異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・秋(17部分)

異世界で孤独のグルメ

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異世界赴任してから、1人の時間が恋しくなることが増えた。
寮生活なので職場の人が常に近くにいる状態になっていることに加え、私のことが大大大好きなどっかの誰かさんが頻繁に張り付いてくるので無性に1人の時間が恋しくなる。
(昔は1人が苦手だったのになあ)
ここに来てからずっと人の気配を感じ続けてるのも意外に大変なんだなあと教えられた気がする。
市場をフラフラと歩いていると香ばしいお茶の匂いがする。
(あ、喫茶店……)
この国の市場にはインドのチャイ屋さんのようにちょっとした喫茶店がちょこちょこある。
ちょっと覗いてみると麦茶のようだ。
(大使館の人がイベントで麦茶配ってたからこっちでも普及してきたのかな)
今日は肌寒いしあったかい麦茶も美味しいだろう。
「お茶下さい」「はーい」
あったかい麦茶を受け取って一口ちびりと飲むと、予想外の味が舌先を駆け抜けていって「ゴフッ」と咽せてしまう。
ゲホゲホと咽せているとお店の人に「大丈夫ですか?!」と本気の心配の声がかかる。
「思ってたのと違う味がしたので……」
「そうでしたか」
「あの、これ炒った麦のお茶に何か混ぜてます?」
「炒った麦と乾燥させたリンゴの皮を煮出して蜂蜜で甘さを足してます」
「なるほど、」
どうりで思ってたのと全然違う味がした訳だ。
しかし冷静になってもう一口飲んでみると、麦茶の香ばしさとリンゴの風味が組み合わさってアップルパイのような味がする。
そういうお茶ですと言われてからであればこれはこれで美味しいのではないだろうか。
「日本の大使館で配ってた麦茶を想像してたのでちょっとびっくりしました」
「大使館で配っていた麦茶のアレンジとして作ってみたんですが……日本の方ですよね?」
「はい。たぶん日本人にはびっくりされると思うので、麦茶とは別のお茶として売り出したほうがいいんじゃないですかね?」
「そうですか……」
後日、このお店は果麦茶という名前でこのリンゴ風味の麦茶を売り出して人気を博すのであるがそれはまた別の話である。

*****

さて、ちょっとお茶を飲んだら食べ物が欲しくなってきた。
フラフラと歩いていると揚げ物の音が聞こえてくる。この国でも揚げ物の屋台が出来たんだろうか?と覗き込んでみるとカレーパンのようなものが並んでいる。
「これひとつください」
紙に包まれたカレーパンっぽいものを一つもらうとずっしりした重みがある。
屋台エリアの隅に置かれた椅子に腰を下ろし、ザクって齧り付いてみる。
カレーパンっぽい見た目に対してさっくりもっちりな生地からハーブソルト系の挽肉(モツ系も少し入ってる)と野菜が出てくる。
皮は揚げた芋餅っぽいんだけど中身は餃子のような?でも餃子はもっと味が濃い気がするし、ハーブソルトに含まれるハーブの爽やかさで見た目より重さを感じない。
(コンビニのホットスナックとかにありそうだよなあ)
ザクもちジュワッを楽しみながらほうっと満足のため息が漏れる。
知らない人が食べ歩きしているのを見ながら、1人で美味しいものをじっくり味わう。
1人で美味しいものを食べてのんびりする休日は誰にも邪魔されたくないものだ。
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