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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情
1-6.愛する妻(予定)にようやく伝えられる言葉
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「好ましい、って何だよ……」
「言葉そのままの意味だが。敢えて解説するなら、これは王族の教育方針によるもので、それ以上の言葉は婚約者か婚姻後の自分の妃にしか言ってはいけないと徹底的に叩き込まれる」
「なら殿下は、リンドフォーシュ嫡子様には……」
「言うこと欠いて気になるのはそこか。正式な婚約者ではあったが、セドを返上するか俺が正式にリンドフォーシュ家へハーレム入りするまでは言わない、という決まりだったから守っていた。それこそ、問題視されるのも嫌だったからな」
「王族教育って意味が分からない……」
そこは、全面的に同意するが気にするのがそこというのはどうなのだろう。今の俺が言える言葉で一番直接的な好意を示したつもりだったのだが。いや、前世で彼女……は居たことないけど、それでも好きや愛してるを言わない男は嫌われていたはずだ。そう考えると、俺は不誠実なのかもしれないな。
ちなみに、この意味分からないルールは過去のやらかした王族の教訓により出来た。王族に好きだの何だの言われたら、そりゃあ側妃の仲間入りすると勘違いするだろう。この世界、リモなら側妃は10人もいる訳だし。だから、王族に好ましい、と言われたら雌側から好きだと告白して、正式に婚約者になってやっと王族は愛を囁けるのだ。あと、王族が好きだと言うと余程のことがない限りその相手は側妃に決定する。周りが、特に家族が忖度して、その相手を差し出してしまうのだ。何とも情けなくて泣けてくるエピソードである。ちなみに、過去のやらかした王族は子が一人も出来なかったことでも有名だ。まあ、王族の醜聞を周りに伝える訳にもいかないから、詳しくそれを教えられるのは直系の王族のみである。俺も、父である国王陛下から聞いた。
「なぁ、ケネス。俺、お前に告白したようなものなんだけど。これ以上の言葉を尽くすと、十中八九お前は第十側妃に確定するぞ」
「え、ぁ……」
「本当の本当に、今でないと俺から逃げられないぞ。ついでに言うと、今ここで決断しないと俺は動けないから、ヘテロ主義者によって第十側妃はお前の姉になる」
「っ、それは嫌だ!」
「そうは言っても、ここまで尽くしてくれたお前を無理に第十側妃なんぞの立場に立たせるのは心苦しい。専属侍従の任を解いても、王宮所属か第三王女当たりの侍従として雇うよう爺には言うから、就職先は気にしなくていい」
「っやだやだ! 殿下と一緒に居たい、それは嫌だっ! 第十側妃でもいい、だから殿下の傍に居たい」
ヘテロ主義者とは、男女の恋愛こそ至高という主義を掲げる一団だ。まあ、人間の男女という身体のつくりからすれば合理的だけどね。王族の教育からもそぐわないのだが、それは置くとして。
第十側妃という立場は、国王陛下のメンタルケア担当なだけというレッテルが貼られているから、夫である陛下が顧みないと本当に捨て置かれる妃でもあるのだ。幸いなことに、頻度は低くとも父上は全ての妃と交流を持っているようなので、父上を幻滅せずに済んでいる。まあ俺の母上のように、月1度ほどの交流という捨て置かれる妃もいる訳だが。母上の希望で、自分より王妃陛下へ父上の時間を捧げたいと申し出ているそうなので、こんな夫婦の形もあるのだろう。たぶん、きっと、……ちょっと理解できないが。
そういう立場になるというのは、俺と一緒に過ごしてきたケネスはよく知っているだろう。なおかつ、異母兄上の乳兄弟ほどではなくとも、ケネスにだって口さがない者はそれなりに居たはずだ。それでも、俺の傍が良い、と言ってくれたのだから感動で胸いっぱいになる。
「――愛してる、ケネス。お前は俺のモノだ、分かったな?」
「ぅ、あ、……わかった」
