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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情
1-8.ラナンキュラス【飾らない美しさ】の君と、孤独な秀才と
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王宮の本宮にある応接室のひとつ。ここは、普段母上の離宮で過ごしている俺でも使える、王族が私的な利用も出来るようになっている応接室である。そこで、パウリーネと彼女の侍女、俺と侍従としてケネス、それと本宮の使用人が何名か。事前に口が堅い信用のおける者を、と宰相殿に依頼していたが、人払いすべきレベルの爆弾発言ばかりである。
「ねぇ、パウ。何をもってケネスに話を振ったんだい?」
「ええ? 何故って、ケネス様もわたくしもレーメ様を愛する同士ではないですか。わたくし、ケネス様がレーメ様を愛しているからこそ受け入れましたのよ。婚約者達だってそうですわ、レーメ様を愛している方々だからこそ受け入れることが出来たのです」
「パウの基準って私基準なんだね……」
何を当たり前のことを、とでも言いたげなきょとんとした彼女に、曖昧な笑みで誤魔化した。そっと彼女の侍女に視線を送ると、ゆるく首を振っていた。処置なし、ということらしい。確かこの侍女、彼女の乳姉妹でもあったのではなかったか、だとしたらパウリーネは一生このままなのだろうか。
確かにパウとは親密な関係を築けていただろう。それを、俺がリモになるからハイさよなら、というのは受け入れ難かったのは事実だ。しかし、同じくリモである彼女をどうこうできる訳ではなかったのだ。それが、彼女がルツォに、俺に嫁げるように身辺整理したと言ってきた。これは、『愛に生きる』という人間のお手本にもなり得る鮮やかな手並みである。そして、俺は彼女を独占することが出来るのだ。それこそ、俺とパウの立場が入れ替わることになるが、彼女はそれでも俺が良いと言ってくれている。
――これで腹を括れなかったら、男じゃないな。いや、今世風に言うなら雄じゃない、だろうけども。
「パウリーネ」
「はい、レーメ様」
「今は、君の言う通り私の立場は不安定だ。だが、パウと一緒に居ることが出来る未来を選べるのであれば、私は足掻きたいと思う」
「っはい! このパウリーネ、いつまでもお待ちいたします! わたくしの心はいつでもレーメ様の傍に」
「愛しのラナンキュラス、これだけしか言えない私をゆるしておくれ」
「いいえっ、いいえ! わたくしは、レーメ様の愛を疑ったことはございません。いついかなる時でも、パウリーネはレーメ様のモノにございます」
今、パウリーネに伝えられるのはギリギリ此処までだ。それでも、信じてくれるという彼女に甘えて、少しでも結果を出さねばならぬと思う。ちなみに、後で自室に戻って爺に手紙は来てないか尋ねたら、本当に彼女の元婚約者から俺の雌になりたいという、色々ギリギリな恋文と呼ぶには欲望に爛れた手紙が届いていて戦慄した。
* * *
「――雌の勘、って恐ろしいですね……」
「それもそうだけど、未だに俺はパウが雌というのが信じられないよ。あの才気はどちらかというと雄の気質だろう」
「もしかして、リンドフォーシュ公爵令嬢も雄だけどレーメ様にだけ雌になる、ということは……」
「……否定できないのがつらい」
パウリーネと会った夜、就寝前に顔を見せたケネスをとっ捕まえた。ついでに、第十側妃を了承させた時と同じように、俺の膝の上に横座りに乗せた。抵抗されたが、この間は嫌がらなかったことを指摘したら諦めてくれたらしい。片手はケネスと恋人つなぎをして、もう片手はケネスの腰を撫でているのだが、腰の方の手は定期的にべしべし遠慮なく叩かれる。それでも触るけど。この雌は俺のモノにしてもいいんだ、と思ったらケネスの全部がエロく見える。それでも俺はヘタレ童貞なので間違いは起きようがない、だから安心してほしい。そんなこと、情けなさ過ぎて言えないけど。
