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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情

1-18.異世界転生者と、異世界転移者はどんな化学反応を起こすのか

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 この世の愛の女神様が何を思って神子をこちらに送ってきたかは、矮小な人間ごときが測れるものではないだろう。神様だもの。ただ神子の望む場所へ、という前提はあるものの、王族を中心とした高位貴族の嫡子へ神子が嫁ぐのが一般的である。
 そして、神子はほぼ皆が子を授かっているので、血を薄める役目もあるのかなーと現代人の記憶のある俺は思っている。この世界では、血が濃すぎると奇形ではなくそもそも授かることが難しいのではないか、と歴史を辿る限りではそう見えるのだ。何故なら、不自然な死や死産といった気配が王族だけでなく高位貴族の歴史でも見当たらない。更に言えば、奇形を始めとした前世でいうところの血が濃いことによる弊害に困る子どもというのはあまりにも聞かないように思う。
 色々とファンタジー要素もある世界なので、この仮説が正しくとも他にも理由があるだろう。それに、この世界の神様として神殿を筆頭に崇めているのは、愛の神様だから不幸な子どもが生まれないよう必死に手を尽くした結果なのかもしれないなぁ、なんて勝手ながら思う。

 勝手ついでに思うのだが、仮に俺の仮説が正しいのであれば神子として連れてくる人間の精査はすべきなのではと思う。それとも逆に、逆ハーレムを築くことを前提としてあの神子を送り付けたのだろうか。だとしたら、この国の次代が荒れるのでご遠慮願いたかった。現にめっちゃ荒れてるし。その上、巻き込まれた兄が日陰に居ることを気にしてないに違いない神子って、なんか嫌だ。


「頭が痛い……。アッサール、この箝口令はどこまでだ?」
「第一王子殿下が指示され、その場に居たもの全員へ。その後、事態を把握した大神官長から国王陛下からこっそり伝えられて、両陛下とアガタ宰相閣下のみがご存知です」
「本当にお前、どこからその情報引っ張ってくるんだ。頼むから、王妃陛下の不興は買うなよ。監督不行き届きで俺までとばっちりが来るのはやめろ、その前にお前を切り捨てるからな。本気だから」
「心得ております、我が君。ですから、ずっと貴方様のお傍に」


 いつも通り、アッサールに釘を刺してから頭を回す。アッサールがヤバいのは、いつものことだからどうでもいい。そんなことより、どう考えてもこの状況は悪い。

 この世界は、色々な神が居るが、その頂点におわすのは愛の女神インテリニ様だ。神殿というのも、その愛の女神インテリニ様を奉るものである。もちろん、愛の女神様というだけあって、この神殿で他の神に祈っても何も問題ない。ただ、神殿にお勤めしている神官たちは愛の女神様の在り様を支持して、倣っているところがある。
 それなのに、一緒にご降臨なさったであろう二人目の神子殿を無視して、あまつさえご降臨なさったのはひとりという風に振舞って、『愛』を免罪符に国を荒らすような真似をする。しかも、一人目とは双子の兄弟だ。スリーアウトどころではない、ヤバさである。

 ちなみに、神子殿のご降臨の際は、なるべく年若い連中が囲んで向かい入れることになっている。要は結婚相手候補ばかり集めて、気に居られた奴が世話するのだ。だから、神殿のトップである大神官長殿が事態を把握するまで知らなかったのは、致し方ない。愛の女神様のご意向が分からない以上、二人目の神子殿も丁重に扱うべきである。何をどうしたら、見習い神官のように奉仕活動をして過ごしているというのだ。


「どうやら、表の神子殿は完全に神殿に近寄らなくなったので、もう大丈夫だろうという気が緩みのようです」
「どう考えても、早いところ保護しないと血で争うことになる。攫ってしまわれたら、救出も難しい」
「ですが殿下、保護とはどうするのですか? この状況下では、二人目の神子様は王侯貴族に不信感を持たない方がおかしいです」
「……俺の切り札を使う。ケネス、使用許可をとりたいから両陛下へ遣いを。あと、大神官長へのつなぎを取れるか伺ってくれ」
「承知いたしました。すぐに確認して参ります」


 神子殿が高位貴族に攫われたのならいい、奥で囲う分には攫った側の甲斐性次第では良好な関係になるかもしれないし、失敗してもひとつの貴族家が神罰によって消えるだけだ。問題は下位貴族や質の悪い商家に攫われたパターンだ。多人数に回されて正気で居られる人間なんぞ、いるはずもない。神子殿が絶望して、国全体に神罰が来たら大変どころの話ではない。そんな詰んだ人生嫌だ。
 もちろん、攫われた時点で神子殿の幸せは考えにくい。その上で、大勢を巻き込んだ神罰テロが起きてしまうことが怖い。なお、神罰は過去に起きている。そこを疑う余地はないとされている。

 切り札とは、俺が転生者であるという事実だ。俺が異世界転生者であることは、トップシークレット。異世界と言う未知の知識を持つとバレれば、俺の身が危なくてしょうがない。ただでさえ後ろ盾の薄い王子なのだ。王妃陛下が俺に目をかけてくださっているのは、母上が王妃陛下至上主義で息子を差し出したのもあるけど、俺に異世界の記憶があるからだ。学園を卒業したら役立てろ、と言われていたのに、早くも役立てる必要が出てしまったようだ。
 なお、神子殿と接触したことはないが、同じ日本人であることは疑ってない。名前が、どう考えても日本人。絵姿も一応見たけど、日本人顔だったし。だからこそ出会うことで、変な化学反応が起きて状況が変わったら怖いと思って避けてきたのだ。安全にパウの家に嫁ぎたかったから。逆にパウがうちに来ることになったけど。

 言っても詮無きことだけど、この情報を知っていたらもっと早くに動いたのに。両陛下が俺に声をかけなかったのは、まさか神子殿達と同郷だと思わなかったのだろう。俺も、その前提情報が必要だと思わず、何故避けているのか腹を割って伝えてなかったし。人前で同郷っぽいから、とは言えない。かといって、人払いしてまで話す必要も感じていなかったのだ。


「ユーハン殿にも説明したいが、一応機密事項となっているので許可を取るまで待って欲しい。こんなことがなくとも、そのうち許可は出ていたはずなんだ、ユーハン殿にも関わる話だから」
「……承知いたしました。両陛下のご判断をお待ちしましょう」
「苦労ばかりかけて悪いと思っている。ユーハン殿、隣に」


 向かいのソファーにいるユーハン殿を、隣に呼び寄せる。ケネスが席を外した今なら、ちょっぴりユーハン殿を甘やかしても文句は出ないだろう。なんか不安そうに見えなくもないし。そりゃあ予想外の爆弾が出てきたら、どうなるか不安だろう。しかも、その頃は問題の第一王子の陣営にいたのだから。

 ゆったりとした動作で、俺の隣にきたユーハン殿を、肩を抱き寄せる。顎をそっと掴んでこちらへ向かせると、額にキスをする。途端に真っ赤になって視線を下げる姿に悪戯したくなって、そっと唇へキスした。
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