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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情
1-17.次から次へと出てくる恐ろしい事実を直視できない
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翌日、またシェンティスが乱入して大騒動になりかけたが、それを除けば平和に日々が過ぎていった。シェンティスとケニーで使用済端切れの取り合い、という意味の分からないイベントがあったり。相変わらず粛々と俺がリモへ襲名する根回しが行われて、各所が右往左往していたり。
それでも、政務を回されていない学園に向けて準備するしかない未就学者である俺は、今までとさして変わらない日々を送っていた。いや、婚約者が増えたからご機嫌伺いの手紙の書く数が単純に増えたり、ちょっとケニーとの距離感でギクシャクしたりはあったけど。
なお、爺はあの日の翌日に満足そうに頷くだけで、何も言わなかった。なので一応は合格がもらえたらしい。ケニーを隠されることもなく、一応閨の御供のお役目という名目で3~4日に一度ほど呼び出しているけど、それもお咎めなし。平和だった。
だいたい、ユーハン殿が婚約者に内定して一ヶ月ほど。秋が深まった頃に、ユーハン殿が衝撃の事実を抱えて、俺の執務室にやってきた。
「ユーハン殿、今なんと?」
「ですから、私がこちらに移動すると共に殿下へ執務が回ってくることになりました。ご迷惑をおかけしますが、お手伝いしますのでご承知おきください」
「そろそろ、あの男のことを異母兄上と呼ばなくていい気がしてきた。ユーハン殿といい、私といい、何で周りが尻拭いを……」
苦笑いしながら、ユーハン殿は困ったように小首をかしげるにとどめていた。
ユーハン殿は第一王子の執務室付きの補佐文官を数名引き抜いて、今後は俺の執務室に詰めることになるらしい。ついでに、半年後には俺も元々政務が回される予定だったのだからと、今からでもいいよねと第一王子の執務の大半も一緒にこっちへ来てしまうらしい。なんだ、この理不尽。でも、リモになるならどうせ第一王子へと回っていた執務は俺の担当になるだろうし、ユーハン殿がいるから困りはしないだろう。ちょっと腹立たしいだけで。
取り敢えず、俺の執務室の隣に補佐文官が常駐することになるので、彼らにはそちらを確認して貰うことにした。色々な雑務を彼らが引き受けてくれて、俺が雑事に煩わされないよう手伝ってくれるのだ。まあ、だから俺の目に触れる前に彼らが確認する訳で、一緒の部屋には居ないことになっている。
ユーハン殿は婚約者だし、俺と一緒に執務に当たることになるので、同じ部屋にそれぞれの机がある。この執務机の大きさが、今後回ってくるであろう政務の膨大さを予感させられて、げんなりする。
「ユーハン殿には、苦労ばかりかけるな」
「いえ、クレーメンス殿下はこうして奏上すれば聞いていただけるので、だいぶはかどります」
「……本当に、異母兄上がすまない」
本当に、ろくなことしないな! あの男! イライラしながら、せめて俺だけでもユーハン殿に無理させないように頑張らねば、とふんすと鼻息荒くしていると、くすくすと笑う美しい麗人。そういえば、この人は俺のモノになったんだった。そう思うと愛しくて、ちょいちょい、と手招きする。
不思議そうに近寄ってくる姿も可愛いな、と思いながら頬へ口づけて執務机へ逃げた。なんか恥ずかしくなってしまった、一応頬へのキスなら親愛を示すから婚約者にするのは問題ないはずだけども。
無駄に立派な椅子に座り、ユーハン殿の方へ視線を滑らせると、顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。申し訳なくなりながら、名を呼んで呼び寄せる。
「それで、私が処理しなければいけないのは何だ? 察するに、あの男はサインしかしていなかっただろうが」
「まず殿下にして頂きたいのは、……――」
ユーハン殿に処理すべきこと、学ぶことを教示してもらいながら、メモをとる。俺の脳ミソだって万能じゃないからね。そして、粗方の説明後に、俺のサインでももう通るようになっているから、急ぎの書類のサインをお願いしたいと。それから、しばらくはサインするだけのマシンと化した。腕が痛い。
しばらくして、ブレイクタイムにしようということで、執務室の休憩エリアともいえるソファーとローテーブルだけの簡易な場所に座る。紅茶をもらいながら、気になることを聞かされた。
「最近、神子様が神殿に現れるようになったそうですよ。でも、第一王子殿下方とは一緒に居らず、掃除など奉仕活動をされているんだとか」
「神子殿が、あの引っ付き虫どもと一緒に居ない? そんなことがあるのか?」
「そこまでは……。民からの噂話ですが、少し印象が良くなる噂ですので使えないかとは思案しておりました」
「神子殿が、奉仕活動……?」
その時、俺の前世の記憶が疼く、というと中二病真っ只中だが。とにかく俺の勘か何かが訴えていた。神子殿は、BLゲームの主人公の如く振る舞い、イケメンを侍らせて喜んでいる男だ。そんな男が、今更民への好感度上げに奉仕活動……?
