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第2章<セイフィード様との出会い>
3、精霊
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とうとう、ゾフィー兄様が魔界の調査に旅立つ日がきた。
王様の命により調査団が組織され、それに加わる。
まずは、魔物が多く出没した町に寄ってから、魔界に行くらしい。
「アンナ、何かあったらセイフィードに相談しなさい。彼は強く賢いからね」
ゾフィー兄様は何かを見透かしたように言う。
そして、ゾフィー兄様はエレナ様と目がくらむような熱い抱擁をし、旅立ってしまった。
エレナ様のお腹には赤ちゃんがいる。
きっとゾフィー兄様はエレナ様のことが心配でしょうがないはず。
せめて私だけはゾフィー兄様に心配かけないようにしよう。
「さぁ、アンナ。わたくし達も学校へ行きましょう」
シャーロットは馬車に乗り込んだ。
私も急いで馬車に乗り込もうとすると、前方でセイフィード様も馬車に乗る姿を目撃した。
そういえば⋯⋯、学校ではセイフィード様と会ったことないかも。
今日、会いに行っちゃおうかな!
私は休憩時間に、一緒にお茶でもできたらいいなと呑気に考えながら、セイフィード様を探した。
宮廷学校はとても広く、今までセイフィード様を見掛けたことも、すれ違ったこともなかった。
おそらく、私がほとんど行く機会がない魔法講座専門の建物にセイフィード様がいるからだと思う。
そう思って、私は、その建物を中心に探してみた。
予想は的中し、その建物の広場の木陰で、セイフィード様は本を読んでいた。
不思議なことに、セイフィード様の周りには、まるで壁が存在するかのように人がいなく、離れてみんな寛いでいる。
「セイフィード様! ご機嫌よう」
私はセイフィード様に近づきながら、元気よく、大きな声で呼び掛けた。
セイフィード様は驚き、険しい表情を私に向ける。
そしてすぐに、セイフィード様は私の腕をひっぱり、私を誰もいない物陰に移動させた。
「学校では話しかけるな」
「どうしてですか?」
「アンナ、俺は前に言ったよな。肯定だけしろって」
「質問しちゃいけないとも、言ってなかったです」
「⋯⋯じゃあ言ってやる。アンナみたいな魔力なしと一緒にいるのが恥ずかしいんだよ」
流石に私はショックを受けた。
私って恥ずかしい存在だったんだなって今更ながら気づいた。
セイフィード様に何も反論できない。
悲しくて、目が潤んでくる。
私はセイフィード様のために買ったクッキーを投げつけ、涙を隠すように、その場から逃げ去った。
休憩時間終わり、私は歴史学のクラスに入室した。
入ると同時に教室がざわめく。
「闇の精霊がいるぞ」
「嫌だ。怖い」
なぜか私を見て、クラスのみんなが囁く。
青ざめたり、泣きそうになっている子までいる。
シャーロットまで、こちらを凝視し青ざめて固まっている。
「私に闇の精霊がくっついているの?」
私はシャーロットに近づき訊いてみた。
「ええ・・・・ええ、いるわ。1体いるわ」
後ずさりながらシャーロットは答えてくれた。
その時、遅れて教室に入ってきたルシウスが私を見て、怒鳴った。
「おまえっ、闇の精霊まで連れて来やがって。この魔力なし! ほんと邪魔なんだよ。教室から出て行け!」
昔、私を虐めていた公爵家の息子、ルシウス。
ルシウス・ド・ヴェルジーナ、大嫌いな奴だ。
私はセイフィード様の件もあって機嫌が悪くつい、ルシウスに怒鳴り返してしまった。
「うるさい! あなたなんか闇の精霊に呪われちゃえ」
「ヒィっ」
すると、ルシウスは悲鳴をあげ怯えたように硬直した。
また教室全体も恐怖に静まり返っている。
どうやらこの言葉(闇の精霊に呪われちゃえ)は非常にまずかったらしい。
