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大使館3年目・秋(17部分)
誰も聞かない声のはなし
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異世界人が日本に出稼ぎに来れるなんて間違ってる、食堂に流れてきたニュースを見て直感的にそう思った。
大学を出てから非正規雇用で20年近く食い繋ぎ、ろくな貯金も可愛い彼女や友達も無いまま50代を迎えてしまった、そんな俺のような人間こそ真っ先に救うべきなのだ。
そんな話をSNSで垂れ流せばわかるよ!という声が無限に響く。
そんな中、異世界の王様が日本へやってくるという話が流れた。
もし上手くいけばこの国とも国交を結ぶとか。
冗談じゃない!ただでさえ外国人の多いこの国で異世界人まで受け入れてなんのメリットがある!
異世界から石油を買いはじめたが大した値下がり効果は無く、何の効果があると言うのだろう?
あまりに政府が異世界人を優遇してるので、実は異世界人は洗脳魔法が使えて政府を洗脳してる!という与太話を信じたくなってきたくらいだ。
そんな中、異世界人受け入れ反対デモをやるという話が出てきた。
言い出しっぺと知り合いだった縁からデモの運営に関わることになり、訪日最終日に合わせてデモをやることになった。
場所は秋葉原駅前。パレードルートに近い事と、政府からの妨害の中でも今回のデモに理解を示した警察署長と駅関係者が極秘裏に許可を出してくれたことで実現したデモだった。
同じ志を持つ仲間たちにのみ事前通知を行って情報統制し、一般告知をギリギリまで遅らせた。
そんなギリギリの告知を見て関東一円から秋葉原駅に集まった1000人近い同志たちは俺たちと同じ想いを持ち、異世界人優遇反対の声を秋葉原の空へ響かせた。
このデモの言い出しっぺの男が、秋葉原駅前広場を出てパレードに突撃する!と宣言を上げると警察の妨害を振り切ってパレードへと突っ込んで行った。
憂国の士が命懸けで間違いを正さんとする突撃は多くのものを震わせ、その突撃に俺もついて行った。
俺は結局途中で警察に捕まって突撃はならなかったが、突っ込んで行った友人は異世界の騎士に剣を向けられる事も恐れず相手を睨みつけていたという。
そしてデモに突っ込んで行った俺たちはまとめて公務執行妨害として逮捕され、現在拘置所の中に放り込まれている。
「みんな何も分かってない!先にこの国に救われるべきは俺たちのような氷河期世代の弱者男性だと言うのにな!」
「やっぱりあいつら魔法でなんか騙くらかしてるんじゃないのか?」
ああだこうだと話し合う賑やかな拘置所の中で、俺の隣に座っていた言い出しっぺの男か「なあ」と俺を呼んだ。
「あの羊の宰相の言葉、ちょっと訳してくれないか」
立て看板の文章担当だった俺に言い出しっぺの男が、うろ覚えの大陸標準語でひとことふたこと喋った。
「……何かの間違いがなければ、『彼らの言い分を聞きたい』って言ってるな」
「そうか。力で押し潰そうとせず突撃してきた俺らの話を聞いてくれるのか、ならこの国の権力者はあの羊よりろくでなしだな」
「国はろくに返事もくれなかったしな」
以前から俺たちは内閣府や外務省などに異世界人受け入れについて手紙やメールをしたためていたが、ほとんどが無視されていた。まるで俺たちの声にはなんの意味も無いとでもいうような反応が本当に嫌だった。
だというのにあの羊の宰相は理由を聞くと言うのだ。
「まったく、どうするかね」
「本当にな」
たぶんこの後俺たちはもっとロクでもない目にあうだろう。
誰も聞いてくれない世界の片隅で俺たちは。
大学を出てから非正規雇用で20年近く食い繋ぎ、ろくな貯金も可愛い彼女や友達も無いまま50代を迎えてしまった、そんな俺のような人間こそ真っ先に救うべきなのだ。
そんな話をSNSで垂れ流せばわかるよ!という声が無限に響く。
そんな中、異世界の王様が日本へやってくるという話が流れた。
もし上手くいけばこの国とも国交を結ぶとか。
冗談じゃない!ただでさえ外国人の多いこの国で異世界人まで受け入れてなんのメリットがある!
異世界から石油を買いはじめたが大した値下がり効果は無く、何の効果があると言うのだろう?
あまりに政府が異世界人を優遇してるので、実は異世界人は洗脳魔法が使えて政府を洗脳してる!という与太話を信じたくなってきたくらいだ。
そんな中、異世界人受け入れ反対デモをやるという話が出てきた。
言い出しっぺと知り合いだった縁からデモの運営に関わることになり、訪日最終日に合わせてデモをやることになった。
場所は秋葉原駅前。パレードルートに近い事と、政府からの妨害の中でも今回のデモに理解を示した警察署長と駅関係者が極秘裏に許可を出してくれたことで実現したデモだった。
同じ志を持つ仲間たちにのみ事前通知を行って情報統制し、一般告知をギリギリまで遅らせた。
そんなギリギリの告知を見て関東一円から秋葉原駅に集まった1000人近い同志たちは俺たちと同じ想いを持ち、異世界人優遇反対の声を秋葉原の空へ響かせた。
このデモの言い出しっぺの男が、秋葉原駅前広場を出てパレードに突撃する!と宣言を上げると警察の妨害を振り切ってパレードへと突っ込んで行った。
憂国の士が命懸けで間違いを正さんとする突撃は多くのものを震わせ、その突撃に俺もついて行った。
俺は結局途中で警察に捕まって突撃はならなかったが、突っ込んで行った友人は異世界の騎士に剣を向けられる事も恐れず相手を睨みつけていたという。
そしてデモに突っ込んで行った俺たちはまとめて公務執行妨害として逮捕され、現在拘置所の中に放り込まれている。
「みんな何も分かってない!先にこの国に救われるべきは俺たちのような氷河期世代の弱者男性だと言うのにな!」
「やっぱりあいつら魔法でなんか騙くらかしてるんじゃないのか?」
ああだこうだと話し合う賑やかな拘置所の中で、俺の隣に座っていた言い出しっぺの男か「なあ」と俺を呼んだ。
「あの羊の宰相の言葉、ちょっと訳してくれないか」
立て看板の文章担当だった俺に言い出しっぺの男が、うろ覚えの大陸標準語でひとことふたこと喋った。
「……何かの間違いがなければ、『彼らの言い分を聞きたい』って言ってるな」
「そうか。力で押し潰そうとせず突撃してきた俺らの話を聞いてくれるのか、ならこの国の権力者はあの羊よりろくでなしだな」
「国はろくに返事もくれなかったしな」
以前から俺たちは内閣府や外務省などに異世界人受け入れについて手紙やメールをしたためていたが、ほとんどが無視されていた。まるで俺たちの声にはなんの意味も無いとでもいうような反応が本当に嫌だった。
だというのにあの羊の宰相は理由を聞くと言うのだ。
「まったく、どうするかね」
「本当にな」
たぶんこの後俺たちはもっとロクでもない目にあうだろう。
誰も聞いてくれない世界の片隅で俺たちは。
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