嫌な予感がして、ユーハン殿に質問を重ねていく。
「ユーハン殿は、神子殿のご降臨の際に同席していたか?」
「いえ、私は外されておりましたので、後から周りに聞いたのみです」
「ご降臨の際に同席されたのは、誰だったか覚えているか?」
挙げられていく名前と、自分の人物名鑑を照らし合わせていく。どう考えても、第一王子に阿る愚物か、善良だが後ろ盾のない弱者しか居なかったようだ。どう考えても示し合わせたように、第一王子に都合がいいように転がせる人物ばかりだ。聞けば、神子殿の件は第一王子預かりの案件で、両陛下は報告を受けるに留めたらしい。まあ、これで友情や慕情が芽生えればいいと思ったのだろう。
が、今回はそれはマズいように思う。
「アッサール。居るか?」
「――はっ、我が君こちらに。初めまして、我が君の嫁御殿。わたくしは我が君専属の影なれば、お見知りおきください」
「アッサール、お前が掴んでいる情報を話せ。まさかとは思うが、二人目が存在するとか、そんな馬鹿げた話はないよな?」
「……ふたりめ?」
嫌な予感そのままに、答え合わせを望めば返ってきた言葉にガックリ項垂れた。ユーハン殿は目をぱちくりしてて可愛い、じゃなくて驚愕していたようだけれど、流石は秀才だ。俺の言った真意を悟って、目を大きく見開いている。
何で今回に限って、コイツは情報を流してくれなかったんだ! 俺が知りたいと言わなければ、答えないのは当たり前の話だけど!
「流石は我が君、これだけの情報でそこまで辿り着くとは感服致しました。ご推察の通り、二人目の君もご降臨なさっております。彼の君は、表の神子様の双子の兄君だそうですよ。両陛下が頭を悩ませているのは、どちらかというと完全にこの世界に不信感を抱いてしまった二人目の君の扱いでございますね。それもあって、第一王子殿下をどうするか決めあぐねているようです」
「勘弁してくれ、何で巻き込まれまで居るんだ……」
「殿下、巻き込まれ、とは……?」
「言葉の意味通りでいい、取り敢えず巻き込み事故に遭った被害者であると思っていいだろう」
まさか、静観していたらアウトな案件が神殿に隠れているとは思わないだろ! ホントろくなことしないな、異母兄上! ついでに愛の女神様、腐女子な神様とか言い出さないだろうな!? この状況、なんか巻き込まれた人が可哀想なんだが……。
それでも、政務を回されていない学園に向けて準備するしかない未就学者である俺は、今までとさして変わらない日々を送っていた。いや、婚約者が増えたからご機嫌伺いの手紙の書く数が単純に増えたり、ちょっとケニーとの距離感でギクシャクしたりはあったけど。
なお、爺はあの日の翌日に満足そうに頷くだけで、何も言わなかった。なので一応は合格がもらえたらしい。ケニーを隠されることもなく、一応閨の御供のお役目という名目で3~4日に一度ほど呼び出しているけど、それもお咎めなし。平和だった。
だいたい、ユーハン殿が婚約者に内定して一ヶ月ほど。秋が深まった頃に、ユーハン殿が衝撃の事実を抱えて、俺の執務室にやってきた。
「ユーハン殿、今なんと?」
「ですから、私がこちらに移動すると共に殿下へ執務が回ってくることになりました。ご迷惑をおかけしますが、お手伝いしますのでご承知おきください」
「そろそろ、あの男のことを異母兄上と呼ばなくていい気がしてきた。ユーハン殿といい、私といい、何で周りが尻拭いを……」
苦笑いしながら、ユーハン殿は困ったように小首をかしげるにとどめていた。
ユーハン殿は第一王子の執務室付きの補佐文官を数名引き抜いて、今後は俺の執務室に詰めることになるらしい。ついでに、半年後には俺も元々政務が回される予定だったのだからと、今からでもいいよねと第一王子の執務の大半も一緒にこっちへ来てしまうらしい。なんだ、この理不尽。でも、リモになるならどうせ第一王子へと回っていた執務は俺の担当になるだろうし、ユーハン殿がいるから困りはしないだろう。ちょっと腹立たしいだけで。
取り敢えず、俺の執務室の隣に補佐文官が常駐することになるので、彼らにはそちらを確認して貰うことにした。色々な雑務を彼らが引き受けてくれて、俺が雑事に煩わされないよう手伝ってくれるのだ。まあ、だから俺の目に触れる前に彼らが確認する訳で、一緒の部屋には居ないことになっている。
ユーハン殿は婚約者だし、俺と一緒に執務に当たることになるので、同じ部屋にそれぞれの机がある。この執務机の大きさが、今後回ってくるであろう政務の膨大さを予感させられて、げんなりする。
「ユーハン殿には、苦労ばかりかけるな」
「いえ、クレーメンス殿下はこうして奏上すれば聞いていただけるので、だいぶはかどります」
