禅寺暮らしのエルフさん

あかべこ

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エルフさんと畑に行く:前

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今日はミツナリと畑へお邪魔することになった。
佐野家から車で10分ほど離れたところにある郊外の大きな畑に足を踏み入れると、ふわりと柔らかくいい土の気配がする。
今は冬の終わりなのでまだ大地の精霊は眠っているようだ。
「よく手入れされた畑だ」
「ですよね。この辺りの大根抜いていいらしいので運んでもらっていいですか?」
「せっかくだから私の鞄を使うといい」
収納魔法からしばらく使っていなかった小ぶりな魔法鞄を渡すと「汚れちゃいませんか?」と心配そうに問うてくる。
「この魔法鞄は私は使っていないものだし、時間経過と重さが10分の1になるから大根を新鮮に保てるぞ」
「ファ、ファンタジー……なら余計に僕じゃ無いほうがいいような」
「私は収納魔法を習得したからもう使わないものだ。子ども時分の思い出の品だから手放すのも惜しくて底の方に眠らせてたものだから、使ってもらったほうが鞄も喜ぶ」
ミツナリはしばらく考えてから「じゃあ、お言葉に甘えて」と鞄を受け取る。
この畑はお寺に併設されてる保育園の先生の両親がやってる畑だそうで、大根が食べきれず勿体無いので好きなだけ持っていけとのことだった。
「大根は日持ちしますし、色々使えるのでいっぱいあると便利なんですよね」
葉っぱを掴んでギュッと引っ張ると、大ぶりの大根がスポッと抜けてくる。
「おお……!」
白くてツヤツヤの大根の泥を軽く落としてから収納魔法へ放り込む。
次から次へと大根を引き抜いていると故郷でマンドラゴラを引き抜いてた幼少期を思い出す。
(引き抜いたマンドラゴラを叫ぶ前に魔法で凍らせる手伝いをよくしたものだ……)
そんな懐かしいことを考えていると、隣に青々としたネギが生えていることに気づく。
「このネギも美味しそうだな」
「ですね。まあうちでは出せないんですけどね……」
「そうなのか?」
「仏教では五葷(ごくん)と言いまして、ネギ・ニンニク・ニラなどは煩悩を刺激すると言われて禁止されてるんです」
「僧侶は煩悩をあまり持たないほうがいいから、そう言ったものを避ける訳だな」
宗教上の理由で食べない彼らと体質上の理由で食べない私とはやはり制限の内容は似て非なるのだな、と妙に納得してしまう。
しかし食卓にネギがないと言うことは今回言われるまで全く気づけなかった。
「食材の制限があっても美味しいものがみんなと食べられると言うのはいいものだな」
肉や魚が食べられないことで起きた問題を思えば多少食べられない野菜があることなど、誤差に過ぎないように思えてくる。
「そうですね?帰ったら、大根で色々作りましょうか」
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