異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館3年目・夏(16部分)

異世界でも夏は恋の季節らしい

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金羊国にも夏が来た。降り注ぐ日差しも落ち着いた夏の夜、トンネル工事現場は恋の季節を迎える。
……いや、恋というか発情期だなこれは。
締めきった窓越しに響くAVのような嬌声の大合唱にうるせえ帰れ!と叫びだしたい衝動に駆られるが、そうもいかない現実がある。
窓越しには薄着でランタンをかざしつつ男子寮へ戻る男性スタッフがちらほらと見つかる。
そう、この嬌声の原因は工事現場の男性スタッフなのである。
元々潜在的に獣人女性に性的関心を抱く男性スタッフが多いのに目をつけた現地の売春婦?娼夫?まあとにかくそういう職業の人が、夕方になると男性スタッフに声をかけて工事現場近辺で盛るようになったのである。
夜は人が少ないしここは簡易シャワーやトイレがそろっており、まだ工事中でいい感じの物影が多いので使い勝手が良いのだろうなあと推測する。推測はするが普通にしんどい。
自由時間に何しようと勝手だが、窓を開けられないから暑いし窓を突き抜ける甲高い声が寝不足の頭では癪に障るのだ。
(マジでこれどうしようかなあ……)
お陰で寝不足気味の頭を抱え、深い深いため息をつく。
マジでこれは一度上司や関係者に相談した方が良いだろうな、これ。
やけくそ気分でランタンをつけると私は上司宛の相談の手紙を書くためペンと握りしめた。

****

数日後、私からの相談の手紙を受け取った上司からいくつかの荷物が届いたので日本から派遣されたスタッフ陣に集合をかけた。
仕事終わりのちょっと疲れ気味なスタッフたちの前に立つとはっきりと大きな声で彼らにこう告げた。
「えー、この度弊社大森組及び日本電信・鉄道総研から以下の連絡が来ました。主に恋愛や性愛を含む交際の問題です」
その一言でスタッフ陣がざわついた。もちろん少数の女性スタッフもである。
売春婦のお世話になるのは男性だけではない。女性スタッフにも時々お世話になっている人がいるのである。
「別にそうした行為を咎めはしませんが、いくつかの注意喚起を行いたいと思います」
全員にチラシと共にピンク色の箱をひとりにつきひと箱配布する。
チラシの内容は異世界における男女交際についての注意点をまとめたものである。

「まず、異世界人も日本人と同じ人でありセクシュアルハラスメントやストーキング行為は犯罪です。最近金羊国人スタッフに対するセクハラ行為が散見されるので、人間にしてはいけない事は獣人にしないという事を徹底してください。
次に、最近夜間に工事現場内で性行為している様子が散見されます。これが騒音になるので今度から男子寮に簡易テントを5つ、女子寮にテントを2つ配備するので夜間騒音にならないようご配慮ください。
また金羊国人からの未知の感染症予防の観点から衛生管理を強化してください。この通知後コンドームを寮に常備するので性交時は必ず着用し、事後はしっかり身体や粘膜を洗ってください。これが原因で感染症にかかった場合、会社は責任取りません。
最後に、見た目の異なる異世界人を対等な人として尊重し、互いの心身の健康を守ったうえで交際してください」

ちらっと様子を確認すると何とも言い難い沈黙が広がる。
まあ気持ちは分かるし、私もこんなこと言いたくて言ってるわけじゃない。せめて夜は静かにしてくれればいいのである。
ヴィクトワールも問題行動は多いけれど私が一度言えばちゃんと守ってくれるし、私がしたくない事はしない。それをほかのみんなにも守ってほしいだけだ。
「男子寮のテントとコンドームの残りはこっちの大きい段ボールに、小さい段ボールには女子寮のテントとコンドームが入ってるので寮の共用品スペースに置いといてください。ゴムは日本で処分するので専用ごみ箱も一緒に入ってるので後で確認してください。他に質問が無ければ解散とします」
沈黙の広がる空間を出て行きながら、今夜から窓を開けて穏やかに眠れることを願うのであった。
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