「……本当に、異母兄上がすまない」
本当に、ろくなことしないな! あの男! イライラしながら、せめて俺だけでもユーハン殿に無理させないように頑張らねば、とふんすと鼻息荒くしていると、くすくすと笑う美しい麗人。そういえば、この人は俺のモノになったんだった。そう思うと愛しくて、ちょいちょい、と手招きする。
不思議そうに近寄ってくる姿も可愛いな、と思いながら頬へ口づけて執務机へ逃げた。なんか恥ずかしくなってしまった、一応頬へのキスなら親愛を示すから婚約者にするのは問題ないはずだけども。
無駄に立派な椅子に座り、ユーハン殿の方へ視線を滑らせると、顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。申し訳なくなりながら、名を呼んで呼び寄せる。
「それで、私が処理しなければいけないのは何だ? 察するに、あの男はサインしかしていなかっただろうが」
「まず殿下にして頂きたいのは、……――」
ユーハン殿に処理すべきこと、学ぶことを教示してもらいながら、メモをとる。俺の脳ミソだって万能じゃないからね。そして、粗方の説明後に、俺のサインでももう通るようになっているから、急ぎの書類のサインをお願いしたいと。それから、しばらくはサインするだけのマシンと化した。腕が痛い。
しばらくして、ブレイクタイムにしようということで、執務室の休憩エリアともいえるソファーとローテーブルだけの簡易な場所に座る。紅茶をもらいながら、気になることを聞かされた。
「最近、神子様が神殿に現れるようになったそうですよ。でも、第一王子殿下方とは一緒に居らず、掃除など奉仕活動をされているんだとか」
「神子殿が、あの引っ付き虫どもと一緒に居ない? そんなことがあるのか?」
「そこまでは……。民からの噂話ですが、少し印象が良くなる噂ですので使えないかとは思案しておりました」
「神子殿が、奉仕活動……?」
その時、俺の前世の記憶が疼く、というと中二病真っ只中だが。とにかく俺の勘か何かが訴えていた。神子殿は、BLゲームの主人公の如く振る舞い、イケメンを侍らせて喜んでいる男だ。そんな男が、今更民への好感度上げに奉仕活動……?
嫌な予感がして、ユーハン殿に質問を重ねていく。
「ユーハン殿は、神子殿のご降臨の際に同席していたか?」
「いえ、私は外されておりましたので、後から周りに聞いたのみです」
「ご降臨の際に同席されたのは、誰だったか覚えているか?」
挙げられていく名前と、自分の人物名鑑を照らし合わせていく。どう考えても、第一王子に阿る愚物か、善良だが後ろ盾のない弱者しか居なかったようだ。どう考えても示し合わせたように、第一王子に都合がいいように転がせる人物ばかりだ。聞けば、神子殿の件は第一王子預かりの案件で、両陛下は報告を受けるに留めたらしい。まあ、これで友情や慕情が芽生えればいいと思ったのだろう。
が、今回はそれはマズいように思う。
「アッサール。居るか?」
「――はっ、我が君こちらに。初めまして、我が君の嫁御殿。わたくしは我が君専属の影なれば、お見知りおきください」
「アッサール、お前が掴んでいる情報を話せ。まさかとは思うが、二人目が存在するとか、そんな馬鹿げた話はないよな?」
「……ふたりめ?」
嫌な予感そのままに、答え合わせを望めば返ってきた言葉にガックリ項垂れた。ユーハン殿は目をぱちくりしてて可愛い、じゃなくて驚愕していたようだけれど、流石は秀才だ。俺の言った真意を悟って、目を大きく見開いている。
何で今回に限って、コイツは情報を流してくれなかったんだ! 俺が知りたいと言わなければ、答えないのは当たり前の話だけど!
「流石は我が君、これだけの情報でそこまで辿り着くとは感服致しました。ご推察の通り、二人目の君もご降臨なさっております。彼の君は、表の神子様の双子の兄君だそうですよ。両陛下が頭を悩ませているのは、どちらかというと完全にこの世界に不信感を抱いてしまった二人目の君の扱いでございますね。それもあって、第一王子殿下をどうするか決めあぐねているようです」
「勘弁してくれ、何で巻き込まれまで居るんだ……」
「殿下、巻き込まれ、とは……?」
「言葉の意味通りでいい、取り敢えず巻き込み事故に遭った被害者であると思っていいだろう」
まさか、静観していたらアウトな案件が神殿に隠れているとは思わないだろ! ホントろくなことしないな、異母兄上! ついでに愛の女神様、腐女子な神様とか言い出さないだろうな!? この状況、なんか巻き込まれた人が可哀想なんだが……。
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