前世だと「おまえなんか悪魔に呪われちゃえ」とか言われても気にしない。
なぜなら呪いも悪魔も現実にはないって理解している。
しかしこっちの世界では呪いも、闇の精霊も存在する。
なおかつ闇の精霊に力を借りた呪いも存在する。
おそらく、私が言った言葉(闇の精霊に呪われちゃえ)は、前世で私が銃をチラつかせながら、撃つぞと脅したレベルのようだ。
間の悪いことに、この一連のやりとりを歴史学の先生は見ていた。
歴史学の先生は私に近づき『ネガビットサーラ・精霊よ去れ』と呪文を唱えた。
すると鋭い風が私の頬を通り抜けた。
「アンナ、今すぐに教室から出て行きなさい」
歴史学の先生が教室の外を指差した。
「で、でも⋯⋯」
「出て行きなさい!」
歴史学の先生は厳しく私に指示した。
仕方がなく私は先生の指示に従い、教室から出た。
トボトボと廊下を歩いていると、シャーロットが後からついて来てくれた。
「今回は、アンナの方が悪いわ」
シャーロットは私を責めたが、優しく手を握ってくれた。
シャーロットの手は、暖かい。
「うん。また、みんなに迷惑かけちゃう⋯⋯」
「そうね、アンナ。今更だけど、もっと物事をよく考えてから言動するべきだわ」
「うん⋯⋯」
「それにしても、どうして闇の精霊がアンナに付いていたのかしら?」
「休憩時間にセイフィード様と会ったからかもしれない」
「まぁ、そうなの。闇の精霊は悪戯好きなのね」
流石に今回の件はなかったことにできなかったが、魔法長官が穏便に済ますようにと学校に言ってくれたらしい。
おそらく魔法長官の息子セイフィード様が少し絡んでいたせいだと思う。
結果、私は10日間の停学処分で済んだ。
その停学処分中に、私の腕輪は魔力を失った。
セイフィード様のところに行かなきゃ行けないのに、足が進まない。
気まずい。
しかし腕輪の魔力がなくなってしまうと、日常生活に支障をきたしてしまう。
お湯を沸かすなどの炊事洗濯は魔力を使うが、メイドさんがしてくれる。
この時ほど、貴族に生まれて良かったと痛感する。
私が主に腕輪の魔力を消費するのは、ライトの点灯や魔術書を読む時である。
そのため、腕輪の魔力がなくなるとライトの点灯をメイドさんにお願いしなければならない。
居候している身分なので、なるべくメイドさんにも迷惑をかけたくない。
また宮廷学校ではより魔力を使う。
宮廷学校では魔力による自動ドアが充実しており、腕輪の魔力がなくなれば私には開かなくなる。
それ故、停学処分が解ける前に、私はセイフィード様に魔力付与をお願いしなければならない。
ぐだぐだしててもしょうがないので、私は意を決して、セイフィード様のお屋敷を訪ねた。
セイフィード様はいつものように図書室にいて、静かに本を読んでいた。
「ご、ご機嫌よう。セイフィード様」
バツが悪くて、目が合わせられない。
私は俯いて挨拶した。
セイフィード様からの返事はなかったが、いつものように私の腕輪に魔力付与してくれた。
「ありがとうございました。今日、私がする宿題はありますか?」
「⋯⋯これを読め」
セイフィード様は、一冊の本を私に渡してくれた。
本の題名は“闇の精霊の種類と特性"
その本は金縁で装飾されてあり、かなり分厚い。
私は早速、その本を読もうと思ったが開かなかった。
私の腕輪では開くことができないらしい。
「あの、セイフィード様。私にはこの本を開くことができないようです」
すると、セイフィード様は私の隣に座りその本を開いてくれた。
私がその本を覗き見る感じになるので、体がふれあいそうな距離である。
体が熱くなる。
しばらくの間、私達は静かに、その本を読んだ。
本には闇の精霊について詳細に記載してある。
闇の精霊は72体いるとされ、光、火、水、風、土の精霊よりも召喚するのが難しい。
例えば、闇の精霊アンドレアルフスは敵を精神撹乱をさせる。
