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大使館3年目・春(15部分)
アカペラと果実酒の夕暮れ
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飯山さんとお手伝いの2人がお休みの日は大使館メンバーは思い思いの場所で夕飯を取る。
嘉神さんのように日本から届いたカップ麺を食べたり、納村さんのように現地の知り合いのところでごちそうになったり、方法は人によるけれど僕は外で食べるのが好きだ。
第二都市の市場にはいくつか飲食店があり、そのうちの一つに僕はよく通っていた。
その店の売りは夕食時になると披露される可愛らしい看板娘達の歌と踊りであった。
看板娘たちは15歳前後の女の子たちで、店主である狼獣人の愛娘だと噂に聞いた。
5人の狼獣人の女の子たちが膝まで覆うポンチョのような可愛らしいピンク色の衣装を纏って一礼すると、一番幼い13歳ぐらいの子が足踏みと舌打ちを始める。
ポルカのような速いテンポに合わせて15歳ぐらいのふたりの女の子たちが手拍子と共にラララとコーラスを歌い始め、18歳くらいの女の子がカツカツと足音を響かせながら踊り始める。
この土地の踊りはタップダンスのようにカツカツと狼の足の爪が床を叩く音(犬がフローリングを歩くときの音に似てる)を時々混ぜるのも特徴の一つだ。
最後に歌い始めるのは一番年上の20歳ほどの女の子だ。
♪金の目をしたかわいいあの子 朝日とともに消えちゃった
主に首輪をつけられて あの子は遠くに売られてく
かわいいあの子が好きだった 金の瞳も歌声も
あの子を攫って逃げたなら どんなに愉快な事でしょう
けれど僕らは庭の犬 君を攫える魔法はない
だから歌おう君の歌 愛する君に届くよう♪
好きな人が売られていく悲哀を飲み込みながら生きようと歌った恋歌は定番の歌曲の一つで、見ているお客さんも手拍子や指笛で歌い手たちを応援してくれる。
この土地で歌われる歌の多くはこうした楽器を使わないアカペラがほとんどだ。民族楽器収集が趣味の身としては強度の民族楽器がないというのは少々物足りない。
でもアイリッシュダンスがイギリス人にバレないように下半身主体となったり、カポエイラが格闘技の練習と他の人に気づかれぬよう音楽と合わせることで踊ってるように見せかけてごまかしたように、それもまた彼らの歴史の一部なのだろうと僕は思う。
歌に静かに聞き惚れながら、甘口の果実酒を飲み、ハーブで味付けした雉肉のグリルサンドを食べる。
(……こういう休日ってやっぱ楽しいんだよなあ)
歌が終わると「最高!」と歌い手の女の子たちに歓声を上げると、女の子たちははにかみながら水を一口飲んだ。
嘉神さんのように日本から届いたカップ麺を食べたり、納村さんのように現地の知り合いのところでごちそうになったり、方法は人によるけれど僕は外で食べるのが好きだ。
第二都市の市場にはいくつか飲食店があり、そのうちの一つに僕はよく通っていた。
その店の売りは夕食時になると披露される可愛らしい看板娘達の歌と踊りであった。
看板娘たちは15歳前後の女の子たちで、店主である狼獣人の愛娘だと噂に聞いた。
5人の狼獣人の女の子たちが膝まで覆うポンチョのような可愛らしいピンク色の衣装を纏って一礼すると、一番幼い13歳ぐらいの子が足踏みと舌打ちを始める。
ポルカのような速いテンポに合わせて15歳ぐらいのふたりの女の子たちが手拍子と共にラララとコーラスを歌い始め、18歳くらいの女の子がカツカツと足音を響かせながら踊り始める。
この土地の踊りはタップダンスのようにカツカツと狼の足の爪が床を叩く音(犬がフローリングを歩くときの音に似てる)を時々混ぜるのも特徴の一つだ。
最後に歌い始めるのは一番年上の20歳ほどの女の子だ。
♪金の目をしたかわいいあの子 朝日とともに消えちゃった
主に首輪をつけられて あの子は遠くに売られてく
かわいいあの子が好きだった 金の瞳も歌声も
あの子を攫って逃げたなら どんなに愉快な事でしょう
けれど僕らは庭の犬 君を攫える魔法はない
だから歌おう君の歌 愛する君に届くよう♪
好きな人が売られていく悲哀を飲み込みながら生きようと歌った恋歌は定番の歌曲の一つで、見ているお客さんも手拍子や指笛で歌い手たちを応援してくれる。
この土地で歌われる歌の多くはこうした楽器を使わないアカペラがほとんどだ。民族楽器収集が趣味の身としては強度の民族楽器がないというのは少々物足りない。
でもアイリッシュダンスがイギリス人にバレないように下半身主体となったり、カポエイラが格闘技の練習と他の人に気づかれぬよう音楽と合わせることで踊ってるように見せかけてごまかしたように、それもまた彼らの歴史の一部なのだろうと僕は思う。
歌に静かに聞き惚れながら、甘口の果実酒を飲み、ハーブで味付けした雉肉のグリルサンドを食べる。
(……こういう休日ってやっぱ楽しいんだよなあ)
歌が終わると「最高!」と歌い手の女の子たちに歓声を上げると、女の子たちははにかみながら水を一口飲んだ。
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