異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・秋(17部分)

秋の夜長にカレーを煮込む

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「今日のメニューどうするかなぁ」
食材置き場の食材や調味料と睨めっこしながら、今日のご飯を決めるのは俺の仕事である。
大使館の食を担う大使館料理人として毎日3食のご飯を用意するようになって3年、そろそろネタのストックが尽きてきた。
現地の料理を日本風にアレンジしてみたり現地の食材で日本の家庭料理を作ってみたりして、僕なりに研究を進めてきたけど3年間ほぼ毎日やってるものだからさすがにそろそろネタ切れになってきた。
「そもそも毎日3食違うものを出してる時点ですごいと思いますけど」
「こんなこと地球でも日本人くらいしかやらないけどね、でもそれが当たり前の国で育ってるから可能な限りネタ被りしないようにって思ってはいるんだよね」
どうしようかなぁとぼんやり考えていると、頭の片隅にが思い浮かんでくる。
(をここで作るにもスパイスが自給出来ないからなぁ、まあ日本から買ってきてもいいんだけどいいのかな?)
でも一度が頭の中をよぎってしまうと、あの味わいが無性に恋しくなってきてしまう。
「……うん、決めた。今日はカレーにします!」
「カレーってなんですか?」
「地球のさまざまな場所で愛される肉と野菜をたくさんの煮込んで色んなスパイスで味付けして、ご飯や平焼きパンと食べる世界最高のスパイス料理だよ」
大使や他の人たちからすると馴染みがあり過ぎて異世界で食べるものでもないだろう。でも今俺がカレーを食べたいのだ!今日はリクエストもないし、今夜は誰になんと言われてもカレーである!!!!!!
「スパイスはどうするんですか?」
「日本で買います!」

***

と言うわけで、市販のカレールーを買ってきた。
いや料理人としてはね?ちゃんとスパイスを調合してもいいんだけど、他の仕事(主に冬に向けた保存食の準備)もあるのに流石にそこまで手間をかけられないから今日はカレールーを使う。
「この辺の奴皮剥いて一口くらいの大きさに切り揃えてくれる?」
「これちょっとヤバそうに見えるんですけど良いんですか?」
「カレーは味が濃いからそろそろ食べておかないとダメな野菜でも美味しく食べられるんだよ」
「日本の暮らしの知恵ですね」
大使館で買い置きしてる野菜たちの皮を剥いてもらってる間に、こちらもそろそろヤバそうな猪肉を一口サイズにカットしておく。
そして油をしいた鍋に野菜とお肉を軽く炒めて焼き目をつける。
「なんで煮込み料理なのに先に炒めるんですか?」
「先にちょっと焼き目をつけておくと風味が出るし、この焼き目も美味しいんだよ。まあ最初から水で煮込んでもそれなりに美味しくなるけど、ちょっとの手間で美味しくなるならその手間は惜しまない人間だから」
「へぇ」
そんなことを言ってるうちに野菜に火が通ってきたので、お水を入れてもらって少し煮込む。
あとは市販のカレールーを入れて少し時間を置いて馴染ませれば完成だ。
「スパイスがたくさん入ってる料理って初めて見ました」
「こっちだと高級品だものね」
そのうち日本から格安のスパイスを買って転売する商売をする人も現れそうだけど、まだ今のところ見かけた事はない。
日本で売られてるスパイスは安い物ならこっちの人でも手を出せる価格帯だが、高級品のイメージが強すぎてみんななかなか手が出せないのかもしれない。
「これってどうするんですか?」
「あ、もちろんいつも通り持ち帰ってくれていいよ。こっちの人の感想聞いてみたいしね」
カレーがウケるかは分からないけど、参考になる話はいくらでも聞きたいのだ。
「いつもありがとうございます」
「感想たっぷり聞かせてね」
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