異世界大使館雑録

あかべこ

文字の大きさ
上 下
112 / 128
大使館3年目・秋(17部分)

カナヘビ料理人、月見バーガーを食べる

しおりを挟む
日本という国に赴任してもう1年が過ぎたけれど、まだまだ街の人は私の姿に見慣れないらしくちょくちょくこちらへ視線が飛んでくる。
(やっぱり爬虫類系の獣人って目立っちゃうよなぁ~)
東京にもちょくちょく日本に出稼ぎに来た獣人が出てきたとはいえ、そのほとんどは哺乳類や鳥類の獣人だ。
爬虫類系の獣人は見た目で苦手意識を持つ人も多いし、私の場合は見た目が人間サイズで二足歩行するカナヘビだからどうしても目立ってしまう。
サーカスの料理人として大陸を回っていた時もいつも同じように目立っていたから諦めてるけど、差し向けられる一方的な好奇や嫌悪感の視線に慣れることはない。
「あ、ここだ」
今日の目的であるマクドナルドの前に立つと、目的の月見バーガーなるものの写真が大きな布に印刷されて貼り付けられている。
きょうは、日本では秋になるとよく食べられるというこの月見バーガーを味わいに私はここへ来たのである。
(でも思ったより沢山あるなぁ……ここは一番ベーシックな奴がいいかな?)
国から貰ったお金で食べ歩くのだから無駄遣いや食べ過ぎはしたくない。とりあえず一番ベーシックなものにしようか。
お店の中に足を踏み入れるとお店はお昼ごはんを食べにきたお客さんで混雑しており、あっちこっちから美味しそうな匂いがしてくるのでつい引き寄せられそうになってしまう。
「月見バーガーをセットでください、飲み物はコーラで」
コーラは前に外務省の飯島さんから飲ませてもらって以来、ここでしか飲めない飲み物として結構気に入っていた。
程なくして届いた月見バーガーと手にお店の隅っこの席に座って、まずは一口食べてみる。
(あ、おいし……)
クリーミーなトマトのソースとお肉と卵という組み合わせは初めて食べたけど、思っていた以上によく合う。
そもそもマヨネーズ自体があちらにはないものだからマヨネーズ系の味は何回食べても面白く感じられるのだ。
「あの、相席大丈夫ですか?空いてる席がなくて……」
お盆にハンバーガーをたくさん乗せたスーツ姿のお姉さんが申し訳なさそうにそう聞いてくるので「いいですよ」と出来るだけにっこりと答える。
「すいません」「いえいえ」
向かい側に座ったお姉さんのお盆の上にはこのお店の月見バーガーが全種類揃っていて、思わず目を見開いてしまう。
「こんなに食べるんですか?」
「あー……月見バーガー好きなんです。この時期になるといろんなお店の月見バーガー食べ歩いてて」
「へえ。日本の方ってそんなに月見バーガー好きなんですね」
「私は少し極端な方ですけどね。好きな人はたくさんいますよ」
そこまで人気なら、私たちの国の食材を使った月見バーガーを出したら意外とウケるかもしれない。
「あの、異世界の人にとっても月見バーガーって美味しいですか?」
「んー、日本の味って結構濃いからなぁ。調味料も向こうのほうが少ないし。でも味の方向性はわりと近しいと思いますね」
基本的な味付けが少ない金羊国では日本の味付けは結構濃いめだけど、塩気の強いものは好まれるから少し似ている部分もある。
ぱくりと月見バーガーをかじりながらそんな話をしていると、相手の女性が私の口元を見てきた。
「?どうかしましたか?」
「あ、その、歯ってあるのかなって……」
「ありますよ。私の場合は顎とくっついてるし小さいからわかりにくいんでしょうね」
爬虫類系の獣人の場合、あごにくっついて5ミリ程の歯が生えているので物を噛み切ることは出来る。まあ咀嚼は舌と上顎で荒く潰す感じでやるから大変だけど。
「そうだったんですね、歯がなさそうなのに嚙み切れるのかなって……」
「よく言われるんですよねー、それ。全ての動物が人間みたいに立派な歯を持ってるわけではないんですけどね」
日本に来て来て思うのは、このの世界でも人間が自己の視点で生きてるということだ。
人間しかいない状態でずっと回ってきた社会だ。
だからこの世界の人から見て異世界から来た獣人という存在をまだ受け入れかねていたり、付き合い方が分からなくて遠ざけようとする人や、私たちを理解しようとすらせずに都合よく使った後は追い出そうとする人が確かに存在している。
「すいません、不快にさせてしまいましたか?」
でも、同時に彼らの中には私たちを下に見なすものは少なく、分からないなりに付き合い方を模索してくれている優しい人は確かに存在する。
たとえば、いま目の前で大きなカナヘビの前で申し訳なさそうにしているこのお姉さんのように。
(やっぱりこの世界は面白いものがたくさんあるなぁ)
こういう人とはきっと金羊国の外では出会えないと思っていたのに、この国には確かに存在しているのだ。
「いえ。よかったらお姉さんのおすすめ、教えてくれませんか?」
しおりを挟む
このお話は本編とセットで読むのがおすすめです
マシュマロで匿名感想も受け付けています
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...