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第4章<アンナ特製魔方陣ノート>

4、恋敵

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 第2王子とセイフィード様がケルバロスを倒し、“ラー神の”にようやく静寂せいじゃくがもたらされた。
しかし、この騒ぎを聞きつけた、騎士や、魔法長官らが“ラー神の”に、勢いよく入ってきた。

「これは⋯⋯、一体、何があったのですか!?」

セイフィード様の父親、魔法長官が第2王子にく。

「小規模の爆発と、ケルバロスが出現した。ケルバロスは、俺とセイフィードで倒した」

 第2王子は自慢げに応える。

「そんな⋯⋯、この城は侵入者が容易たやすく入り込めないように、魔法を施してある。それを、打ち破ったということか⋯⋯」

 魔法長官は見るからにショックを受けている。
そして、畳み掛けるように魔法長官は第2王子に質問する。

「犯人は? 首謀者は?」

「それが、この場には居なかった。気配も感じなかった。一応、犯人を探すように、ラウル先生に指示をしてあるが、難しいだろう」

 意外にも第2王子は的確な指示を、ラウル先生にしていた。
第2王子って、ケルバロスも倒したし、案外、凄い人だったんだな。

 そして噂を聞き付けたかのように、ラウル先生も庭園から“ラー神の”に戻ってきた。
何故だか、ラウル先生は少し青ざめている。

「残念だが犯人の足取りはつかめなかった。探索の魔法をかけたが⋯⋯、引っかからなかった」

「その場にいないで、どうやって爆発とケルバロスを出現させたんだ⋯⋯、そんなことが可能なのか⋯⋯」
 
 魔法長官はブツブツ独り言を話し始める。
そに場を行ったり来たりくるくると歩き、自問している。
その時、何か閃いめいたのか、目が輝き、息子であるセイフィード様に質問した。

「⋯⋯そうだ、魔法陣! セイフィード、爆発とケルバロスを出現させた魔法陣はどんなだった?」

「見ていません。それどころではなかったので」

 セイフィード様はお父様である魔法長官の目を見ながらはっきりと答えた。
⋯⋯絶対に嘘だ。
セイフィード様に限って、魔法陣を見逃すなんてありえない。
セイフィード様は私をかばっているんだ。
なぜなら今回の魔法陣には、私が以前考えた“クーラー魔法陣”の一部が使われている。
それは、離れた場所からでも遠隔操作可能な魔法陣だ⋯⋯。
怖い⋯⋯、どうして私の魔法陣が、こんなかたちで使われてしまったんだろう。

 魔法長官は疑いの眼差しをセイフィード様に向けたが、セイフィード様はピクリとも表情を変えない。
すると、魔法長官はセイフィード様と同じ質問を、私にしてきた。

「アンナ、魔法陣がどんなだったか、今回も覚えているんじゃないのか?」

魔法長官の鋭い視線が、私に突き刺さる。

「えっ⋯⋯、あの、その⋯⋯⋯⋯、おっ、おっ、おぼえてません」

 しどろもどろで、私はなんとか応えた。
魔法長官を直視できない、目が泳ぐ⋯⋯⋯。
なぜか、周りの人全員が疑いの目で私を見る。

「⋯⋯⋯⋯⋯そうか、わかった。セイフィード、後で聞きたいことがある。お前は残りなさい」

 うぅ⋯⋯、私の嘘がバレたのかも⋯⋯。
それを詰問きつもんするためにセイフィード様を家に帰さないで、城に留ませるんだ。
嘘つくのが本当に下手で、ごめんなさい、セイフィード様。
私は、心の中で、何度もセイフィード様に謝罪した。

「魔法長官、このラー神の間は封鎖して、徹底的に調査しろ。騎士は怪しい人物がいないか、城中調べろ。王への報告は俺がする」

 第2王子はみんなにテキパキと指示をする。
また、庭園に避難していた人達は、城の別室に案内され、事情聴取後、解散になる。
もちろん私も別室に行く。

「アンナ、もう歩けるか?」

 セイフィード様は、私を力強く支えてくれていた手を緩める。
さっきまでセイフィード様は無表情だったのに、今は、少し柔らかい表情をしている。
恥ずかしいことに、私は今までずーっとセイフィード様にしがみついていた。

