異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・秋(17部分)

汽笛一声を待ち侘びて

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僕らは鉄道150年の歴史を塗り替える大仕事をしている。
「俺達で異世界に鉄道を敷くって言われても未だに実感無いですよねえ」
異世界から国王御一行様が昨日どこに行ったのかを伝えるテレビニュースを見ながら、俺は温かい麦茶を一口飲んだ。
今日のような肌寒い秋の朝にはこう言う暖かい麦茶がちょうどいい。
先輩は「まだ始まったばかりだしなあ」とぼやく。
異世界側と日本側で掘り進めはじめたばかりのトンネルはまだ数メートルしか掘られておらず、駅予定地は地面の整備と地盤の強化がメインだ。
「でも今日の午後にはこの御一行が来るんだろう?」
「だからJR貨物さんとかすごい気合い入ってましたよ」
俺らは旅客駅予定地と線路予定地の区分けくらいやってないので、たいして見るものは無いんだがそれでも視察に来ると言うのだからまあ気合いの入りようがすごい。
「でも向こうのお気に召さなかったからで仕事外されたら俺らの首が飛ぶぞ?」
「それはありそう……」
相手は異世界の王様だ、よく分からない気紛れで俺の首が飛ぶような事は避けておきたい。
「他社が泣いて欲しがる名誉な仕事なんだろうけどなあ」
「異世界に繋がる道の出口になった建物がたまたまうちの会社の所有だったから来た仕事ですしねえ」
うちの会社は異世界と繋がる道の出入り口となったあの上野の廃駅を所有しており、異世界との出入り口になった事による迷惑料のような形でこの仕事を割り振られたという経緯から社内では棚ぼたで来たという感覚があった。
「ま、でもそのお陰でうちの会社と俺らは鉄道史に名前を残せんだ。前向きに行こうぜ」

*****

その日の午後、本当に異世界からの御一行がやって来た。
テレビで見ていた羊や白い小鳥の獣人や色鮮やかな髪色の人々はアニメから飛び出して来たような、どこか非現実的な印象があった。
貨物駅の見学のあと、御一行は俺たちの担当する旅客駅建設予定地に足を踏み入れた。
「こちらは現在はこのような更地となっておりますが、現時点の完成予想図がこちらとなります」
完成予想図では異世界との出入り口となった廃駅の持つ重厚な雰囲気やを引き継ぎつつも現代的な軽やかさを兼ね備え、ここから上野方面にも成田空港にも行ける巨大ハブ駅として3面5線のホームを持つ駅舎となる予定である事を地図も使いながら伝えてみる。
しかし完成予想図を見せながらどのような駅にするかを説明してみるがまだピンと来ていなさそうだ。
なんせまだイラストだけなのでピンとこないのは仕方ないのかも知れないが、日本側の人ですらあんまりピンと来てないのはちょっとつらい。
羊の獣人さん(確かあの廃駅の向こうにある金羊国のお偉いさんだったはずだ)が通訳さんの目を見た後、俺に向けて何か語りかけたあと通訳さんはこう告げる。

「そう遠くない未来でここは僕らの国とこの口を繋ぐ大きな出入り口になってくれて、そのために皆さんが頑張ってくれて嬉しいです」

その一言が告げられた直後、羊の獣人さんの方を見るとニコリと笑ってくれた。
(この仕事は確かに求められてる仕事なんだ!)
いつかこの場所で異世界行きの列車が軽やかな汽笛を鳴らして旅立つ日を、この目前にある人は求めてくれている。
今はそれだけでもこの仕事の意味があるような気がした。
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