またアンドレアルフスを召喚する魔法陣と呪文が書かれてある。
かなり実戦向きの本である。
なぜ、セイフィード様はこの本を私に読ますんだろう。
「セイフィード様、セイフィード様の周りにいる闇の精霊もここに書かれていますか?」
「ああ、いる」
セイフィード様は本をパラパラとめくり、該当するページを指差してくれた。
「名前はストラスって言うんですね。」
ストラスはふくろうの姿で頭には王冠を載せている。
「俺の周りには常に7体のストラスがいる。1体だけでも強力だ。だからみんなはお前を怖がったんだ。」
セイフィード様はやっぱり私の事件を知っていた。
そりゃそうだよね。
セイフィード様のお父様が穏便に済ますように口添えしてくれたんだから。
「⋯⋯今回の件は、すまなかった」
セイフィード様が私に対して初めて謝罪した。
「え、どうして謝るんですか? セイフィード様は何も悪くありません」
「俺がすぐに気づくべきだった。1体いなくなったことに」
「でも、セイフィード様のお父様が口添えして頂いたお陰で退学にならずに済みました。ありがとうございます。」
「礼を言われるようなことじゃない」
「それにしても、ストラスって可愛いですね」
「アンナ、おまえくらいだ。闇の精霊を可愛いと言うやつは」
セイフィード様が少し笑った。
私はセイフィード様が笑ってくれたのが嬉しくって、またつい調子に乗ってしまった。
ストラスの次のページに載っていたアミーという精霊を召喚する呪文を、私は冗談で唱えた。
まるで、ビビデバビデブーと唱えるような軽い感じで。
「エクセミーギリシミリ・アミー・我の声を聞け・我の欲を満たせ・我の力となれ」
私は本に掲載されている魔法陣に手をあて、その呪文を唱えた。
もちろん何も起こらない。
「やっぱり何も起こりませんね。あはは⋯⋯」
ボケてみた私に早くツッコミをいれてくれないかと、セイフィード様を見ると烈火のごとく怒っていた。
「お、おまえはバカか! 精霊が召喚されたらどうするつもりだったんだ! アンナ、お前は魔力がないから100パーセントないと思うが、万が一ということもあるだろ」
セイフィード様は怒鳴り、勢いよく本を閉じた。
「うぅ、ごめんなさい」
「アミーは高位精霊だ。俺も制御できるかわからない。それにアミーは貢物が必要だ。アンナ、貢物が何か読んだのか? 貢物は人の魂だぞ!」
「もし、私が召喚に成功してたら⋯⋯」
「死んでたかもな」
「うぅぅ⋯⋯」
「いいか、アンナ。行動に移す前に、100回くらい考えろ。よく考えてから言動に移せ。わかったか!」
きっとセイフィード様は人生の中で一番怒ったんじゃないかと私は冷静に思いつつ、反省した。
私って前世から、考える前に言動してたかも。
もしかしてもしかして、前世で爆発を起こした変人に私が何か言っちゃってて恨まれてたのかな。
う~ん⋯⋯うん!?なんか言った気がする。
初めて実験チームが一緒になった時に「あなたって〇〇〇〇ね」⋯⋯〇〇〇〇が思い出せない。
なんだったかな~。
王様の命により調査団が組織され、それに加わる。
まずは、魔物が多く出没した町に寄ってから、魔界に行くらしい。
「アンナ、何かあったらセイフィードに相談しなさい。彼は強く賢いからね」
ゾフィー兄様は何かを見透かしたように言う。
そして、ゾフィー兄様はエレナ様と目がくらむような熱い抱擁をし、旅立ってしまった。
エレナ様のお腹には赤ちゃんがいる。
きっとゾフィー兄様はエレナ様のことが心配でしょうがないはず。
せめて私だけはゾフィー兄様に心配かけないようにしよう。
「さぁ、アンナ。わたくし達も学校へ行きましょう」
シャーロットは馬車に乗り込んだ。
私も急いで馬車に乗り込もうとすると、前方でセイフィード様も馬車に乗る姿を目撃した。
そういえば⋯⋯、学校ではセイフィード様と会ったことないかも。
今日、会いに行っちゃおうかな!
