異世界大使館雑録

あかべこ

文字の大きさ
上 下
123 / 137
大使館3年目・秋(17部分)

誰も聞かない声のはなし

しおりを挟む
異世界人が日本に出稼ぎに来れるなんて間違ってる、食堂に流れてきたニュースを見て直感的にそう思った。
大学を出てから非正規雇用で20年近く食い繋ぎ、ろくな貯金も可愛い彼女や友達も無いまま50代を迎えてしまった、そんな俺のような人間こそ真っ先に救うべきなのだ。
そんな話をSNSで垂れ流せばわかるよ!という声が無限に響く。
そんな中、異世界の王様が日本へやってくるという話が流れた。
もし上手くいけばこの国とも国交を結ぶとか。
冗談じゃない!ただでさえ外国人の多いこの国で異世界人まで受け入れてなんのメリットがある!
異世界から石油を買いはじめたが大した値下がり効果は無く、何の効果があると言うのだろう?
あまりに政府が異世界人を優遇してるので、実は異世界人は洗脳魔法が使えて政府を洗脳してる!という与太話を信じたくなってきたくらいだ。
そんな中、異世界人受け入れ反対デモをやるという話が出てきた。
言い出しっぺと知り合いだった縁からデモの運営に関わることになり、訪日最終日に合わせてデモをやることになった。
場所は秋葉原駅前。パレードルートに近い事と、政府からの妨害の中でも今回のデモに理解を示した警察署長と駅関係者が極秘裏に許可を出してくれたことで実現したデモだった。
同じ志を持つ仲間たちにのみ事前通知を行って情報統制し、一般告知をギリギリまで遅らせた。
そんなギリギリの告知を見て関東一円から秋葉原駅に集まった1000人近い同志たちは俺たちと同じ想いを持ち、異世界人優遇反対の声を秋葉原の空へ響かせた。
このデモの言い出しっぺの男が、秋葉原駅前広場を出てパレードに突撃する!と宣言を上げると警察の妨害を振り切ってパレードへと突っ込んで行った。
憂国の士が命懸けで間違いを正さんとする突撃は多くのものを震わせ、その突撃に俺もついて行った。
俺は結局途中で警察に捕まって突撃はならなかったが、突っ込んで行った友人は異世界の騎士に剣を向けられる事も恐れず相手を睨みつけていたという。
そしてデモに突っ込んで行った俺たちはまとめて公務執行妨害として逮捕され、現在拘置所の中に放り込まれている。
「みんな何も分かってない!先にこの国に救われるべきは俺たちのような氷河期世代の弱者男性だと言うのにな!」
「やっぱりあいつら魔法でなんか騙くらかしてるんじゃないのか?」
ああだこうだと話し合う賑やかな拘置所の中で、俺の隣に座っていた言い出しっぺの男か「なあ」と俺を呼んだ。
「あの羊の宰相の言葉、ちょっと訳してくれないか」
立て看板の文章担当だった俺に言い出しっぺの男が、うろ覚えの大陸標準語でひとことふたこと喋った。
「……何かの間違いがなければ、『彼らの言い分を聞きたい』って言ってるな」
「そうか。力で押し潰そうとせず突撃してきた俺らの話を聞いてくれるのか、ならこの国の権力者はあの羊よりろくでなしだな」
「国はろくに返事もくれなかったしな」
以前から俺たちは内閣府や外務省などに異世界人受け入れについて手紙やメールをしたためていたが、ほとんどが無視されていた。まるで俺たちの声にはなんの意味も無いとでもいうような反応が本当に嫌だった。
だというのにあの羊の宰相は理由を聞くと言うのだ。
「まったく、どうするかね」
「本当にな」
たぶんこの後俺たちはもっとロクでもない目にあうだろう。
誰も聞いてくれない世界の片隅で俺たちは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...