異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・冬(18~19部分)

クリスマスの夜を走る

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行事のある日は必ず早く帰ろう、それは子どもが生まれてから自分の心に刻んだ約束だった。
今年のクリスマスは異世界への医療支援のために派遣された医師団帰国のタイミングと被ってしまい、日暮れまでずっと上野で過ごす羽目になっていた。
「飯島、お前先帰っていいぞ」
真柴が残った書類に目を通しながらそんな事を言う。
ありがたいけれど、まだ異世界から持ち込まれた医療廃棄物の処理の事が残っている。
「……いいのか?」
「クリスマスと子どもの誕生日は絶対に泊まり込まない男を夜遅くまで連れまわしたらお前の家族に悪いだろ、それにあとはもう業者に引き渡すだけだから俺と担当者だけで片が付くしな」
俺がクリスマスと家族の誕生日には死んでも徹夜しないことは省内ではそれなりに知られているが、それで気を使って貰えるのはありがたい。
「それに今回お前に来てもらってたのはトラブル対策だから、次回以降はお前も俺もいないしな」
「あー、そうか、次以降は全部税関と向こうの担当者でやって貰うんだもんな。もしトラブル起きてもお前がいれば何とかなるか」
「俺の事を異世界関連の何でも屋扱いするのはどうかと思うけどな」
そう呟きつつも、そういう事だから早く帰れという目を向けられると「上に進言しとくよ」と返しておく。
でも真柴が一番異世界の事を知ってるし、頼めば渋々ながら引き受けてくれるので、たぶん永久にその扱いは変わらない気もする。
「じゃあ、悪いけど俺は先帰るな。もしなんかあったら電話くれ」
「分かった。じゃあ、メリークリスマス」
「おう。メリクリ」
愛車に乗り込んで愛しのわが家へ車を走らせる。
時刻は午後6時前、まだうちの子たちも夕飯を食べ始めたぐらいだろう。

(渋滞にはまらなければ子供らとケーキぐらいは食えるかな)

つくづくいい友人に恵まれた、と思う。
子どもと一緒に過ごしたい気持ちを汲んで俺をうちに帰らせてくれる奴なんて省内じゃそう多くない。
働き方改革が遅々として進まない霞が関では矢継ぎ早に飛んでくる仕事にみんながみんな仕事で手一杯で、気を遣う余裕など誰も持ってない。
そんな中で多少ながらそう言う余裕を見せてくれる真柴は本当にありがたい存在なのだ。
(あいつは仕事よりおふくろさんの介護優先の絶対定時退勤マンだから俺の気持ちがわかるってだけかもしれないけど)
あとでアイツにご飯でも奢ってやろう、そんな気持ちで車を走らせた。
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