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大使館3年目・春(15部分)
ナイトクロール
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どんな街でも昼の顔と夜の顔は異なっている、それは異世界であっても変わることはありません。
「今日も夜の散歩ですか」
夏沢さんが皮肉混じりに私にそう問いかけるので「君もでしょう?」と返してみれば「私は遊びに行くんですよ」と答えてくれます。
やっぱり同じようなものじゃないですか。
「ちなみにどちらへ遊びに?」
「スリーコインで遊びに」
彼女の言うスリーコインというのは、この世界で主流の賭け事です。
3枚(人数が多い時は5枚・7枚などの奇数)でコインを投げて、表が出たコインと裏が出たコインどちらが多いかを予想して賭けると言うシンプルなものです。
「石薙さんもどうです?夜の散歩だけじゃ物足りないでしょ」
「散歩のあとの1人飲みも楽しいんですよ?」
1人飲みの店先で色々と話を聞くのは仕事の一環なのですが、そんなことはお互い承知のことです。
彼女も同じように賭場で話を聞くんでしょうね。
「そういや最近賭場で日本人が出入りしてるんですよね、まあ遊ぶとこが少ないから仕方ないんでしょうけど」
「飲む打つ買うの遊びはこちらでも人気ですねえ」
夏沢くんがふと自分の手元に私の視線を誘導すると、手話で「後ろ、男、3」と示してきます。どうやら誰かついてきてるようですね。
「賭場や酒場に行くことを否定はしませんけど変なのに絡まれないように気をつけてくださいね」
「もちろんですよ、女1人だと変なのが寄ってきがちなんで紅忠の支社長さんと一緒にいる事も結構あるんですよ」
のんびりと歩きながら敢えて袋小路へと向かっています。
襲撃者の足跡がジャリッとした瞬間、彼女がなんの躊躇もなく拳銃を引き抜いて襲撃者の頭上を狙って発砲してきました。
ひとりがダッと私に走り込んできました。手元には何かしらの棒が見えますね、その棒を掴んで相手を超近距離に引き寄せて鳩尾に一発拳を入れます。
夏沢くんも容赦なくふたりの顔面に回し蹴りを入れ、一撃で気絶まで落とし込む彼女はフッとため息を吐い捨てます。
「お疲れ様です!」
すぐに来たのは国内の警備を担うカラスの獣人男性で、銃声に反応して駆けつけてくれたのだろうと察せられます。
「おつかれさまです、日本大使館の夏沢です。襲撃者の手荷物検査を行ってから引き渡しますので立ち会いお願いできますか」
「はい」
そう言いながら彼女は3人の身体を固定すると、早速スマホのライトを付けて手荷物を漁ります。
私も小さめの灯りを準備しておきましょう。
「石薙さん、」
手渡されたのは文字の刻まれた細長い紙を受け取ると、私は咄嗟に襲撃者の使っていた棒に巻きつけてみました。
隣にいたカラスの獣人のひとに縦読みするように伝えると、手紙を清書してくれます。おかげでかなりわかりやすくなりましたが、暗号化されててパッと見ただけでは全くわかりませんね。
カラス獣人のひとがその手紙を頭から読み返すと「日本の武力を知りたがってる人がいるようですね」と伝えてくれます。
「それでこの襲撃かな、西の国?」
「この手紙だけだとわかりませんね」
そもそも暗号化されててちょっとわかりにくいんですよねこれ……。
隣にいたカラスの獣人のひとに「金羊国側に託すので調査をお願い出来ますか?」と聞いてみます。
「私たちで調査ですか?」
「大陸内のことは日本よりも金羊国に任せる方が精度が高いでしょうから」
「承知しました」
まあ日本側の人間のやり方としては少々問題があるでしょうが、まだコネが少ない私がやるよりもこの国の人たちに任せるほうが精度は高いでしょう。それに他に仕事を抱える身なので任せられるものは任せるのが一番です。
「いいの?」「いいんですよ」
襲撃者の手荷物を全部引っ張り出した夏沢くんは記録写真を撮影すると「石薙さんがそう判断したって伝えとくね」と言いながら、手荷物を一旦金羊国へ託すことにしたようです。
「この後はどうなさるんですか?」
「何もないよ、普通に遊びに。何かあれば大使館に連絡してくれる?」
夏沢くんが平然とそう答えるので、カラスの獣人のひとは困惑しつつも「分かりました」と受け入れてくれる。
「私は疲れたので彼と話をしたら帰ります」
「了解」
そう言って夏沢くんはまたふらりと夜の街へ歩き出します。
