異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・夏(16部分)

その頃深大寺若菜は

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大使達と別れてそろそろひと月、ヤマンラール公爵家での暮らしにもようやく慣れてきたので寝る前の短い時間を使って実家への手紙を書くことにした。
(今回よそ様に身柄を預けられるってことでかなり心配させちゃったしなぁ)
借り物のペンとインクで家族への私信を書き起こす。
まず僕は元気であることは1番に書くべきだろう。
そして公爵家での暮らしぶりの話だ。
この家にいる間、主に僕がやっているのはカウサル女公爵の話し相手である。
話というか、日本や地球について話をしながら挟まれる質問に答えるという感じになる。
主にしているのは船や貿易・経済についての話で、いつも手紙でしているお互いの国の文化芸術の話はあまりしていない。
とは言っても僕自身この辺りのことはたいして詳しくないので分かる範囲でしか話していないけれど、それでも彼女は興味深く聞いてくれる。
後は生活の道具に関する話も多い。この辺の話はビジネスに繋がるからか、公爵家のみならず商会の人たちも興味深く聞いてくれている。
最近は大使館で使っている手動式洗濯機について聞かれたので、分かる範囲で伝えたらその話を元に設計図を書き起こし始めた。
そして僕にあれやこれやと聞いてくるので答えあぐねて代わりに洗濯板の話をしたら、簡単に作れたこともあってすぐに公爵家に導入された。しかも一般販売の準備まで始まっていて、動きが早すぎるのはやっぱり商人だからかなぁ……とびっくりしたものだ。
そしてこの1か月でヤマンラール・カウサル女公爵という人が、なるほど公爵という地位に見合うだけのものがあると納得するような事がいくつもあった。
それは見た目や立ち居振る舞いに滲む育ちの良さのみならず、公爵家当主としての状況を読み取る能力や、大きな商会を率いる主人としての決断力に現れている。
現状、僕が話し相手として大事にされているのは僕が現場この家でたった1人の異世界人であるからという自覚はある。この世界に無いものを多く持ち合わせた存在である限り粗雑にされないという確信があるし、少なくともあれほどの人物である彼女から見捨てられるような事はしないつもりだし、何事もなければ問題なく家に帰れるはずなのだ。
手紙の末尾には、無事に帰って来れたら双海公国名産の綺麗な綿布を買って帰ることを家族に約束して手紙を締め括った。
「こんばんわ」
「カウサル女公爵?!」
手紙の封を閉じた瞬間に彼女がランタンを手にふらりと現れる。
「急にどうしたんですか?」
「大したことではないよ、ただ君に会いたくなった」
男装の麗人めいた微笑みを浮かべて彼女が笑うので、ドキッとする心臓を抑えて「やだなぁ、僕が悪い男なら勘違いしちゃいますよ?」と答えるのが精一杯だった。
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