異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館2年目・冬(13~14部分)

雷雪

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毎月の通院で日本に戻ると、雪が降っていた。
積雪量だけなら金羊国といい勝負なのだが、都市化した東京と主要街道すら未舗装の金羊国では事情が違う。
「雷が鳴ってないか?」
ファンナルがつぶやくのでタクシーの車外に意識を向けると、本当に遠くで雷の音がする。
「東京で雪起こしは初めて聞いたな」
「ゆきおこし?」
「私の地元じゃ雪の日に起きる雷をそう呼ぶんだよ」
「日本ではそう呼ぶんだな、昔知り合いでこう言うのを『竜の雪呼び』と呼んでるやつがいたが……」
「それは初めて聞いた。詳しく聞いても?」
さっとスマホのメモを立ち上げて記録の準備をする。
こういう言い回しの記録は時代の変化で消えていくものだから今しか取れないので、些細なことでも記録に残しておきたい。
「東の国と北の国の国境沿いに竜の山脈と呼ばれるエリアがあるのは知ってるか?」
「聞いたことはあるね、確か大きな龍が住んでて4年に一度くらいつがいを探しに大陸各地に出没するんだろ?」
「ああ、その竜の山脈には竜を信仰する山の民が住んでてその多くが傭兵を稼業としてる。その中にうちの傭兵団と付き合いの深いソロの傭兵がいて、そいつが教えてくれたんだ」
少数民族由来の言い回しとなるとまだ採集できてないが、面白い話を聞けたものだ。
まあいずれは採集に赴きたいが大使館での仕事がある限りそう簡単には向かうことも出来なさそうなのが残念だ。
「あちらには竜が雷に似た鳴き声で雪を呼ぶと翌日は大雪になる、そういう伝承があるらしい」
ファンナルが聞いたという話には雪国の民として納得するものがある。
「雪起こしも、雷が寝ていた雪を起こして降らせてくるって意味だから似たようなものだな」
表現は違えど気象の原理は同じなのだろう。
見知らぬ異世界にも地球と似たものがある面白さを分かち合いながら、目的地までオチのない会話を楽しんだ。
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