異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館2年目・秋(12部分)

紅忠金羊国支社の冬休み

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10月、紅忠金羊国支社ではある話し合いが持たれていた。
「日本人社員は全員地球の暦に合わせて冬休みが取れることになった」
「ホントですか?!」
高槻君が飛び上がるように声を上げる。
日本と金羊国を行き来している高槻君はふたつの国の暦のずれを体感することが多いから特に気になっていたようだし、朗報なのかもしれない。
「日本の暦に合わせて7日間だけど、2人の休みと私の休みはずらすから私が不在の間はささから指示聞いてね」
「え、休みずらせるんだ」
「わたしかささがいないと仕事に支障が出そうでね。金羊国側の休みの時期も2グループに分けて休んでもらう予定だよ」
紅忠金羊国支社には私たちのほかに現地雇用の社員が6人いるので彼らの休みにも配慮しているようだ。
現地組の休みをどうするかを決めるのが少々面倒な気がするが、少なくとも正月休みを使って久しぶりに北海道に帰れるのはありがたい。
「俺も休みずらそうかなあ、その方が夜行バス取りやすそうだし」
「その辺は要相談で。ささもそれでいい?」
「もちろん」
僕としては休みが取れれば文句はない。
舞花ちゃん1人で全部やるのは大変そうだけど、現地雇用組も慣れてきたし無理させなければ問題ないだろう。
(まあ冬の北海道は飛行機飛ばないって言うのがあるからそれが怖いぐらいか)
「舞花ちゃん、できれば前後に有給くっつけていいかな?」
「有休?日数足りてるんならいいよ」
有休届を受け取ると「ありがとね」と返す。
さっそく有休届を書き始めると思い出したように舞花ちゃんが切り出す。
「緊急時は呼びだすけどいいよね?」
「いいけどすぐに来れないと思う」
「あー、北海道だもんね。それはしょうがない」
「さささんって地元北海道なの?」
「そうだよ、北海道のえりも町」
「えりもって『襟裳の春は何もない春です』っていうアレ?」
「そうそう、というかよく知ってるね」
「うちのばーちゃんが好きだったから」
若い子もあの歌を知っているのだなあと思いながら舞花ちゃんのほうを見ると、彼女は全然ピンと来ていなかった。
まあ彼女は海外放浪が長いからピンとこないのもしょうがない。
「そういえばししゃちょーって地元どこなの?」
高槻君が思い出したようにそんな話を振る。
そういえば僕も彼女との付き合いは長いが地元や家族の事は聞いた覚えがない。
「福島の会津」
「へー」
「寒くて山と堅物だらけの面倒な街だよ」
舞花ちゃんはそう言うが、ある意味彼女らしい街だと思う。
なんせ会津の女といえば新島八重、夫からハンサムと呼ばれた女傑をはぐくんだ土地である。
(まあそういうこと言うと本人の機嫌悪くしそうだし言わないけどね)
あの様子からするに地元にいい感情を抱いていないようだし、ここで深入りしないほうがいい程度の空気は僕も高槻君も読めるのだ。
「舞花ちゃん、有休これでよろしくね」
有休届を渡すとざっと目を通した彼女は問題なしと承諾印を押してくれる。
さて、この冬は久しぶりに家族と実家に帰れそうだ。
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