私は休憩時間に、一緒にお茶でもできたらいいなと呑気に考えながら、セイフィード様を探した。
宮廷学校はとても広く、今までセイフィード様を見掛けたことも、すれ違ったこともなかった。
おそらく、私がほとんど行く機会がない魔法講座専門の建物にセイフィード様がいるからだと思う。
そう思って、私は、その建物を中心に探してみた。
予想は的中し、その建物の広場の木陰で、セイフィード様は本を読んでいた。
不思議なことに、セイフィード様の周りには、まるで壁が存在するかのように人がいなく、離れてみんな寛いでいる。
「セイフィード様! ご機嫌よう」
私はセイフィード様に近づきながら、元気よく、大きな声で呼び掛けた。
セイフィード様は驚き、険しい表情を私に向ける。
そしてすぐに、セイフィード様は私の腕をひっぱり、私を誰もいない物陰に移動させた。
「学校では話しかけるな」
「どうしてですか?」
「アンナ、俺は前に言ったよな。肯定だけしろって」
「質問しちゃいけないとも、言ってなかったです」
「⋯⋯じゃあ言ってやる。アンナみたいな魔力なしと一緒にいるのが恥ずかしいんだよ」
流石に私はショックを受けた。
私って恥ずかしい存在だったんだなって今更ながら気づいた。
セイフィード様に何も反論できない。
悲しくて、目が潤んでくる。
私はセイフィード様のために買ったクッキーを投げつけ、涙を隠すように、その場から逃げ去った。
休憩時間終わり、私は歴史学のクラスに入室した。
入ると同時に教室がざわめく。
「闇の精霊がいるぞ」
「嫌だ。怖い」
なぜか私を見て、クラスのみんなが囁く。
青ざめたり、泣きそうになっている子までいる。
シャーロットまで、こちらを凝視し青ざめて固まっている。
「私に闇の精霊がくっついているの?」
私はシャーロットに近づき訊いてみた。
「ええ・・・・ええ、いるわ。1体いるわ」
後ずさりながらシャーロットは答えてくれた。
その時、遅れて教室に入ってきたルシウスが私を見て、怒鳴った。
「おまえっ、闇の精霊まで連れて来やがって。この魔力なし! ほんと邪魔なんだよ。教室から出て行け!」
昔、私を虐めていた公爵家の息子、ルシウス。
ルシウス・ド・ヴェルジーナ、大嫌いな奴だ。
私はセイフィード様の件もあって機嫌が悪くつい、ルシウスに怒鳴り返してしまった。
「うるさい! あなたなんか闇の精霊に呪われちゃえ」
「ヒィっ」
すると、ルシウスは悲鳴をあげ怯えたように硬直した。
また教室全体も恐怖に静まり返っている。
どうやらこの言葉(闇の精霊に呪われちゃえ)は非常にまずかったらしい。
前世だと「おまえなんか悪魔に呪われちゃえ」とか言われても気にしない。
なぜなら呪いも悪魔も現実にはないって理解している。
しかしこっちの世界では呪いも、闇の精霊も存在する。
なおかつ闇の精霊に力を借りた呪いも存在する。
おそらく、私が言った言葉(闇の精霊に呪われちゃえ)は、前世で私が銃をチラつかせながら、撃つぞと脅したレベルのようだ。
間の悪いことに、この一連のやりとりを歴史学の先生は見ていた。
歴史学の先生は私に近づき『ネガビットサーラ・精霊よ去れ』と呪文を唱えた。
すると鋭い風が私の頬を通り抜けた。
「アンナ、今すぐに教室から出て行きなさい」
歴史学の先生が教室の外を指差した。
「で、でも⋯⋯」
「出て行きなさい!」
歴史学の先生は厳しく私に指示した。
仕方がなく私は先生の指示に従い、教室から出た。
トボトボと廊下を歩いていると、シャーロットが後からついて来てくれた。
「今回は、アンナの方が悪いわ」
シャーロットは私を責めたが、優しく手を握ってくれた。
シャーロットの手は、暖かい。
「うん。また、みんなに迷惑かけちゃう⋯⋯」
「そうね、アンナ。今更だけど、もっと物事をよく考えてから言動するべきだわ」
「うん⋯⋯」
「それにしても、どうして闇の精霊がアンナに付いていたのかしら?」
「休憩時間にセイフィード様と会ったからかもしれない」
「まぁ、そうなの。闇の精霊は悪戯好きなのね」
流石に今回の件はなかったことにできなかったが、魔法長官が穏便に済ますようにと学校に言ってくれたらしい。
おそらく魔法長官の息子セイフィード様が少し絡んでいたせいだと思う。
結果、私は10日間の停学処分で済んだ。
その停学処分中に、私の腕輪は魔力を失った。
セイフィード様のところに行かなきゃ行けないのに、足が進まない。
気まずい。
しかし腕輪の魔力がなくなってしまうと、日常生活に支障をきたしてしまう。
お湯を沸かすなどの炊事洗濯は魔力を使うが、メイドさんがしてくれる。
この時ほど、貴族に生まれて良かったと痛感する。
私が主に腕輪の魔力を消費するのは、ライトの点灯や魔術書を読む時である。
そのため、腕輪の魔力がなくなるとライトの点灯をメイドさんにお願いしなければならない。