明かりの少ない異世界の夜にはまだ私たちの知らないものが隠れていて、襲撃者を倒してもまだ彼女は探す元気があるようです。
(まあ、夜の散歩の続きはまた後日にしましょうか)
「今日も夜の散歩ですか」
夏沢さんが皮肉混じりに私にそう問いかけるので「君もでしょう?」と返してみれば「私は遊びに行くんですよ」と答えてくれます。
やっぱり同じようなものじゃないですか。
「ちなみにどちらへ遊びに?」
「スリーコインで遊びに」
彼女の言うスリーコインというのは、この世界で主流の賭け事です。
3枚(人数が多い時は5枚・7枚などの奇数)でコインを投げて、表が出たコインと裏が出たコインどちらが多いかを予想して賭けると言うシンプルなものです。
「石薙さんもどうです?夜の散歩だけじゃ物足りないでしょ」
「散歩のあとの1人飲みも楽しいんですよ?」
1人飲みの店先で色々と話を聞くのは仕事の一環なのですが、そんなことはお互い承知のことです。
彼女も同じように賭場で話を聞くんでしょうね。
「そういや最近賭場で日本人が出入りしてるんですよね、まあ遊ぶとこが少ないから仕方ないんでしょうけど」
「飲む打つ買うの遊びはこちらでも人気ですねえ」
夏沢くんがふと自分の手元に私の視線を誘導すると、手話で「後ろ、男、3」と示してきます。どうやら誰かついてきてるようですね。
「賭場や酒場に行くことを否定はしませんけど変なのに絡まれないように気をつけてくださいね」
「もちろんですよ、女1人だと変なのが寄ってきがちなんで紅忠の支社長さんと一緒にいる事も結構あるんですよ」
のんびりと歩きながら敢えて袋小路へと向かっています。
襲撃者の足跡がジャリッとした瞬間、彼女がなんの躊躇もなく拳銃を引き抜いて襲撃者の頭上を狙って発砲してきました。
ひとりがダッと私に走り込んできました。手元には何かしらの棒が見えますね、その棒を掴んで相手を超近距離に引き寄せて鳩尾に一発拳を入れます。
夏沢くんも容赦なくふたりの顔面に回し蹴りを入れ、一撃で気絶まで落とし込む彼女はフッとため息を吐い捨てます。
「お疲れ様です!」
すぐに来たのは国内の警備を担うカラスの獣人男性で、銃声に反応して駆けつけてくれたのだろうと察せられます。
「おつかれさまです、日本大使館の夏沢です。襲撃者の手荷物検査を行ってから引き渡しますので立ち会いお願いできますか」
「はい」
そう言いながら彼女は3人の身体を固定すると、早速スマホのライトを付けて手荷物を漁ります。
私も小さめの灯りを準備しておきましょう。
「石薙さん、」
手渡されたのは文字の刻まれた細長い紙を受け取ると、私は咄嗟に襲撃者の使っていた棒に巻きつけてみました。
隣にいたカラスの獣人のひとに縦読みするように伝えると、手紙を清書してくれます。おかげでかなりわかりやすくなりましたが、暗号化されててパッと見ただけでは全くわかりませんね。
カラス獣人のひとがその手紙を頭から読み返すと「日本の武力を知りたがってる人がいるようですね」と伝えてくれます。
「それでこの襲撃かな、西の国?」
「この手紙だけだとわかりませんね」
そもそも暗号化されててちょっとわかりにくいんですよねこれ……。
隣にいたカラスの獣人のひとに「金羊国側に託すので調査をお願い出来ますか?」と聞いてみます。
「私たちで調査ですか?」
「大陸内のことは日本よりも金羊国に任せる方が精度が高いでしょうから」
「承知しました」
まあ日本側の人間のやり方としては少々問題があるでしょうが、まだコネが少ない私がやるよりもこの国の人たちに任せるほうが精度は高いでしょう。それに他に仕事を抱える身なので任せられるものは任せるのが一番です。
「いいの?」「いいんですよ」
襲撃者の手荷物を全部引っ張り出した夏沢くんは記録写真を撮影すると「石薙さんがそう判断したって伝えとくね」と言いながら、手荷物を一旦金羊国へ託すことにしたようです。
「この後はどうなさるんですか?」
「何もないよ、普通に遊びに。何かあれば大使館に連絡してくれる?」
夏沢くんが平然とそう答えるので、カラスの獣人のひとは困惑しつつも「分かりました」と受け入れてくれる。
「私は疲れたので彼と話をしたら帰ります」
「了解」
そう言って夏沢くんはまたふらりと夜の街へ歩き出します。
明かりの少ない異世界の夜にはまだ私たちの知らないものが隠れていて、襲撃者を倒してもまだ彼女は探す元気があるようです。
(まあ、夜の散歩の続きはまた後日にしましょうか)
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