異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・夏(16部分)

沢村叶の夏

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俺の伯母に当たる人が死んだのは今年の春のことだった。
伯母の一人息子(つまり従兄弟である)真柴春彦が帰って来ないと分かると、おふくろは俺に伯母の新盆を手伝うように命じてきた。
「……めんどくせえ」
「面倒がるなよ」
上の姉貴がぺちんと軽く俺の頭をはたくので「実際めんどいじゃん」と文句をこぼす。
「それに、俺は姉貴やおふくろ程あの人に愛着無いし」
確かにあの人には何度か勉強を教えて貰ったけど、それ以上の思い出がない。
そんな人のために必死こいて頑張るのが少々面倒なのは仕方ないと思う。
「まあお前にとってはそうだよな」
姉貴はポツリとそう答える。
「情けは人のためならず、と思ってやってやりなよ」
「それ最終的に本人のためになってないじゃん」
「情けは人の為ならずは人に情けを掛けておくと巡り巡って結局は自分のためになる、って意味だぞ。それに仕事が仕事だしねえ」
従兄弟はいま、日本と異世界を繋ぐ全権大使として働いている。
その仕事の関係で長期で日本に帰れなくなったのでうちのおふくろが代わりに新盆を行う事になったのだ。
「回り回って帰ってくんなら良いけど」
「春兄なら大丈夫でしょ」
おふくろや姉貴達はこの従兄弟へ厚い信頼を向けていて、だからこそこうして世話を焼くのだろう。そこに俺を巻き込まないで欲しいが。
車を止めて一歩外に出れば殺意に似た強い日差しが降ってくる。
「……暑」
「諦めな」
そう言いながら姉貴は足早に店の入り口を目指した。
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