「そうだ。アッサール、いる?」
「――お呼びでしょうか、我が君」
「お前、パウリーネの元婚約者達が、どれくらい俺に本気かとか、政略的にどうか王妃陛下がどう判断されているかとか、何でもいいが何か知らないか?」
俺の影となった元暗殺者を呼ぶと、衣擦れの音すらなく全身真っ黒な装束の男――アッサールが現れた。相変わらずの反応速度である、やっぱり俺がいる場所は基本的に盗聴しているのではないだろうか。俺の中では、アッサールはヤンデレストーカー男である。王妃陛下が雇用という形で枷をつけているからこそ、俺はアッサールと接することが出来るのだと思う。それくらい、アッサールは俺ガチ勢だった。パウリーネといい勝負だ、……まさかパウリーネと手を組んでいたりしないだろうな? 特にそういうことは聞いてはいないが、不安になってきた。
ちなみに、アッサールの素顔はエメラルドグリーンの髪に、妖しい紅い瞳の持ち主の美丈夫である。なんというか、影には向かない目立つ容姿の男だ。
「あの熱い手紙を送ってきた者達なら、我が君が動かずとも両陛下が検討して動いておりますよ。なんせ我が君を中心として集まっていた者達なので、全員は難しくとも数名は側妃候補として名が挙がっております」
「ちなみに、本気度は……?」
「愚問にございます。我が君を前にして、どうして惹かれずにいられましょうや。そもそも雄が雌になるというのは、本気で抱かれたくなければ当人には受け入れ難いことにございます」
思わず、ケネスをぎゅっと抱きしめる。まさかそれほどに彼らに好かれているとは思わなかったし、今でも信じがたい。そもそも、ハーレム入りの予定がハーレムを築くことになるというのも、違和感がハンパないのだ。自分の取り巻く環境がものすごい勢いで変化していて、把握しきれず空恐ろしい気がしている。
しかし、その恐ろしい流れは俺が覚悟することを待ってくれない。
「嗚呼、我が君。お耳に入れたい情報がございます」
「何だ?」
「つい数時間前、第一王子殿下のブレーンが暇を出されたようにございます。彼の方は、第一王子殿下の執務の大半を担っていたと聞き及んでおります。是非とも、我が君にご検討いただきたく」
「異母兄上のブレーン? それって、確か……」
「ユーハン・ルツォ・スヴェンデン公爵令息、彼の方にございます」
「ねぇ、パウ。何をもってケネスに話を振ったんだい?」
「ええ? 何故って、ケネス様もわたくしもレーメ様を愛する同士ではないですか。わたくし、ケネス様がレーメ様を愛しているからこそ受け入れましたのよ。婚約者達だってそうですわ、レーメ様を愛している方々だからこそ受け入れることが出来たのです」
「パウの基準って私基準なんだね……」
何を当たり前のことを、とでも言いたげなきょとんとした彼女に、曖昧な笑みで誤魔化した。そっと彼女の侍女に視線を送ると、ゆるく首を振っていた。処置なし、ということらしい。確かこの侍女、彼女の乳姉妹でもあったのではなかったか、だとしたらパウリーネは一生このままなのだろうか。
確かにパウとは親密な関係を築けていただろう。それを、俺がリモになるからハイさよなら、というのは受け入れ難かったのは事実だ。しかし、同じくリモである彼女をどうこうできる訳ではなかったのだ。それが、彼女がルツォに、俺に嫁げるように身辺整理したと言ってきた。これは、『愛に生きる』という人間のお手本にもなり得る鮮やかな手並みである。そして、俺は彼女を独占することが出来るのだ。それこそ、俺とパウの立場が入れ替わることになるが、彼女はそれでも俺が良いと言ってくれている。
――これで腹を括れなかったら、男じゃないな。いや、今世風に言うなら雄じゃない、だろうけども。
「パウリーネ」
「はい、レーメ様」
「今は、君の言う通り私の立場は不安定だ。だが、パウと一緒に居ることが出来る未来を選べるのであれば、私は足掻きたいと思う」
「っはい! このパウリーネ、いつまでもお待ちいたします! わたくしの心はいつでもレーメ様の傍に」
