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大使館3年目・秋(17部分)
カナヘビ料理人、月見バーガーを食べる
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日本という国に赴任してもう1年が過ぎたけれど、まだまだ街の人は私の姿に見慣れないらしくちょくちょくこちらへ視線が飛んでくる。
(やっぱり爬虫類系の獣人って目立っちゃうよなぁ~)
東京にもちょくちょく日本に出稼ぎに来た獣人が出てきたとはいえ、そのほとんどは哺乳類や鳥類の獣人だ。
爬虫類系の獣人は見た目で苦手意識を持つ人も多いし、私の場合は見た目が人間サイズで二足歩行するカナヘビだからどうしても目立ってしまう。
サーカスの料理人として大陸を回っていた時もいつも同じように目立っていたから諦めてるけど、差し向けられる一方的な好奇や嫌悪感の視線に慣れることはない。
「あ、ここだ」
今日の目的であるマクドナルドの前に立つと、目的の月見バーガーなるものの写真が大きな布に印刷されて貼り付けられている。
きょうは、日本では秋になるとよく食べられるというこの月見バーガーを味わいに私はここへ来たのである。
(でも思ったより沢山あるなぁ……ここは一番ベーシックな奴がいいかな?)
国から貰ったお金で食べ歩くのだから無駄遣いや食べ過ぎはしたくない。とりあえず一番ベーシックなものにしようか。
お店の中に足を踏み入れるとお店はお昼ごはんを食べにきたお客さんで混雑しており、あっちこっちから美味しそうな匂いがしてくるのでつい引き寄せられそうになってしまう。
「月見バーガーをセットでください、飲み物はコーラで」
コーラは前に外務省の飯島さんから飲ませてもらって以来、ここでしか飲めない飲み物として結構気に入っていた。
程なくして届いた月見バーガーと手にお店の隅っこの席に座って、まずは一口食べてみる。
(あ、おいし……)
クリーミーなトマトのソースとお肉と卵という組み合わせは初めて食べたけど、思っていた以上によく合う。
そもそもマヨネーズ自体があちらにはないものだからマヨネーズ系の味は何回食べても面白く感じられるのだ。
「あの、相席大丈夫ですか?空いてる席がなくて……」
お盆にハンバーガーをたくさん乗せたスーツ姿のお姉さんが申し訳なさそうにそう聞いてくるので「いいですよ」と出来るだけにっこりと答える。
「すいません」「いえいえ」
向かい側に座ったお姉さんのお盆の上にはこのお店の月見バーガーが全種類揃っていて、思わず目を見開いてしまう。
「こんなに食べるんですか?」
「あー……月見バーガー好きなんです。この時期になるといろんなお店の月見バーガー食べ歩いてて」
「へえ。日本の方ってそんなに月見バーガー好きなんですね」
「私は少し極端な方ですけどね。好きな人はたくさんいますよ」
そこまで人気なら、私たちの国の食材を使った月見バーガーを出したら意外とウケるかもしれない。
「あの、異世界の人にとっても月見バーガーって美味しいですか?」
「んー、日本の味って結構濃いからなぁ。調味料も向こうのほうが少ないし。でも味の方向性はわりと近しいと思いますね」
基本的な味付けが少ない金羊国では日本の味付けは結構濃いめだけど、塩気の強いものは好まれるから少し似ている部分もある。
ぱくりと月見バーガーをかじりながらそんな話をしていると、相手の女性が私の口元を見てきた。
「?どうかしましたか?」
「あ、その、歯ってあるのかなって……」
「ありますよ。私の場合は顎とくっついてるし小さいからわかりにくいんでしょうね」
爬虫類系の獣人の場合、あごにくっついて5ミリ程の歯が生えているので物を噛み切ることは出来る。まあ咀嚼は舌と上顎で荒く潰す感じでやるから大変だけど。
「そうだったんですね、歯がなさそうなのに嚙み切れるのかなって……」
「よく言われるんですよねー、それ。全ての動物が人間みたいに立派な歯を持ってるわけではないんですけどね」
日本に来て来て思うのは、このの世界でも人間が自己の視点で生きてるということだ。
人間しかいない状態でずっと回ってきた社会だ。
だからこの世界の人から見て異世界から来た獣人という存在をまだ受け入れかねていたり、付き合い方が分からなくて遠ざけようとする人や、私たちを理解しようとすらせずに都合よく使った後は追い出そうとする人が確かに存在している。
「すいません、不快にさせてしまいましたか?」
でも、同時に彼らの中には私たちを下に見なすものは少なく、分からないなりに付き合い方を模索してくれている優しい人は確かに存在する。
たとえば、いま目の前で大きなカナヘビの前で申し訳なさそうにしているこのお姉さんのように。
(やっぱりこの世界は面白いものがたくさんあるなぁ)
こういう人とはきっと金羊国の外では出会えないと思っていたのに、この国には確かに存在しているのだ。
「いえ。よかったらお姉さんのおすすめ、教えてくれませんか?」
(やっぱり爬虫類系の獣人って目立っちゃうよなぁ~)
東京にもちょくちょく日本に出稼ぎに来た獣人が出てきたとはいえ、そのほとんどは哺乳類や鳥類の獣人だ。
爬虫類系の獣人は見た目で苦手意識を持つ人も多いし、私の場合は見た目が人間サイズで二足歩行するカナヘビだからどうしても目立ってしまう。
サーカスの料理人として大陸を回っていた時もいつも同じように目立っていたから諦めてるけど、差し向けられる一方的な好奇や嫌悪感の視線に慣れることはない。
「あ、ここだ」
今日の目的であるマクドナルドの前に立つと、目的の月見バーガーなるものの写真が大きな布に印刷されて貼り付けられている。
きょうは、日本では秋になるとよく食べられるというこの月見バーガーを味わいに私はここへ来たのである。
(でも思ったより沢山あるなぁ……ここは一番ベーシックな奴がいいかな?)
