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大使館2年目・秋(12部分)
トンネルと千ピースパズル
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「金羊国とのトンネルが開通したら旧博物館動物園駅はどうなるのでしょうか?」
トンネル工事の会議中、廃駅を保有する企業から質問があった。
「現時点では特に決まっておりませんが、あの建物は文化財ですので少なくとも建物の保存は続けられる予定です」
「建物の中などはどうなるのでしょう?」
「どうなる、というのは?」
「完全に元に戻して一般からの見学などが出来るようになるか、という意味です」
これについてはしがない官僚が答えられることではないが、金羊国側の出席者であるエイン魔術官の方を向くと口を開いてくれる。
「これはあくまで僕の見立てですが、一般人の見学可能レベルまで戻すにはほぼ無理かと。
そもそも空間自体が完全に破綻していますので、まず見学できるようになるまでの工程が複雑です。具体的には破綻した空間の修復、駅の内部構造物の再構成、建造物の補強と修復という工程になります。
特に困難なのは駅の内部構造の再構成です。これは現状日本国内に行える人材がいませんので金羊国側で請け負うことになりますが、僕らは元々の内部構造を把握していません。把握したとして復元するには原子単位での復元となります、原子の一粒に至るまで同じ場所に同じものを置くとなると100年経っても終わりませんよ」
原子一粒単位での復元という言葉に参加者が息を呑む。
目に見えない一粒の粒子を一ミリ単位のずれもなく同じ場所に置くという作業を明示されてしまえば、素人ですらその壮絶さに想像がつくだろう。
「破綻した空間の修復のみを依頼するのであれば、可能ですか?」
「それであれば可能ですが、あの空間は完全に破綻していますから空間の修復だけでも何十人もの人生を掛けないと終わりそうにないと思います」
「逆に言えば人手と時間を掛ければ可能という事ですか?」
「理屈としてはそうなりますが元々僕たち獣人は魔術的素養に欠けますし、僕と同等クラスの魔術的素養があるとなれば我が国にとって貴重な人材ですので破綻した空間の修復に派遣というのは難しいかと」
その言葉を聞いて企業側はぶすくれたように「……つまりは諦めろと?」とつぶやく。
同席していた他の工事関係者もこれまでの説明の意図をそう読んだだろう。
「言葉を選ばずに言えばそうなります。この点につきましては金羊国代表としてお詫び申し上げます」
エイン魔術官が深く頭を下げると白い綿毛のような頭がよく見えた。
「その分、金羊国の鉄道事業に御社が関わることで得られる利益の全額を賠償金の代わりとさせて頂けますでしょうか」
「日本人による破綻した空間修復の可能性は?」
「そもそも日本人の魔術的素養の研究は研究が始まったばかりなので何とも言えませんが、可能であると確認されれば我が国としても協力したいと考えております」
現状の金羊国側として切れる手札はこれしかないのだろうな、と察してしまう。
金羊国は弱小国家だ。ヒト・モノ・カネすべてが足りておらず、差し出せるのは自国の資源と魔術関連のを少しといった状態であるのでこれが限界なのだろう。
「わかりました。弊社としては将来的な旧博物館動物園駅の復旧に前向きという事を有り難く受け入れます」
諦め交じりの言葉にエイン魔術官が「ありがとうございます!」と大きく頭を下げた。
トンネル工事の会議中、廃駅を保有する企業から質問があった。
「現時点では特に決まっておりませんが、あの建物は文化財ですので少なくとも建物の保存は続けられる予定です」
「建物の中などはどうなるのでしょう?」
「どうなる、というのは?」
「完全に元に戻して一般からの見学などが出来るようになるか、という意味です」
これについてはしがない官僚が答えられることではないが、金羊国側の出席者であるエイン魔術官の方を向くと口を開いてくれる。
「これはあくまで僕の見立てですが、一般人の見学可能レベルまで戻すにはほぼ無理かと。
そもそも空間自体が完全に破綻していますので、まず見学できるようになるまでの工程が複雑です。具体的には破綻した空間の修復、駅の内部構造物の再構成、建造物の補強と修復という工程になります。
特に困難なのは駅の内部構造の再構成です。これは現状日本国内に行える人材がいませんので金羊国側で請け負うことになりますが、僕らは元々の内部構造を把握していません。把握したとして復元するには原子単位での復元となります、原子の一粒に至るまで同じ場所に同じものを置くとなると100年経っても終わりませんよ」
原子一粒単位での復元という言葉に参加者が息を呑む。
目に見えない一粒の粒子を一ミリ単位のずれもなく同じ場所に置くという作業を明示されてしまえば、素人ですらその壮絶さに想像がつくだろう。
「破綻した空間の修復のみを依頼するのであれば、可能ですか?」
「それであれば可能ですが、あの空間は完全に破綻していますから空間の修復だけでも何十人もの人生を掛けないと終わりそうにないと思います」
「逆に言えば人手と時間を掛ければ可能という事ですか?」
「理屈としてはそうなりますが元々僕たち獣人は魔術的素養に欠けますし、僕と同等クラスの魔術的素養があるとなれば我が国にとって貴重な人材ですので破綻した空間の修復に派遣というのは難しいかと」
その言葉を聞いて企業側はぶすくれたように「……つまりは諦めろと?」とつぶやく。
同席していた他の工事関係者もこれまでの説明の意図をそう読んだだろう。
「言葉を選ばずに言えばそうなります。この点につきましては金羊国代表としてお詫び申し上げます」
エイン魔術官が深く頭を下げると白い綿毛のような頭がよく見えた。
「その分、金羊国の鉄道事業に御社が関わることで得られる利益の全額を賠償金の代わりとさせて頂けますでしょうか」
「日本人による破綻した空間修復の可能性は?」
「そもそも日本人の魔術的素養の研究は研究が始まったばかりなので何とも言えませんが、可能であると確認されれば我が国としても協力したいと考えております」
現状の金羊国側として切れる手札はこれしかないのだろうな、と察してしまう。
金羊国は弱小国家だ。ヒト・モノ・カネすべてが足りておらず、差し出せるのは自国の資源と魔術関連のを少しといった状態であるのでこれが限界なのだろう。
「わかりました。弊社としては将来的な旧博物館動物園駅の復旧に前向きという事を有り難く受け入れます」
諦め交じりの言葉にエイン魔術官が「ありがとうございます!」と大きく頭を下げた。
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