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第4章<アンナ特製魔方陣ノート>

10、静養

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 セイフィード様が口づけした私のおでこが、熱い⋯⋯。
とても、熱い⋯⋯。
顔全体も熱くなってきた。
きっと私の顔は真っ赤っかに違いない。
は、はずかしい⋯⋯、私は恥ずかしさで、顔を伏せた。
セイフィード様に、色々話したいことや、聞きたいことがあったのに、私は言葉を発するどころか、セイフィード様の顔もみれない。

 その様子を見て、セイフィード様は一旦、立ち上がる。
セイフィード様は背伸びをしたと思ったら、再度私を抱きかかえ、歩き出した。
もちろん、お姫様抱っこで。

「あの⋯、私、歩けます。下ろしてください」

「ダメだ」

「私、重いですし、それに、セイフィード様、疲れているのに⋯⋯」

 私は、もごもごつぶやく。
すると、セイフィード様の顔が近づいてきて、私の頬に口づけをした。

「今度、また口答えしたら、次は口をふさぐぞ」

 セイフィード様は私を真っ直ぐ見つめる。
一瞬、セイフィード様が何を言っているのか、わからなかった。
けれど、ふと、その言葉の意味がわかると、私の顔が、全身が、沸騰するぐらい火照ほてった。
そして、セイフィード様は、私がもう何も言わないとわかると、私の家に向かって再度、歩き出した。

 私の家の玄関手前で、セイフィード様は足を止め、口を開く。

「アンナ、すまなかった。危険な目には合わないと言ったのに、このザマだ」

「あの、でも⋯⋯、それは⋯⋯」

 と私が言いかけた時、玄関のドアが勢いよく開き、シャーロットが駆け寄ってきた。

「アンナ、心配してましたのよ。本当に、私は⋯⋯心配で、心配で⋯⋯」

 シャーロットは泣いている。
それを見たセイフィード様は、私を下ろしてくれた。
そして私はシャーロットに抱きついた。

「シャーロット、ごめんなさい。心配かけてごめんなさい」

 シャーロットは震えている。
ここまで泣いたシャーロットは初めて見る⋯⋯。
私は、本当に浅はかで、大馬鹿なことをしでかしてしまった。

 私が家に入ると、シャーロットの両親も、エレナ様もゾフィー兄様も、みんな優しく私を出迎え、介抱してくれた。
それが反対に⋯⋯、心苦しく辛い。

 そして、セイフィード様は私に起きたことを、簡潔にシャーロットの家の人々に説明した。
また、私の腕輪についても改良する旨を説明してくれ、私が回復したら取りに来て欲しいと述べた。

 その日は、私はよく眠れるという薬を飲み、すぐに眠りについた。
その後、治癒魔法を主として行う白の魔法使いが来てくれたが、私の傷はもう治す所はなく、静養だけが必要とのことだった。
私は、すぐにでもセイフィード様の所に行きたかったが、シャーロットを筆頭に私をなかなかベットから起き上がらせてくれない。
なので、その間に私は、セイフィード様に会ったら何を話すか、悶々と考え込んだ。

 まずは、セイフィード様に謝罪とお礼だ。
謝罪は、セイフィード様にバカっと言ってしまったことだ。
誠心誠意、ごめんなさいしよう。
お礼は、舞踏会で転けた時に助けて貰ったことと、今回の拉致から救ってくれたことだ。
心から、ありがとうの気持ちを伝えよう。

 そして次は⋯⋯、オリヴィア様との婚約について、問い詰める!
もし、婚約が本当だったら⋯⋯、付き合ってるわけじゃないけど、セイフィード様と潔く別れる。
別れて、田舎に帰ろう。
それで、田舎で私が出来ることを探そう⋯⋯。
今だったら、きっと、セイフィード様のこと忘れられるはず⋯⋯、きっと大丈夫。
でも、婚約が本当だったら、なぜセイフィード様は、私に対して、おでこや、ほっぺに口づけしたんだろう。
もしかして、セイフィード様は、犬や猫をを可愛がるようなペット感覚で私に口づけしたのかもしれない。
まさか、オリヴィア様は妻だけど、私はペットだから、問題ないだろ⋯⋯とセイフィード様が思っていたら⋯⋯最悪だ。
あぁ⋯⋯考えれば考えるほど、マイナス思考に陥る。

 気を取り直して、次は、もし婚約が嘘だった場合だ。
その時は、セイフィード様に告白しよう!
でも振られたら⋯⋯、宮廷学校卒業するまで、今まで通り、セイフィード様に接しよう。
その間、勉強に励んで何か私に出来ることを探そう。
逆に、もし⋯⋯、もしセイフィード様が私の愛の告白を受け止めてくれたら⋯⋯きゃーー、恥ずかしい。
“俺も、アンナのこと大好きだぜ”とか言われちゃったらどうしよぉーー。
きゃーーきゃーーそしてそして、口にキスなんかしちゃったり⋯⋯。
妄想が止まらない。

 そして、考えたことを私は忘れないようにメモした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
1、セイフィード様に謝罪&お礼
2、オリヴィアさんの婚約のことを聞く。
3、婚約してたら別れる/婚約してなかったら告白
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私が拉致されてから、5日目にようやくセイフィード様のお屋敷に訪れる許可が出る。
早速、私は書いたメモを握りしめて、セイフィード様のお屋敷に向かおうとしたが、シャーロットが話しかけてきた。

「あら、アンナ。セイフィード様のお屋敷に行くのにケーキは持っていかないのかしら」

「うん⋯⋯、なんとなく」

 もし、婚約が本当だったら、優雅にケーキなんて食べてられないし⋯⋯。
助けてもらって、なんのお礼も持って行かないのは心苦しいけど。

「そうなの。そうそう、セイフィード様だけではなく、第2王子様にもお礼をしに、今度登城するわよ」

「えぇー。そうなんだ⋯⋯、そうだよね」

 第2王子か⋯⋯、めんどいな⋯⋯、助けてもらってなんだけど。
って、なんかシャーロットの顔、赤くないか⋯⋯。
もしかして、もしかして、シャーロットは第2王子のこと好きなのかな⋯⋯。
これは協力しないとね。

「きっと、爆発事件や、今回の拉致の詳細も聞けるかもしれないわ」

 シャーロットは恥ずかしそうに少しうつむいている。
おそらく、シャーロットは爆発事件のことに興味がないはず⋯⋯、ただ単に第2王子に会いたいだけだよね。
シャーロットの恋か~、上手くいって欲しいな。

「うん。じゃあ行ってくるね」

 私はシャーロットに手を振りながら、玄関を出た。
ただ、今回はメイドさんが一緒。
帰宅時間も指定されている。
過保護度合いが凄いけど、あんなことがあったばかりだから、しょうがないよね⋯⋯。

 セイフィード様の屋敷に近づけば近づくほど、あんなにもセイフィード様に会いたかったのに、急に怖気ついてしまった。
これを最後に、もしかしたらセイフィード様と会えなくなるかもしれない。
そう思ったら、急に逃げ出したくなった。
どうしよう⋯⋯、やっぱり体調が悪いと言って引き返そうか⋯⋯。
いやいや、ダメだ。
シャーロットに心配をかけてしまう。
⋯⋯⋯⋯、覚悟決めるしかないよね。
うん!
いざ、出陣だー。
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