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大使館3年目・夏(16部分)
6月とロマンス
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休みの日になると真柴はよく本を読んでいる。
木陰に椅子を置いて本を読んでいるのをたまに見つけると、何の本を読んでいるのかちよっとだけ覗き見してみたりするのだが今日読んでいるのは珍しく漫画……いや、BL漫画だった。
「なんでBL漫画?」
「従兄弟が寄越してきた。ほら、もうすぐこっちも6月だろ?ジューンブライドにちなんで色んな恋愛ものを送って寄越してきたんだよ。その中にたまたまこれが入ってた」
こいつの従兄弟は何者なんだ……?と真剣に問いただしたい気持ちはさておいて、1巻だけ差し出されてパラパラとめくってみる。
30歳までモテなくて触れた人の声を聞く能力を得た主人公が同じ職場のイケメン同僚からの恋心を知ってしまうところから始まるラブコメものだった。
少女漫画のようなキラキラした世界観で繰り広げられる恋は、若かりしならばまだ少しは憧れられたような内容でいっそ若々しさすらある。
「木栖もこういうのは読むのか?」
「たまにな。読む分には嫌いじゃないし、憧れるだけならなんの問題もない」
「憧れたりしてたのか」
「言ったろ?俺はロクな恋愛をしてないから」
真柴は「そうだったな」とつぶやく。
「こういうのも憧れるのか」
そう言って開いたのは男性同士の結婚式のシーンで、同性のカップルが家族や周囲の人々に祝福されるシーンは確かに憧れる一コマであった。
「少しはな。お前は望めば簡単に得られるんだろうけど、俺はたぶん無理だからな」
信仰から息子を受け入れられなかった両親を思えば、俺に例え結婚したいと思える相手が出来ても、相手が同性である限りこんな一コマは俺の手に入らない。
「俺は別に今更する気もないよ」
「そうなのか?」
「40過ぎて婚活なんて面倒過ぎてしたくない」
望めば手に入る分かりやすい幸せを真柴は面倒だと言う、そう思うのは望めばすぐに手に入れられる人間の傲慢でもある。
しかしこの面倒臭がりなところはこの男の特徴だった。
「でもお前は結婚しなくちゃいけなくなったら入籍から新婚旅行までしっかりやってくれそうだよな」
「あー……それは確かに。お前が相手なら省略してもいいのかもしれないがな」
「俺と結婚してくれるのか?」
俺がそう問えば、真柴はしまったというように視線を逸らして「検討中で……」と答えた。
あと少し俺が手を伸ばせばこの男とわかりやすい幸せを得られる日が来るのかもしれない。
木陰に椅子を置いて本を読んでいるのをたまに見つけると、何の本を読んでいるのかちよっとだけ覗き見してみたりするのだが今日読んでいるのは珍しく漫画……いや、BL漫画だった。
「なんでBL漫画?」
「従兄弟が寄越してきた。ほら、もうすぐこっちも6月だろ?ジューンブライドにちなんで色んな恋愛ものを送って寄越してきたんだよ。その中にたまたまこれが入ってた」
こいつの従兄弟は何者なんだ……?と真剣に問いただしたい気持ちはさておいて、1巻だけ差し出されてパラパラとめくってみる。
30歳までモテなくて触れた人の声を聞く能力を得た主人公が同じ職場のイケメン同僚からの恋心を知ってしまうところから始まるラブコメものだった。
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「木栖もこういうのは読むのか?」
「たまにな。読む分には嫌いじゃないし、憧れるだけならなんの問題もない」
「憧れたりしてたのか」
「言ったろ?俺はロクな恋愛をしてないから」
真柴は「そうだったな」とつぶやく。
「こういうのも憧れるのか」
そう言って開いたのは男性同士の結婚式のシーンで、同性のカップルが家族や周囲の人々に祝福されるシーンは確かに憧れる一コマであった。
「少しはな。お前は望めば簡単に得られるんだろうけど、俺はたぶん無理だからな」
信仰から息子を受け入れられなかった両親を思えば、俺に例え結婚したいと思える相手が出来ても、相手が同性である限りこんな一コマは俺の手に入らない。
「俺は別に今更する気もないよ」
「そうなのか?」
「40過ぎて婚活なんて面倒過ぎてしたくない」
望めば手に入る分かりやすい幸せを真柴は面倒だと言う、そう思うのは望めばすぐに手に入れられる人間の傲慢でもある。
しかしこの面倒臭がりなところはこの男の特徴だった。
「でもお前は結婚しなくちゃいけなくなったら入籍から新婚旅行までしっかりやってくれそうだよな」
「あー……それは確かに。お前が相手なら省略してもいいのかもしれないがな」
「俺と結婚してくれるのか?」
俺がそう問えば、真柴はしまったというように視線を逸らして「検討中で……」と答えた。
あと少し俺が手を伸ばせばこの男とわかりやすい幸せを得られる日が来るのかもしれない。
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