居候している身分なので、なるべくメイドさんにも迷惑をかけたくない。
また宮廷学校ではより魔力を使う。
宮廷学校では魔力による自動ドアが充実しており、腕輪の魔力がなくなれば私には開かなくなる。
それ故、停学処分が解ける前に、私はセイフィード様に魔力付与をお願いしなければならない。
ぐだぐだしててもしょうがないので、私は意を決して、セイフィード様のお屋敷を訪ねた。
セイフィード様はいつものように図書室にいて、静かに本を読んでいた。
「ご、ご機嫌よう。セイフィード様」
バツが悪くて、目が合わせられない。
私は俯いて挨拶した。
セイフィード様からの返事はなかったが、いつものように私の腕輪に魔力付与してくれた。
「ありがとうございました。今日、私がする宿題はありますか?」
「⋯⋯これを読め」
セイフィード様は、一冊の本を私に渡してくれた。
本の題名は“闇の精霊の種類と特性"
その本は金縁で装飾されてあり、かなり分厚い。
私は早速、その本を読もうと思ったが開かなかった。
私の腕輪では開くことができないらしい。
「あの、セイフィード様。私にはこの本を開くことができないようです」
すると、セイフィード様は私の隣に座りその本を開いてくれた。
私がその本を覗き見る感じになるので、体がふれあいそうな距離である。
体が熱くなる。
しばらくの間、私達は静かに、その本を読んだ。
本には闇の精霊について詳細に記載してある。
闇の精霊は72体いるとされ、光、火、水、風、土の精霊よりも召喚するのが難しい。
例えば、闇の精霊アンドレアルフスは敵を精神撹乱をさせる。
またアンドレアルフスを召喚する魔法陣と呪文が書かれてある。
かなり実戦向きの本である。
なぜ、セイフィード様はこの本を私に読ますんだろう。
「セイフィード様、セイフィード様の周りにいる闇の精霊もここに書かれていますか?」
「ああ、いる」
セイフィード様は本をパラパラとめくり、該当するページを指差してくれた。
「名前はストラスって言うんですね。」
ストラスはふくろうの姿で頭には王冠を載せている。
「俺の周りには常に7体のストラスがいる。1体だけでも強力だ。だからみんなはお前を怖がったんだ。」
セイフィード様はやっぱり私の事件を知っていた。
そりゃそうだよね。
セイフィード様のお父様が穏便に済ますように口添えしてくれたんだから。
「⋯⋯今回の件は、すまなかった」
セイフィード様が私に対して初めて謝罪した。
「え、どうして謝るんですか? セイフィード様は何も悪くありません」
「俺がすぐに気づくべきだった。1体いなくなったことに」
「でも、セイフィード様のお父様が口添えして頂いたお陰で退学にならずに済みました。ありがとうございます。」
「礼を言われるようなことじゃない」
「それにしても、ストラスって可愛いですね」
「アンナ、おまえくらいだ。闇の精霊を可愛いと言うやつは」
セイフィード様が少し笑った。
私はセイフィード様が笑ってくれたのが嬉しくって、またつい調子に乗ってしまった。
ストラスの次のページに載っていたアミーという精霊を召喚する呪文を、私は冗談で唱えた。
まるで、ビビデバビデブーと唱えるような軽い感じで。
「エクセミーギリシミリ・アミー・我の声を聞け・我の欲を満たせ・我の力となれ」
私は本に掲載されている魔法陣に手をあて、その呪文を唱えた。
もちろん何も起こらない。
「やっぱり何も起こりませんね。あはは⋯⋯」
ボケてみた私に早くツッコミをいれてくれないかと、セイフィード様を見ると烈火のごとく怒っていた。
「お、おまえはバカか! 精霊が召喚されたらどうするつもりだったんだ! アンナ、お前は魔力がないから100パーセントないと思うが、万が一ということもあるだろ」
セイフィード様は怒鳴り、勢いよく本を閉じた。
「うぅ、ごめんなさい」
「アミーは高位精霊だ。俺も制御できるかわからない。それにアミーは貢物が必要だ。アンナ、貢物が何か読んだのか? 貢物は人の魂だぞ!」
「もし、私が召喚に成功してたら⋯⋯」
「死んでたかもな」
「うぅぅ⋯⋯」
「いいか、アンナ。行動に移す前に、100回くらい考えろ。よく考えてから言動に移せ。わかったか!」
きっとセイフィード様は人生の中で一番怒ったんじゃないかと私は冷静に思いつつ、反省した。
私って前世から、考える前に言動してたかも。
もしかしてもしかして、前世で爆発を起こした変人に私が何か言っちゃってて恨まれてたのかな。
う~ん⋯⋯うん!?なんか言った気がする。
初めて実験チームが一緒になった時に「あなたって〇〇〇〇ね」⋯⋯〇〇〇〇が思い出せない。
なんだったかな~。
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