっと赤い。心温まるのを感じながら、万葉殿が考えているのを邪魔しないように待つ。
「なあ、もし。なんだけど。結婚するのは、事情を知っている殿下がいい、って言ったら、出来るのか?」
「うん? こちらの事情としては、私の嫁になってくれるのが一番助かるが。制限も色々あるぞ?」
「もし、だってば。制限って、やっぱり王子だから色々あるの?」
「うーん、雑に言うと王太子に、次期国王になる予定だからこその制限、かな?」
「は? 次期国王?」
一応、リモとは王太子候補であり、次期国王候補なのだと説明。ついでに、十妃についてや、俺は雄――男役だから、仮に結婚するなら女役になる訳にはいかないこと。まあ、王妃という一番表に立つ立場になる必要はあまりないかもだが、神子である以上は引きこもりも難しいかもしれないこと。
ざーっと雑に説明してみた。ら、めっちゃビックリした顔で固まっていた。
「――まさに、ハーレム王みたいなものだ。私以外にも、いっぱいハーレムの主はいるがな」
「え、めっちゃリア充」
「ちなみに、私の隣にいるユーハンと、真後ろに立っている侍従のケネスも私の婚約者だ。つまり、十妃の中の二人ということだ」
「え……? 婚約者の前で嫁にしろって言ったの、僕」
「そこはこの世界的には問題ない、たぶん」
思わず、隣のユハを見たがにっこり微笑んでくれた。……この微笑みはどっちだ!? いや大丈夫大丈夫、たぶん理解してくれるはず。理解、してくれているから怒らないといいなぁ……。ケニーはたぶんこの状況、慣れているので後でフォローすれば大丈夫という信頼はある。
顔を赤くしたり青くしたり、万葉殿の顔がくるくると変わっていく。まあ、日本人の感覚だったら正式な妻の前で結婚してくださいって言う、色々修羅場な状況としか思えないもんなぁ。
「ちなみに、王家の不始末であるから、身の安全上許可出来ないことを除いて、望みは最大限に配慮する。万葉殿の希望は、どうしたい? 私と取り敢えず婚約して、友人として始めるでも構わない。そうするのが一番、猶予期間が作れるとは思う」
「……そうしたい、って言ってもいいのか?」
「構わまいのですよ、神子様。愛の女神様は、貴方様の幸せを願っておられます。クレーメンス殿下は信頼できるお方です。大神官長たる私が保証いたしましょう」
「……よろしく、お願いします」
こちらこそよろしく、と応えながらホッと安心した。思った以上の成果であるが、これならば王家という最大権力が万葉殿を守るのだから、神罰カーニバルは避けられたと言っていい。
万葉殿の背を押してくれた大神官長に、感謝の意を込めて目礼する。なんかウィンクを返されたけど、この方この立場に見合わずお茶目なのでそこは問題ない。うーん、ここまで信頼を得ていたとは思っていなかったけど、神子が来るまでは定期的に神殿に通っていて良かった。
あの男が双子の弟である神子、俺が双子の兄である神子を得た形になり、宮廷が荒れるかもしれない事実には全力で目を逸らした。
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