「本当か? 愛妾になれって言ってるハゲ大臣とか色々いるだろ、俺のためになるのなら……って悩んでるの聞いてるんだからな」
「はあ!? 何で殿下が知っているんだよ、母上か?」
「いや、アッサール。あいつ、俺に必要だと思ったら上を通さずとも情報流してくれるから助かる」
「……殿下の周りって、癖の強いヤツばっかだよな」
「そんなこと言っていると、アッサールからまた黒歴史暴露されるぞ」
「もしかしなくても、俺の、その、……っ性事情をバラしたのはアッサールだな!?」
その質問には答えづらいので、そっぽを向くに留めた。未だに膝の上にいるケネスからジト目で見られている気がしなくもないが、これは答える訳にもいかない。アッサールの手引きで、その現場を視姦するが如くじろじろ見たのは俺自身なので。
アッサールは、俺を狙った暗殺者だ。といっても、のほほんとした現代日本人の感覚が抜けきらない俺が知ったのは、事後処理が済んだあとである。王妃陛下のお茶会に呼び出されたと思ったら、王妃陛下と母上と俺の三人で顔を突き合わせるハメになり。そこで、お前を狙った暗殺者を寝返らせたから、お前の好きにしなさい、とぽーいっと雑に渡されたのだ。暗殺者をプレゼントって、異世界は斬新だな、と遠い目になってしまったのは仕方ないように思う。アッサールに実際に顔合わせした時は、よく分からないが熱のこもった視線を貰いまくった。そして、忠誠を誓います役に立つから捨てないで、と子犬がきゅうんきゅうんと憐れみを誘う悲しげな鳴き声が聞こえてきそうな勢いで縋られたのだ。当時、8歳の俺に縋ってくる自称18歳の青年、めっちゃヤバい図である。よく分からないが、王妃陛下は俺が管理しろと言ったのだから決定事項だし、母上が居るということは離宮で飼ってよしということだと解釈。理解してないのに、元暗殺者で俺専属の影として飼うことになり早6年。アッサールのヤバさが明らかになるだけで、何で俺を主に選んだのかは不明なままである。
アッサールのことはいい、大切なのはケネスが俺のモノになるということである。ご機嫌をとるべく、ジト目のままのケネスの頬に口づけた。思ったよりケネスってば、頬すべすべ。
「これからよろしく、俺の奥さん」
「っ奥さんって柄じゃないけどな。取り敢えずあとでアッサールはシメる」
「言葉そのままの意味だが。敢えて解説するなら、これは王族の教育方針によるもので、それ以上の言葉は婚約者か婚姻後の自分の妃にしか言ってはいけないと徹底的に叩き込まれる」
「なら殿下は、リンドフォーシュ嫡子様には……」
「言うこと欠いて気になるのはそこか。正式な婚約者ではあったが、セドを返上するか俺が正式にリンドフォーシュ家へハーレム入りするまでは言わない、という決まりだったから守っていた。それこそ、問題視されるのも嫌だったからな」
「王族教育って意味が分からない……」
そこは、全面的に同意するが気にするのがそこというのはどうなのだろう。今の俺が言える言葉で一番直接的な好意を示したつもりだったのだが。いや、前世で彼女……は居たことないけど、それでも好きや愛してるを言わない男は嫌われていたはずだ。そう考えると、俺は不誠実なのかもしれないな。
ちなみに、この意味分からないルールは過去のやらかした王族の教訓により出来た。王族に好きだの何だの言われたら、そりゃあ側妃の仲間入りすると勘違いするだろう。この世界、リモなら側妃は10人もいる訳だし。だから、王族に好ましい、と言われたら雌側から好きだと告白して、正式に婚約者になってやっと王族は愛を囁けるのだ。あと、王族が好きだと言うと余程のことがない限りその相手は側妃に決定する。周りが、特に家族が忖度して、その相手を差し出してしまうのだ。何とも情けなくて泣けてくるエピソードである。ちなみに、過去のやらかした王族は子が一人も出来なかったことでも有名だ。まあ、王族の醜聞を周りに伝える訳にもいかないから、詳しくそれを教えられるのは直系の王族のみである。俺も、父である国王陛下から聞いた。
「なぁ、ケネス。俺、お前に告白したようなものなんだけど。これ以上の言葉を尽くすと、十中八九お前は第十側妃に確定するぞ」
「え、ぁ……」
