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第1章 転がり落ちてきた玉座への道と、繰り上がり王太子の嫁取り事情
1-4.ずっと支えてくれた君に選んで欲しい未来
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第七側妃である母上の離宮にある私室に戻り、ソファーにどかりと雑に座る。ソファーの背に凭れるのは行儀が悪いと知ってはいるが、今日だけは許してほしいところだ。俺の様子が可笑しいと思っているのか、乳兄弟で侍従として傍に居てくれるケネスも何も言わずに、茶の用意をしてくれている。
気が付けば人払いされたのか、部屋にはケネスしかおらず紅茶を淹れるカチャカチャと茶器が触れ合う音しかしない。よく見れば、部屋の隅にさり気なく置かれている防音魔術が組み込まれてある魔道具も発動されているから、めっちゃ気を遣われていることが分かる。
そこでふと、気付いた思い付きを何も考えずそのまま口にした。
「なぁ、ケネス。俺の嫁になる?」
「ぅ、なっ、ちょっと待てお前! 落ち込んでると思ったら、何を言い出すんだこのバカ!」
「いや、正当な疑問なんだよ。なんせ、王家のリモになれって言われたからさ。セドの役目を正しく果たすことになる訳だ。ということは、乳兄弟であるお前は俺の嫁になる権利がある。なら、聞かなきゃならんだろ」
「いやいやいや、権利ってなんだよ……」
ガチャッ、と大きな音が聞こえたが、たぶん割れてはいないだろう。ケネスの方を見ても、そこは大丈夫なようで零したらしいお湯を拭きながら文句を言っている。ケガもなさそうで何より、と視線を戻した。
リモは王太子とイコールではないが、ニアイコールである。要は、王位継承権第一位の者がリモと名乗る訳で、王太子と次代の国王としてふさわしいと資質を示すことで立太子となる。基本的には、15歳から3年間通う学園で問題を起こさなければ卒業してすぐに立太子の儀が行われる心積もりだ。しかし、俺の2つ上の異母兄は16歳、まだ学園生であるから立太子はしていない。そして、今現在進行形で問題を起こしているようなものだから、リモが剥奪されて今後はよくてルツォ落ちである。まあ、異母兄の処遇は神子が関わっているから慎重に検討されることになるだろうということしか、今は決まっていないはずだ。
そして、リモの役目の1つとして、各家が定めた人数のいわゆるハーレムメンバーを集める必要がある。王家は確実に子を為す必要があるため、10人の婚約者候補を立てる必要があるのだ。通称「十妃」、そのまんまの意味である。そのうち5人は、学園に入学前には決めることになっている。残り5名は上の思惑はあるが、自分で捕まえてくる必要があるのだ。そのうちの一人として、第十側妃という一番下の立場にはなるが、乳兄弟はその第十側妃になる権利がある。まあ、国王となる人間に気心の知れた存在を、というメンタルケアを期待された存在である。だから、自分の子を合法的に妃に取り立てられる王家の乳母という立場は、死ぬほど人気があるそうだ。
で、王家のリモの慣例に則るのであれば、乳兄弟であり侍従としてまで俺の傍に居てくれるケネスは、俺の第十側妃になることを求められることになるだろう。
でも、慣例だのなんだの言う前に、意思確認は必要だ。俺もリモという立場に目を白黒しているが、それだけじゃダメなのは明白だ。
「俺、ケネスにはそれなりに愛されていると思っていたけど?」
「あ、愛され……!?」
「だってお前、侍従になったってことは不妊の魔術が施されてるだろ? 普通はセドの侍従、という時点で断られるものだ。でもお前は変わらず傍に居てくれるし、俺がパウに嫁ぐ時もついてくるつもりでパウにも許可をとっていたじゃないか。逆に好意なくして、どうしてそこまで俺に尽くす?」
「え、ぁ、……っ言う必要あることか?!」
「あるよ、俺の乳兄弟自体はお前以外にもいるだろ。お前の姉、あの人は女で雌って言っていただろう。俺はあの人より、ケネスに傍に居て欲しいけど」
「ぐっ、それを言われると、姉上が出しゃばってくるのは目に見えてるな……」
