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大使館3年目・夏(16部分)
深大寺くんの双海公国見聞録3(前)
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公爵邸内にいるときは邸宅内の人を観察したり話を聞くようにしていると、この世界における獣人の扱いについて面白いことがわかってきた。
まず、公爵邸で獣人は基本的に人目につかない場所や時間にしか出てこない。
これは邸宅内において獣人は主に汚物の清掃を担うため、人目について不快にさせないためである。
他にも公爵邸内やヤマンラール商会での力仕事を担う獣人もいる。主に綿花の摘み取りや船の積荷の上げ下ろし、高所作業をする獣人だ。しかし彼らも基本裏方の仕事を担うので基本表に出てくることは少ない。
しかし例外がある。それが愛玩用獣人と解放奴隷だ。
僕が公爵家に滞在中のとき、カウサル女公爵の元に愛玩用獣人を連れた西の国の貴族が訪ねてきた事がある。
その貴族が連れてきていたのは美しい飾り羽根を持つ孔雀の青年獣人で、豪華に飾り付けられた首輪や色鮮やかな衣装を纏っていた。
「最近飼ったんだ、綺麗だろ?」
「自慢しに来たのか?」
「それもある。随分と綺麗な羽根だろう?」
「確かに。しっかり手入れもなされてるしな」
そんな2人の会話の後ろでただぺたんと床に座る獣人青年は褒められている時の犬や猫のように喜びを示すようにニコニコと笑っている。
実際遠目からでもわかるまっすぐに伸びた背筋やシミひとつない肌は、彼が大事にされているのだと伝わってくる。
「こいつの事はこれくらいにして、本題は父上からの伝言だ。ヤマンラール公爵家のために縁談を用意してきた、相手は僕だ」
「私のためとすら言えない叔父上の縁談に興味は無い」
「女手ひとつで商会と公爵家を守るよりも、信頼出来る従兄弟である僕を婿に入れる方が安牌だと思うが?」
「生まれながらのお貴族様であるお前に商店主は無理だと思うんだがね」
「だからと言って平民を婿に取る気か?仮にも公爵家なんだぞ?」
「私は別に平民でもいいんだ、ただ叔父上が婿にするなら伯爵位以上と言ってるだけで」
そんな口喧嘩を身じろぎどころか吐息すら聞かせず獣人青年は主人のそばに座っており、まるで彼は生きた置物のようであった。
僕はそんな彼と話をしてみたいと思った。
話の後、公爵邸に一泊すると聞きつけた僕はカウサル女公爵に彼と話してみたいとお願いした。
「その場合はあいつ、お前が話したいって言う奴隷の所有者に許可を取らないとならないな」
「えっ」
「他人の所有物だから話すのに許可がいるんだよ。そちらの世界だと気にする必要はないんだろうけどね」
その時になって僕は人が所有物扱いされると言うことを初めて感じたように思う。
ただちょっと話をするだけだと言うのに本人以外の許可がいると言う事が予想外だったのだ。
(ちょっと日本的な、いや地球的価値観で考え過ぎてたかもな)
「あ、異世界人ってことは伏せて何か違う身分を騙ってくれるか?回り回って教会にバレると面倒だからね」
公爵邸宅では現公爵閣下のお気に入りと言う事で僕が何者であるかを直接聞いてくるものはいないが、それなりのカバーストーリーが必要なのも事実だ。
結局僕は公爵家に滞在中の作家で貴族の愛玩用奴隷を作品に出すための取材、という事にして話をする許可を取ることができた。
詳しく話を聞くうちに分かってきたのは、金羊国以外の国における獣人社会の差別だ。
彼のような貴族の愛玩用奴隷にとって汚物処理や力仕事を担う獣人は下等な存在だという。
本人曰く「ああいうの(※汚物処理を行う獣人)は前世で逃れ難いほど重い罪を被り、僕は些細な間違いによる罪によってこの身に堕とされた」らしい。
こういう考えは他の愛玩奴隷達も同じように考えているそうで、獣人社会の中でもそうした分断があるのだ。
被差別者社会の中にある差別の例は幾つか存在するが実際に目の当たりにするとどこかグロテスクに見え、取材記録の紙に彼の話を書き付けながらなんとも言い難いものを感じていた。
さらに興味深いのは彼が獣人の国である金羊国にも否定的だった事だ。
彼から言わせてみれば「人間から逃れたところで三世の苦難に生きる事が決まるだけなのだから、来世で人として生きるため今世では苦しくとも主人に絶対の愛と忠誠を捧ぐ事が一番良い」のだそうだ。
僕が「何故来世の救いを信じているのか?」と聞けば「親代わりの奴隷商人や周りの人間がそういう風に言っていたから」と実にあっさり答えた。
