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それぞれの昔話
空の青さのその理由(わけ)
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「そう言えば、なんでヴィクトワールは教会に追われる身の上になったの?」
瑠璃が疲れたと言うので肩を揉んであげていたら、突然そんなことを聞かれた。
「私に興味持ってくれたの?」
「多少はね」
言葉で説明しても良いけれど、せっかくだからと指先を額に当てて私の過去の景色を映し出した。
****
幼少期、私は小さな教会に預けられて育った。
生まれてすぐに黒い産毛が生えていることに気づいた両親が、忌み子が自分の暮らす村を滅ぼさぬよう少し離れた大きな町の教会に私を預けたのだ。
両親は時折町に来るついでに教会へ来たのでシスターに教えられて遠目から見たくらいで、その顔や声の記憶は朧げだった。
そんな両親に恨みは無かったし、恋しいと思う事もなかった。
忌み子として教会でも町でも怒らせると禍いが降りかかると思われて浮いた子どもだったし、そう言うものなのだろうとどこか冷めた気持ちで生きていた。
『確かにあなたは忌み子として恐れられているかもしれない、でもその力は正しく使えば人を救うものになるわ』
私に繰り返し言い含めながら魔術を教えたのは教会のシスター長だった。
魔術を学ぶのは面白かった。普通なら出来ないことを容易に成功させる力に魅了された。
それと同時に人間に魔術を与えたと言う神がどう言う意図で私たちに魔術を与えたのかを私は誰よりも知りたかった。
それは私を育てたシスター長も教会に置いてあった聖書にも答えは無かった。
魔術を追求すればその答えに出会えるはずと信じて私は教会で魔術を学び続けるうちにその魔術能力を認められ、教会総本部の研究者として呼ばれる事になったのは10歳の頃だった。
『空と海が青いのは神に愛されし色だからさ』
幼い私の問いにそう答えたのは当時の教会の魔術研究を統括する枢機卿ーのちの37代教皇ーであった。
魔術研究に人生を捧げたその人の問いに私の中に新しい問いが湧き上がった。
『ならば何故太陽が沈むと空は赤くなるのですか?好きな色ならばずっと青い色であっても良いじゃないですか』
私の問いに彼は『神の思し召しですよ』と答えた。
その答えは私を教会に対する失望の萌芽であった。
全てが神の思し召しであるのならば黒髪の子どもが親に捨てられる事も、魔術が使える者と使えない者がいることも、何もかもが神の考えなのだという。
ならば何故神はそう考えたのかを誰も教えてくれないのだ。
その答えを探すうちにたどり着いたのが魔術器官だった。
人間と人間以外の1番の違いである魔術器官を知ることが世界の根源を知る方法なのではないか?と考えたのだ。
魔術器官の研究は教会では禁忌であったが、私が神の考えの理由に手を伸ばすにはそれしか無かっった。
私は研究の最終目標を人造魔術器官と定めてまずは魔術器官のかたちを知るため、極秘に死体を解剖して魔術器官を観察してきた。
そして、その解剖は露見した。
『死者を冒涜し神を侮辱したその罪、万死に値する!』
幼い私に空の青さの理由を教えた37代教皇は私の行いをそう断じると、即座に私の首を刎ねるよう騎士団長に命じた。
そのひと言は私の教会への失望を芽吹かせ、失望は教会を破壊するイメージを持ったエネルギーとなって私の体を迸って全てを破壊した。
気づけば、私の周囲は爆炎の燻る瓦礫の山となった。
万死に値すると言い放った教皇とそれに追随した聖女、私を刎ねようとした騎士団長、そばにいた周りのシスターや神父達も皆黒焦げの骨となった。
それを見た時私の脳裏に湧き上がったのは喜びでも悲しみでもなく、ただひとこと。
『……研究には使えないな』
それが18歳の少女が黄金の魔女になった瞬間であり、教会からの旅立ちだった。
****
「なんかすごい凄惨なものを見せられた気がするんだけど」
ゲンナリした顔で瑠璃がそんなことを言う。
「もっとやばいのもあるけど」
「質問した私が間違ってたわ」
