異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・冬(18~19部分)

お雑煮を食べながら

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しょうもない特番をつけっぱなしにしながら雑煮を食べていると、ああ正月だなーと思う。
今流れてるのは女性タレントが集まって恋愛トークとか女性特有の悩みをぶっちゃけるタイプのトーク番組で、タレントたちが年の差恋愛について盛り上がっている。
「そういやさぁ、姉貴にとっての春彦さんってなんなの?」
「兄」
即答した私に「ホントかよ」と叶が疑惑の目を向ける。
「なんでだよ。どっからどう見てもいい兄ちゃんだろ春兄は」
「その春兄って呼び方が女子高生みたいでキモいし、あの人が来ると春兄春兄うるさいんだもん」
「お前は生まれた時から兄と姉がいるから分かんないだろうけど長女にとって甘えられる年上って貴重なんだぞ?」
「リラ姉ちゃんと違って都合のいい時にしかお姉ちゃんぶらない方の姉に言われたくないんだけど」
高校卒業と同時に嫁に行った莉羅は私より面倒見が良かったし、弟である叶うには確かに甘かった。
その点私は叶が生まれた時には弟妹が出来ることに飽きてたのでちょっと放置した記憶がある。
「何お前私が春兄のこと男として惚れてると思ってた訳?」
「じゃなけりゃあのパパ活おじさんに甘える女子高生みたいな態度に納得できない。俺が」
「そんな態度してないが?」
雑煮の持ちをかみ砕きつつ叶にそういう風に見えている理由をちょっと考えてみる。
思い返してみると春兄は私を結構可愛がってくれたと思う。
ワンオペ育児の母の代わりに勉強も良く教えて貰ったし、1人で映画館に行けなかった幼少期には何度となく映画館に付き添ってもらったし、一緒にご飯を食べた数などもはや数えきれない。
でも霽月や莉羅はそんな風に一緒に遊んでもらった記憶が少ないし、叶に至っては物心ついた頃には春兄はベトナムだ。
「単純にお前が春兄に遊んで貰った数が少ないからピンとこないだけじゃない?」
「リラ姉ちゃんはあんなに甘え倒さないじゃん?」
「あー……そういやリラも春兄大好きって感じではないね」
雑煮の澄まし汁をすすりつつそんな風に答える。
まあリラはね、もし春兄に甘えたいと思っても旦那が良い顔しないのでしょうがない。
「でも霽月もわりと懐いてる方だと思うけど」
「兄貴は姉貴みたいに分かりやすく甘えねぇからキモくない」
叶の言い分に首を傾げていると母さんが「さっきから何の話してるの?」とやって来た。
「姉貴が春兄春兄うるさいって話」
「絃子は昔から春彦君大好きって訳でもなかったわよ」
「そうだっけ?」
「赤ん坊の時は泣いて逃げてたもの、絃子が春彦君に懐くようになったのは莉羅が生まれた頃からよ」
母さんはお茶を淹れながら私も覚えてないような頃の思い出話を始めた。
「ちょうど4歳ぐらいの頃から絃子が映画館連れてけーつれてけーってうるさくなってね、でも赤ん坊の莉羅とまだおむつも取れてない霽月を抱えて映画館に連れてくのは難しいじゃない?私も仕事があるから莉羅と霽月をおじいちゃんとおばあちゃんに預けて仕事するにしても映画館は無理だし……。そんな時に春彦君にお金あげるから月1で絃子の映画館への付き添い頼んだらそのまま懐いちゃったのよね」
そのエピソードには薄らと心当たりがある。
コナンやポケモンと言った長期休みのアニメ映画から当時話題の映画まで、幼稚園から小学校低学年くらいまで映画を見に行くときは大体春兄が付き添いだった記憶がある。
父の多忙により今でいうワンオペ育児だった母にとって、4人の子どものうち1人だけでも信頼できる相手が預かってくれるというのは大きかったのだろう。
「姉貴の映画狂いエピソードこわ……」
「誰が映画狂いだよ」
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