「はい、もう大丈夫です。自分で歩けます」

 私は、騎士に連れられて、城の別室に私が入る。
そして私に気づいたシャーロットが駆け寄り、ギュッと抱きついてきた。

「わたくし、心配してましたわ」

「いつも心配かけてばかりだね⋯⋯、ごめんね。シャーロット」

「今回は、アンナは何も悪くないわ」

 シャーロットは優しく私に微笑む。
しかし、本当にそうだろうか⋯⋯。
私は⋯⋯、私の遠隔操作の魔法陣が関わっているから、無関係じゃない。
遠隔操作の魔法陣を知っているのは、宮廷学校のコンテスト関係者、魔法陣学の助手のジークさん、セイフィード様だ。
ラウル先生は、もちろんコンテスト関係者なので、遅かれ早かれ、今回使われた魔法陣が、私が考えた遠隔操作魔法陣だと気づかれるに違いない。
今更になって、セイフィード様がなぜあんなにも怒って、私の“アンナ特製魔法陣ノート”を燃やしたのか、私は理解できた。
⋯⋯⋯⋯⋯私、捕まったりしないよね。

 悶々もんもんと考え込んでいた私に、何か敵意というか、悪意というか、突き刺さるような視線を私は感じた。
セイフィード様とダンスをしたあの赤い髪の女性が、私を恐ろしい形相でにらんでいる。
そうだっ、私には魔法陣なんかより重要な問題があったんだった。
赤い髪の女性のことを調べなければっ。
早速、私は小声でシャーロットに尋ねた。

「ねえねえ、あの赤い髪の女性、シャーロットは知っている?」

「ええ、もちろん知っているわ。名前はオリヴィア・フォン・オズロー。オズロー男爵のご令嬢よ」

 シャーロットは得意げに教えてくれた。

 やった。
私は伯爵家の令嬢だから、男爵家より格が上だ。
恋敵のオリヴィア様に勝った!
顔がにやける。

「オズロー男爵家は貿易業で大変な財を成したと聞いているわ。セイフィード様の家とは魔法道具の貿易に関連してお付き合いがあるそうよ」

シャーロットは続けざまに私に説明してくれる。

 ガーン。
私の家は貧乏貴族、恋敵のオリヴィア様はお金持ち貴族⋯⋯、負けた。
でも、まだ一対一の引き分けだ。
そしてシャーロットの説明は更に続いた。

「オリヴィア様は、その美貌とハートのあざを持つことから、クイーンオブハートと呼ばれていらっしゃるの」

「え⋯⋯、痣があるの? オリヴィア様は⋯⋯」

「ええ、そうよ。オリヴィア様は魔力が高いそうよ」

 完敗だ⋯⋯、私。
魔力が高いオリヴィア様と、魔力が全くない私⋯⋯。
セイフィード様からしたら、魔力が高い女性の方がいいよね。
それにオリヴィア様は、セイフィード様とダンスしたってことは、セイフィード様のこと怖がっていないということだよね。
あーぁ、セイフィード様の近くに、そんな女性がいたなんて、かなりショック。

 その後、負けると分かっているオリヴィア様に、私はにらみ返すことも出来ず、逃げるように帰宅した。

 そして、“ラー神の”の事件から間も無くして、私は、セイフィード様のお屋敷を訪れる。
しかし残念ながら、セイフィード様は不在で、お父様である魔法長官と一緒に、登城したとのことだった。
私は、事件後の詳細も気になっていたが、何よりセイフィード様に早く謝って、仲直りしたかった。
会いたいよ⋯⋯、セイフィード様。

 そんなヤキモキしていた私に、ラウル先生から突如、お茶会のお誘いがきた。
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