「本当の本当に、今でないと俺から逃げられないぞ。ついでに言うと、今ここで決断しないと俺は動けないから、ヘテロ主義者によって第十側妃はお前の姉になる」
「っ、それは嫌だ!」
「そうは言っても、ここまで尽くしてくれたお前を無理に第十側妃なんぞの立場に立たせるのは心苦しい。専属侍従の任を解いても、王宮所属か第三王女当たりの侍従として雇うよう爺には言うから、就職先は気にしなくていい」
「っやだやだ! 殿下と一緒に居たい、それは嫌だっ! 第十側妃でもいい、だから殿下の傍に居たい」
ヘテロ主義者とは、男女の恋愛こそ至高という主義を掲げる一団だ。まあ、人間の男女という身体のつくりからすれば合理的だけどね。王族の教育からもそぐわないのだが、それは置くとして。
第十側妃という立場は、国王陛下のメンタルケア担当なだけというレッテルが貼られているから、夫である陛下が顧みないと本当に捨て置かれる妃でもあるのだ。幸いなことに、頻度は低くとも父上は全ての妃と交流を持っているようなので、父上を幻滅せずに済んでいる。まあ俺の母上のように、月1度ほどの交流という捨て置かれる妃もいる訳だが。母上の希望で、自分より王妃陛下へ父上の時間を捧げたいと申し出ているそうなので、こんな夫婦の形もあるのだろう。たぶん、きっと、……ちょっと理解できないが。
そういう立場になるというのは、俺と一緒に過ごしてきたケネスはよく知っているだろう。なおかつ、異母兄上の乳兄弟ほどではなくとも、ケネスにだって口さがない者はそれなりに居たはずだ。それでも、俺の傍が良い、と言ってくれたのだから感動で胸いっぱいになる。
「――愛してる、ケネス。お前は俺のモノだ、分かったな?」
「ぅ、あ、……わかった」
「本当か? 愛妾になれって言ってるハゲ大臣とか色々いるだろ、俺のためになるのなら……って悩んでるの聞いてるんだからな」
「はあ!? 何で殿下が知っているんだよ、母上か?」
「いや、アッサール。あいつ、俺に必要だと思ったら上を通さずとも情報流してくれるから助かる」
「……殿下の周りって、癖の強いヤツばっかだよな」
「そんなこと言っていると、アッサールからまた黒歴史暴露されるぞ」
「もしかしなくても、俺の、その、……っ性事情をバラしたのはアッサールだな!?」
その質問には答えづらいので、そっぽを向くに留めた。未だに膝の上にいるケネスからジト目で見られている気がしなくもないが、これは答える訳にもいかない。アッサールの手引きで、その現場を視姦するが如くじろじろ見たのは俺自身なので。
アッサールは、俺を狙った暗殺者だ。といっても、のほほんとした現代日本人の感覚が抜けきらない俺が知ったのは、事後処理が済んだあとである。王妃陛下のお茶会に呼び出されたと思ったら、王妃陛下と母上と俺の三人で顔を突き合わせるハメになり。そこで、お前を狙った暗殺者を寝返らせたから、お前の好きにしなさい、とぽーいっと雑に渡されたのだ。暗殺者をプレゼントって、異世界は斬新だな、と遠い目になってしまったのは仕方ないように思う。アッサールに実際に顔合わせした時は、よく分からないが熱のこもった視線を貰いまくった。そして、忠誠を誓います役に立つから捨てないで、と子犬がきゅうんきゅうんと憐れみを誘う悲しげな鳴き声が聞こえてきそうな勢いで縋られたのだ。当時、8歳の俺に縋ってくる自称18歳の青年、めっちゃヤバい図である。よく分からないが、王妃陛下は俺が管理しろと言ったのだから決定事項だし、母上が居るということは離宮で飼ってよしということだと解釈。理解してないのに、元暗殺者で俺専属の影として飼うことになり早6年。アッサールのヤバさが明らかになるだけで、何で俺を主に選んだのかは不明なままである。
アッサールのことはいい、大切なのはケネスが俺のモノになるということである。ご機嫌をとるべく、ジト目のままのケネスの頬に口づけた。思ったよりケネスってば、頬すべすべ。
「これからよろしく、俺の奥さん」
「っ奥さんって柄じゃないけどな。取り敢えずあとでアッサールはシメる」
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