ケネスには、3つ上の姉がいる。もちろん、俺がセドと決まった10歳の時、彼女が13歳の時に間違いが起こらないように乳姉弟としての関係は、途切れたわけだ。この世界、少し制約はあるが同性同士でも子作りは可能である。異性同士は言わずもがな、となると乳兄弟という教育途中の者を傍に置くのは、血統の流出に繋がる可能性もあるから、問題視されるのだ。
したがって、俺と同い年の14歳であるケネスが俺の傍に侍るには、避妊去勢の効果のある不妊の魔術を受ける必要がある。魔術であるのだから当然解除も出来なくはないが、リスクなしに元通りにいくという訳ではない。一説によると、少なくとも男性機能の方は戻る確率が五分五分らしい。きちんとしつこい程に事前説明があっただろうに、それどもその魔術を受けてまで共に居てくれるケネスは俺にとって救いだった。無論、そこまで献身的に一緒に居てくれるケネスと共に生きる道を考えなかった訳じゃない。でも、こんなに自由恋愛であるくせに身分制度でガチガチな世界で、たった2人で生きていくことは難しい。特に、俺は王子という身分がある。受けてきた贅沢や特権に対して、義務を果たさなければならない。ケネスはそういうものだ、と割り切っているように見えるのに甘えてこの問題は放置してきたわけだが、逆にそれが仇になるとは。悪いことは出来ないな、と自嘲した。
「なぁ、ケネス。俺は卑怯者だから、お前の気持ちに薄々気付きながらも、パウと愛を育んでいたよ。でも、お前を手放す気もなかった最低最悪な男だ。だから、この機会がお前を手放す最後のチャンスだ。逆に言えば、俺がこのままリモとして生きていけば、お前を合法的に愛することが出来るチャンスでもある」
「……なぁ、殿下。それでもそんなお前の傍に居たかった俺は、情けを貰える可能性に縋った俺は悪い奴だろうか」
「さあ、悪いかどうかは分からんが。たぶん、パウも避妊去勢されているという前提とはいえ、俺がお前に情けをかけようとも許してくれたと思うよ」
「そう、か……っ!?」
ケネスがかちゃり、と俺の前に紅茶が置いたのを見計らって足払いをかけた。ついでに身を起こしてケネスの腰を掴み、自分の膝の上に乗せてみた。……前世では童貞でろくに恋愛もしないまま死んだみたいなんだよなぁ、うまくケネスを口説けるだろうか。
気が付けば人払いされたのか、部屋にはケネスしかおらず紅茶を淹れるカチャカチャと茶器が触れ合う音しかしない。よく見れば、部屋の隅にさり気なく置かれている防音魔術が組み込まれてある魔道具も発動されているから、めっちゃ気を遣われていることが分かる。
そこでふと、気付いた思い付きを何も考えずそのまま口にした。
「なぁ、ケネス。俺の嫁になる?」
「ぅ、なっ、ちょっと待てお前! 落ち込んでると思ったら、何を言い出すんだこのバカ!」
「いや、正当な疑問なんだよ。なんせ、王家のリモになれって言われたからさ。セドの役目を正しく果たすことになる訳だ。ということは、乳兄弟であるお前は俺の嫁になる権利がある。なら、聞かなきゃならんだろ」
「いやいやいや、権利ってなんだよ……」
ガチャッ、と大きな音が聞こえたが、たぶん割れてはいないだろう。ケネスの方を見ても、そこは大丈夫なようで零したらしいお湯を拭きながら文句を言っている。ケガもなさそうで何より、と視線を戻した。
リモは王太子とイコールではないが、ニアイコールである。要は、王位継承権第一位の者がリモと名乗る訳で、王太子と次代の国王としてふさわしいと資質を示すことで立太子となる。基本的には、15歳から3年間通う学園で問題を起こさなければ卒業してすぐに立太子の儀が行われる心積もりだ。しかし、俺の2つ上の異母兄は16歳、まだ学園生であるから立太子はしていない。そして、今現在進行形で問題を起こしているようなものだから、リモが剥奪されて今後はよくてルツォ落ちである。まあ、異母兄の処遇は神子が関わっているから慎重に検討されることになるだろうということしか、今は決まっていないはずだ。