国から貰ったお金で食べ歩くのだから無駄遣いや食べ過ぎはしたくない。とりあえず一番ベーシックなものにしようか。
お店の中に足を踏み入れるとお店はお昼ごはんを食べにきたお客さんで混雑しており、あっちこっちから美味しそうな匂いがしてくるのでつい引き寄せられそうになってしまう。
「月見バーガーをセットでください、飲み物はコーラで」
コーラは前に外務省の飯島さんから飲ませてもらって以来、ここでしか飲めない飲み物として結構気に入っていた。
程なくして届いた月見バーガーと手にお店の隅っこの席に座って、まずは一口食べてみる。
(あ、おいし……)
クリーミーなトマトのソースとお肉と卵という組み合わせは初めて食べたけど、思っていた以上によく合う。
そもそもマヨネーズ自体があちらにはないものだからマヨネーズ系の味は何回食べても面白く感じられるのだ。
「あの、相席大丈夫ですか?空いてる席がなくて……」
お盆にハンバーガーをたくさん乗せたスーツ姿のお姉さんが申し訳なさそうにそう聞いてくるので「いいですよ」と出来るだけにっこりと答える。
「すいません」「いえいえ」
向かい側に座ったお姉さんのお盆の上にはこのお店の月見バーガーが全種類揃っていて、思わず目を見開いてしまう。
「こんなに食べるんですか?」
「あー……月見バーガー好きなんです。この時期になるといろんなお店の月見バーガー食べ歩いてて」
「へえ。日本の方ってそんなに月見バーガー好きなんですね」
「私は少し極端な方ですけどね。好きな人はたくさんいますよ」
そこまで人気なら、私たちの国の食材を使った月見バーガーを出したら意外とウケるかもしれない。
「あの、異世界の人にとっても月見バーガーって美味しいですか?」
「んー、日本の味って結構濃いからなぁ。調味料も向こうのほうが少ないし。でも味の方向性はわりと近しいと思いますね」
基本的な味付けが少ない金羊国では日本の味付けは結構濃いめだけど、塩気の強いものは好まれるから少し似ている部分もある。
ぱくりと月見バーガーをかじりながらそんな話をしていると、相手の女性が私の口元を見てきた。
「?どうかしましたか?」
「あ、その、歯ってあるのかなって……」
「ありますよ。私の場合は顎とくっついてるし小さいからわかりにくいんでしょうね」
爬虫類系の獣人の場合、あごにくっついて5ミリ程の歯が生えているので物を噛み切ることは出来る。まあ咀嚼は舌と上顎で荒く潰す感じでやるから大変だけど。
「そうだったんですね、歯がなさそうなのに嚙み切れるのかなって……」
「よく言われるんですよねー、それ。全ての動物が人間みたいに立派な歯を持ってるわけではないんですけどね」
日本に来て来て思うのは、このの世界でも人間が自己の視点で生きてるということだ。
人間しかいない状態でずっと回ってきた社会だ。
だからこの世界の人から見て異世界から来た獣人という存在をまだ受け入れかねていたり、付き合い方が分からなくて遠ざけようとする人や、私たちを理解しようとすらせずに都合よく使った後は追い出そうとする人が確かに存在している。
「すいません、不快にさせてしまいましたか?」
でも、同時に彼らの中には私たちを下に見なすものは少なく、分からないなりに付き合い方を模索してくれている優しい人は確かに存在する。
たとえば、いま目の前で大きなカナヘビの前で申し訳なさそうにしているこのお姉さんのように。
(やっぱりこの世界は面白いものがたくさんあるなぁ)
こういう人とはきっと金羊国の外では出会えないと思っていたのに、この国には確かに存在しているのだ。
「いえ。よかったらお姉さんのおすすめ、教えてくれませんか?」
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