瑠璃が疲れたと言うので肩を揉んであげていたら、突然そんなことを聞かれた。
「私に興味持ってくれたの?」
「多少はね」
言葉で説明しても良いけれど、せっかくだからと指先を額に当てて私の過去の景色を映し出した。
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幼少期、私は小さな教会に預けられて育った。
生まれてすぐに黒い産毛が生えていることに気づいた両親が、忌み子が自分の暮らす村を滅ぼさぬよう少し離れた大きな町の教会に私を預けたのだ。
両親は時折町に来るついでに教会へ来たのでシスターに教えられて遠目から見たくらいで、その顔や声の記憶は朧げだった。
そんな両親に恨みは無かったし、恋しいと思う事もなかった。
忌み子として教会でも町でも怒らせると禍いが降りかかると思われて浮いた子どもだったし、そう言うものなのだろうとどこか冷めた気持ちで生きていた。
『確かにあなたは忌み子として恐れられているかもしれない、でもその力は正しく使えば人を救うものになるわ』
私に繰り返し言い含めながら魔術を教えたのは教会のシスター長だった。
魔術を学ぶのは面白かった。普通なら出来ないことを容易に成功させる力に魅了された。
それと同時に人間に魔術を与えたと言う神がどう言う意図で私たちに魔術を与えたのかを私は誰よりも知りたかった。
それは私を育てたシスター長も教会に置いてあった聖書にも答えは無かった。
魔術を追求すればその答えに出会えるはずと信じて私は教会で魔術を学び続けるうちにその魔術能力を認められ、教会総本部の研究者として呼ばれる事になったのは10歳の頃だった。
『空と海が青いのは神に愛されし色だからさ』
幼い私の問いにそう答えたのは当時の教会の魔術研究を統括する枢機卿ーのちの37代教皇ーであった。
魔術研究に人生を捧げたその人の問いに私の中に新しい問いが湧き上がった。
『ならば何故太陽が沈むと空は赤くなるのですか?好きな色ならばずっと青い色であっても良いじゃないですか』
私の問いに彼は『神の思し召しですよ』と答えた。
その答えは私を教会に対する失望の萌芽であった。
全てが神の思し召しであるのならば黒髪の子どもが親に捨てられる事も、魔術が使える者と使えない者がいることも、何もかもが神の考えなのだという。
ならば何故神はそう考えたのかを誰も教えてくれないのだ。
その答えを探すうちにたどり着いたのが魔術器官だった。
人間と人間以外の1番の違いである魔術器官を知ることが世界の根源を知る方法なのではないか?と考えたのだ。
魔術器官の研究は教会では禁忌であったが、私が神の考えの理由に手を伸ばすにはそれしか無かっった。
私は研究の最終目標を人造魔術器官と定めてまずは魔術器官のかたちを知るため、極秘に死体を解剖して魔術器官を観察してきた。
そして、その解剖は露見した。
『死者を冒涜し神を侮辱したその罪、万死に値する!』
幼い私に空の青さの理由を教えた37代教皇は私の行いをそう断じると、即座に私の首を刎ねるよう騎士団長に命じた。
そのひと言は私の教会への失望を芽吹かせ、失望は教会を破壊するイメージを持ったエネルギーとなって私の体を迸って全てを破壊した。
気づけば、私の周囲は爆炎の燻る瓦礫の山となった。
万死に値すると言い放った教皇とそれに追随した聖女、私を刎ねようとした騎士団長、そばにいた周りのシスターや神父達も皆黒焦げの骨となった。
それを見た時私の脳裏に湧き上がったのは喜びでも悲しみでもなく、ただひとこと。
『……研究には使えないな』
それが18歳の少女が黄金の魔女になった瞬間であり、教会からの旅立ちだった。
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「なんかすごい凄惨なものを見せられた気がするんだけど」
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「質問した私が間違ってたわ」
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