他にも公爵邸にいる獣人奴隷の多くも皆その言い分を信じていて、前世来世など漫画の世界と割り切る身としては自分たちに都合のいい事吹き込んでるなあ……という感想しか湧いてこなかった。
まず、公爵邸で獣人は基本的に人目につかない場所や時間にしか出てこない。
これは邸宅内において獣人は主に汚物の清掃を担うため、人目について不快にさせないためである。
他にも公爵邸内やヤマンラール商会での力仕事を担う獣人もいる。主に綿花の摘み取りや船の積荷の上げ下ろし、高所作業をする獣人だ。しかし彼らも基本裏方の仕事を担うので基本表に出てくることは少ない。
しかし例外がある。それが愛玩用獣人と解放奴隷だ。
僕が公爵家に滞在中のとき、カウサル女公爵の元に愛玩用獣人を連れた西の国の貴族が訪ねてきた事がある。
その貴族が連れてきていたのは美しい飾り羽根を持つ孔雀の青年獣人で、豪華に飾り付けられた首輪や色鮮やかな衣装を纏っていた。
「最近飼ったんだ、綺麗だろ?」
「自慢しに来たのか?」
「それもある。随分と綺麗な羽根だろう?」
「確かに。しっかり手入れもなされてるしな」
そんな2人の会話の後ろでただぺたんと床に座る獣人青年は褒められている時の犬や猫のように喜びを示すようにニコニコと笑っている。
実際遠目からでもわかるまっすぐに伸びた背筋やシミひとつない肌は、彼が大事にされているのだと伝わってくる。
「こいつの事はこれくらいにして、本題は父上からの伝言だ。ヤマンラール公爵家のために縁談を用意してきた、相手は僕だ」
「私のためとすら言えない叔父上の縁談に興味は無い」
「女手ひとつで商会と公爵家を守るよりも、信頼出来る従兄弟である僕を婿に入れる方が安牌だと思うが?」
「生まれながらのお貴族様であるお前に商店主は無理だと思うんだがね」
「だからと言って平民を婿に取る気か?仮にも公爵家なんだぞ?」
「私は別に平民でもいいんだ、ただ叔父上が婿にするなら伯爵位以上と言ってるだけで」
そんな口喧嘩を身じろぎどころか吐息すら聞かせず獣人青年は主人のそばに座っており、まるで彼は生きた置物のようであった。
僕はそんな彼と話をしてみたいと思った。
話の後、公爵邸に一泊すると聞きつけた僕はカウサル女公爵に彼と話してみたいとお願いした。
「その場合はあいつ、お前が話したいって言う奴隷の所有者に許可を取らないとならないな」
「えっ」
「他人の所有物だから話すのに許可がいるんだよ。そちらの世界だと気にする必要はないんだろうけどね」
その時になって僕は人が所有物扱いされると言うことを初めて感じたように思う。
ただちょっと話をするだけだと言うのに本人以外の許可がいると言う事が予想外だったのだ。
(ちょっと日本的な、いや地球的価値観で考え過ぎてたかもな)
「あ、異世界人ってことは伏せて何か違う身分を騙ってくれるか?回り回って教会にバレると面倒だからね」
公爵邸宅では現公爵閣下のお気に入りと言う事で僕が何者であるかを直接聞いてくるものはいないが、それなりのカバーストーリーが必要なのも事実だ。
結局僕は公爵家に滞在中の作家で貴族の愛玩用奴隷を作品に出すための取材、という事にして話をする許可を取ることができた。
詳しく話を聞くうちに分かってきたのは、金羊国以外の国における獣人社会の差別だ。
彼のような貴族の愛玩用奴隷にとって汚物処理や力仕事を担う獣人は下等な存在だという。
本人曰く「ああいうの(※汚物処理を行う獣人)は前世で逃れ難いほど重い罪を被り、僕は些細な間違いによる罪によってこの身に堕とされた」らしい。
こういう考えは他の愛玩奴隷達も同じように考えているそうで、獣人社会の中でもそうした分断があるのだ。
被差別者社会の中にある差別の例は幾つか存在するが実際に目の当たりにするとどこかグロテスクに見え、取材記録の紙に彼の話を書き付けながらなんとも言い難いものを感じていた。
さらに興味深いのは彼が獣人の国である金羊国にも否定的だった事だ。
彼から言わせてみれば「人間から逃れたところで三世の苦難に生きる事が決まるだけなのだから、来世で人として生きるため今世では苦しくとも主人に絶対の愛と忠誠を捧ぐ事が一番良い」のだそうだ。
僕が「何故来世の救いを信じているのか?」と聞けば「親代わりの奴隷商人や周りの人間がそういう風に言っていたから」と実にあっさり答えた。
他にも公爵邸にいる獣人奴隷の多くも皆その言い分を信じていて、前世来世など漫画の世界と割り切る身としては自分たちに都合のいい事吹き込んでるなあ……という感想しか湧いてこなかった。
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