「愛しのラナンキュラス、これだけしか言えない私をゆるしておくれ」
「いいえっ、いいえ! わたくしは、レーメ様の愛を疑ったことはございません。いついかなる時でも、パウリーネはレーメ様のモノにございます」
今、パウリーネに伝えられるのはギリギリ此処までだ。それでも、信じてくれるという彼女に甘えて、少しでも結果を出さねばならぬと思う。ちなみに、後で自室に戻って爺に手紙は来てないか尋ねたら、本当に彼女の元婚約者から俺の雌になりたいという、色々ギリギリな恋文と呼ぶには欲望に爛れた手紙が届いていて戦慄した。
* * *
「――雌の勘、って恐ろしいですね……」
「それもそうだけど、未だに俺はパウが雌というのが信じられないよ。あの才気はどちらかというと雄の気質だろう」
「もしかして、リンドフォーシュ公爵令嬢も雄だけどレーメ様にだけ雌になる、ということは……」
「……否定できないのがつらい」
パウリーネと会った夜、就寝前に顔を見せたケネスをとっ捕まえた。ついでに、第十側妃を了承させた時と同じように、俺の膝の上に横座りに乗せた。抵抗されたが、この間は嫌がらなかったことを指摘したら諦めてくれたらしい。片手はケネスと恋人つなぎをして、もう片手はケネスの腰を撫でているのだが、腰の方の手は定期的にべしべし遠慮なく叩かれる。それでも触るけど。この雌は俺のモノにしてもいいんだ、と思ったらケネスの全部がエロく見える。それでも俺はヘタレ童貞なので間違いは起きようがない、だから安心してほしい。そんなこと、情けなさ過ぎて言えないけど。
「そうだ。アッサール、いる?」
「――お呼びでしょうか、我が君」
「お前、パウリーネの元婚約者達が、どれくらい俺に本気かとか、政略的にどうか王妃陛下がどう判断されているかとか、何でもいいが何か知らないか?」
俺の影となった元暗殺者を呼ぶと、衣擦れの音すらなく全身真っ黒な装束の男――アッサールが現れた。相変わらずの反応速度である、やっぱり俺がいる場所は基本的に盗聴しているのではないだろうか。俺の中では、アッサールはヤンデレストーカー男である。王妃陛下が雇用という形で枷をつけているからこそ、俺はアッサールと接することが出来るのだと思う。それくらい、アッサールは俺ガチ勢だった。パウリーネといい勝負だ、……まさかパウリーネと手を組んでいたりしないだろうな? 特にそういうことは聞いてはいないが、不安になってきた。
ちなみに、アッサールの素顔はエメラルドグリーンの髪に、妖しい紅い瞳の持ち主の美丈夫である。なんというか、影には向かない目立つ容姿の男だ。
「あの熱い手紙を送ってきた者達なら、我が君が動かずとも両陛下が検討して動いておりますよ。なんせ我が君を中心として集まっていた者達なので、全員は難しくとも数名は側妃候補として名が挙がっております」
「ちなみに、本気度は……?」
「愚問にございます。我が君を前にして、どうして惹かれずにいられましょうや。そもそも雄が雌になるというのは、本気で抱かれたくなければ当人には受け入れ難いことにございます」
思わず、ケネスをぎゅっと抱きしめる。まさかそれほどに彼らに好かれているとは思わなかったし、今でも信じがたい。そもそも、ハーレム入りの予定がハーレムを築くことになるというのも、違和感がハンパないのだ。自分の取り巻く環境がものすごい勢いで変化していて、把握しきれず空恐ろしい気がしている。
しかし、その恐ろしい流れは俺が覚悟することを待ってくれない。
「嗚呼、我が君。お耳に入れたい情報がございます」
「何だ?」
「つい数時間前、第一王子殿下のブレーンが暇を出されたようにございます。彼の方は、第一王子殿下の執務の大半を担っていたと聞き及んでおります。是非とも、我が君にご検討いただきたく」
「異母兄上のブレーン? それって、確か……」
「ユーハン・ルツォ・スヴェンデン公爵令息、彼の方にございます」
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