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大使館3年目・夏(16部分)
カルピスは夏の味
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全権大使不在の間、大使館はいつもあわただしくなる。
「……仕事が減らない」
いつもは大使含む4人でしていた仕事を2人でこなすことになるのはやはりきつい。
前回の北の国の時は自主的に休日昼間も仕事をこなさざるを得ない状況になって多忙のあまり記憶が薄いくらいで、今回は石薙さんや夏沢さんが留守番にいるお陰で前回の殺人的状況よりは幾分マシといえる。
しかし以前と比べて純粋に大使観全体の仕事量が多くなっており、もともと4人でギリ捌ききれるぐらいの仕事量を2人で片づけないといけなくなった訳だ。
「前回これをひとりで捌かれていた嘉神参事官には感服しますね……」
「あの時は大使館で抱えてる仕事量そのものは多くなかったので土日返上すれば何とかなったんですよ。ただ、今はトンネル工事や開通後の事、原油の輸出入、留学、北の国王殿下の来日って抱えてる案件増えすぎて2人で捌き切れるレベルじゃないんですよね……」
「人手を増やすにも簡単には予算付かないですしねえ」
大使が人を増やせ人を増やせと言い続けた結果、去年ようやく深大寺君と石薙さんが来てくれたが正直マンパワーは年がら年中不足している。
本当は外交官あと3人ぐらいいてくれても良いし、現地採用の人もあと5人ぐらい増やしたい。あと屋根に太陽光パネルつけて大使館と寮にLED照明と冷暖房設置したい。でも!予算が出ないのである!そう、予算が!!!!!!!!!
「あのー……」
「大丈夫、気にしないで」
扉の前で僕らの様子に戸惑うような困ったような声を上げていたオーロフくんの手にはお盆がある。
これは飯島さんによる僕らへのおやつだろうか?そう思って手を止める。
「飯島さんからきょうのおやつだそうです」
そこには水差したっぷりに入った冷たいカルピスに、紙を敷いた白いお皿には手作りっぽいクッキー。
かち割り氷のからんという涼しげな音とあの白い色が最高に夏という感じがする。
「石薙さん、おやつにしましょう」
僕はたまらずそのおやつに手を伸ばす。
さっそくカルピスをグラスになみなみとついで、一口飲んでみるとちょっと濃い目のカルピスの味がする。
乳酸菌飲料独特の甘みと酸味が疲れた体にじんわりしみわたってくる。
「カルピスも久しぶりに飲みますね」
「大人になると飲む機会あんまりないですもんね」
職業柄日本にいる時間も少ないし、こうしてカルピスを飲むのなんて学生の時以来だ。
「あ、オーロフくんも一緒に食べます?」
「僕は最初に飯島さんから頂いたので大丈夫です」
「つまみ食いは作る人の特権ですからね」
そう言いながら石薙さんはクッキーをつまむ。
僕もクッキーを貰うと塩キャラメル風味の甘じょっぱい味わいで、暑い夏の身体にはちょうどいい塩分補給だ。
「カルピスって持ち込んでいいんでしたっけ?」
「出荷段階で処理してるから大丈夫らしいですよ」
石薙さんの質問に僕の方でそう答える。
実家の母親がいつもの仕送りといっしょにカルピスの原液を送って来た時は困惑したが、こうして飲むとこのさっぱり感が夏の暑さに心地よい。
オーロフくんが気を使ったように「残りここに置いておきますね」と言ってお盆を机の空いているスペースに置いてから退室する。
ぼくはそれを見届けて、はたと思う。
「……オーロフくんに手伝ってもらえばよかったですよね」
「色々と駄目では?」
「……仕事が減らない」
いつもは大使含む4人でしていた仕事を2人でこなすことになるのはやはりきつい。
前回の北の国の時は自主的に休日昼間も仕事をこなさざるを得ない状況になって多忙のあまり記憶が薄いくらいで、今回は石薙さんや夏沢さんが留守番にいるお陰で前回の殺人的状況よりは幾分マシといえる。
しかし以前と比べて純粋に大使観全体の仕事量が多くなっており、もともと4人でギリ捌ききれるぐらいの仕事量を2人で片づけないといけなくなった訳だ。
「前回これをひとりで捌かれていた嘉神参事官には感服しますね……」
「あの時は大使館で抱えてる仕事量そのものは多くなかったので土日返上すれば何とかなったんですよ。ただ、今はトンネル工事や開通後の事、原油の輸出入、留学、北の国王殿下の来日って抱えてる案件増えすぎて2人で捌き切れるレベルじゃないんですよね……」
「人手を増やすにも簡単には予算付かないですしねえ」
大使が人を増やせ人を増やせと言い続けた結果、去年ようやく深大寺君と石薙さんが来てくれたが正直マンパワーは年がら年中不足している。
本当は外交官あと3人ぐらいいてくれても良いし、現地採用の人もあと5人ぐらい増やしたい。あと屋根に太陽光パネルつけて大使館と寮にLED照明と冷暖房設置したい。でも!予算が出ないのである!そう、予算が!!!!!!!!!
「あのー……」
「大丈夫、気にしないで」
扉の前で僕らの様子に戸惑うような困ったような声を上げていたオーロフくんの手にはお盆がある。
これは飯島さんによる僕らへのおやつだろうか?そう思って手を止める。
「飯島さんからきょうのおやつだそうです」
そこには水差したっぷりに入った冷たいカルピスに、紙を敷いた白いお皿には手作りっぽいクッキー。
かち割り氷のからんという涼しげな音とあの白い色が最高に夏という感じがする。
「石薙さん、おやつにしましょう」
僕はたまらずそのおやつに手を伸ばす。
さっそくカルピスをグラスになみなみとついで、一口飲んでみるとちょっと濃い目のカルピスの味がする。
乳酸菌飲料独特の甘みと酸味が疲れた体にじんわりしみわたってくる。
「カルピスも久しぶりに飲みますね」
「大人になると飲む機会あんまりないですもんね」
職業柄日本にいる時間も少ないし、こうしてカルピスを飲むのなんて学生の時以来だ。
「あ、オーロフくんも一緒に食べます?」
「僕は最初に飯島さんから頂いたので大丈夫です」
「つまみ食いは作る人の特権ですからね」
そう言いながら石薙さんはクッキーをつまむ。
僕もクッキーを貰うと塩キャラメル風味の甘じょっぱい味わいで、暑い夏の身体にはちょうどいい塩分補給だ。
「カルピスって持ち込んでいいんでしたっけ?」
「出荷段階で処理してるから大丈夫らしいですよ」
石薙さんの質問に僕の方でそう答える。
実家の母親がいつもの仕送りといっしょにカルピスの原液を送って来た時は困惑したが、こうして飲むとこのさっぱり感が夏の暑さに心地よい。
オーロフくんが気を使ったように「残りここに置いておきますね」と言ってお盆を机の空いているスペースに置いてから退室する。
ぼくはそれを見届けて、はたと思う。
「……オーロフくんに手伝ってもらえばよかったですよね」
「色々と駄目では?」
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