そして、リモの役目の1つとして、各家が定めた人数のいわゆるハーレムメンバーを集める必要がある。王家は確実に子を為す必要があるため、10人の婚約者候補を立てる必要があるのだ。通称「十妃」、そのまんまの意味である。そのうち5人は、学園に入学前には決めることになっている。残り5名は上の思惑はあるが、自分で捕まえてくる必要があるのだ。そのうちの一人として、第十側妃という一番下の立場にはなるが、乳兄弟はその第十側妃になる権利がある。まあ、国王となる人間に気心の知れた存在を、というメンタルケアを期待された存在である。だから、自分の子を合法的に妃に取り立てられる王家の乳母という立場は、死ぬほど人気があるそうだ。
で、王家のリモの慣例に則るのであれば、乳兄弟であり侍従としてまで俺の傍に居てくれるケネスは、俺の第十側妃になることを求められることになるだろう。
でも、慣例だのなんだの言う前に、意思確認は必要だ。俺もリモという立場に目を白黒しているが、それだけじゃダメなのは明白だ。
「俺、ケネスにはそれなりに愛されていると思っていたけど?」
「あ、愛され……!?」
「だってお前、侍従になったってことは不妊の魔術が施されてるだろ? 普通はセドの侍従、という時点で断られるものだ。でもお前は変わらず傍に居てくれるし、俺がパウに嫁ぐ時もついてくるつもりでパウにも許可をとっていたじゃないか。逆に好意なくして、どうしてそこまで俺に尽くす?」
「え、ぁ、……っ言う必要あることか?!」
「あるよ、俺の乳兄弟自体はお前以外にもいるだろ。お前の姉、あの人は女で雌って言っていただろう。俺はあの人より、ケネスに傍に居て欲しいけど」
「ぐっ、それを言われると、姉上が出しゃばってくるのは目に見えてるな……」
ケネスには、3つ上の姉がいる。もちろん、俺がセドと決まった10歳の時、彼女が13歳の時に間違いが起こらないように乳姉弟としての関係は、途切れたわけだ。この世界、少し制約はあるが同性同士でも子作りは可能である。異性同士は言わずもがな、となると乳兄弟という教育途中の者を傍に置くのは、血統の流出に繋がる可能性もあるから、問題視されるのだ。
したがって、俺と同い年の14歳であるケネスが俺の傍に侍るには、避妊去勢の効果のある不妊の魔術を受ける必要がある。魔術であるのだから当然解除も出来なくはないが、リスクなしに元通りにいくという訳ではない。一説によると、少なくとも男性機能の方は戻る確率が五分五分らしい。きちんとしつこい程に事前説明があっただろうに、それどもその魔術を受けてまで共に居てくれるケネスは俺にとって救いだった。無論、そこまで献身的に一緒に居てくれるケネスと共に生きる道を考えなかった訳じゃない。でも、こんなに自由恋愛であるくせに身分制度でガチガチな世界で、たった2人で生きていくことは難しい。特に、俺は王子という身分がある。受けてきた贅沢や特権に対して、義務を果たさなければならない。ケネスはそういうものだ、と割り切っているように見えるのに甘えてこの問題は放置してきたわけだが、逆にそれが仇になるとは。悪いことは出来ないな、と自嘲した。
「なぁ、ケネス。俺は卑怯者だから、お前の気持ちに薄々気付きながらも、パウと愛を育んでいたよ。でも、お前を手放す気もなかった最低最悪な男だ。だから、この機会がお前を手放す最後のチャンスだ。逆に言えば、俺がこのままリモとして生きていけば、お前を合法的に愛することが出来るチャンスでもある」
「……なぁ、殿下。それでもそんなお前の傍に居たかった俺は、情けを貰える可能性に縋った俺は悪い奴だろうか」
「さあ、悪いかどうかは分からんが。たぶん、パウも避妊去勢されているという前提とはいえ、俺がお前に情けをかけようとも許してくれたと思うよ」
「そう、か……っ!?」
ケネスがかちゃり、と俺の前に紅茶が置いたのを見計らって足払いをかけた。ついでに身を起こしてケネスの腰を掴み、自分の膝の上に乗せてみた。……前世では童貞でろくに恋愛もしないまま死んだみたいなんだよなぁ、うまくケネスを口説けるだろうか。
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読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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