55 / 135
大使館2年目・夏(10~11部分)
愛と信仰と家制度
しおりを挟む
「この世界における同性愛者ってどういう扱いなんだ?」
そう問われたヴィクトワール・クライフは「んー」と軽く頭を悩ませた。
政経宮の庭先、ちょっとした空き時間に聞くにはいささかヘビーな質問であったが彼女ならスラスラ答えてくれそうな気がしたのだ。
「前提条件として、この世界は教会が大きな力を握ってるけど教会の信奉する神は同性愛については肯定も否定もしていない。ただ『愛はすべて尊ばれるべきである』とのみ語られてる」
「愛は尊いっていうのはいささか雑だな」
「少なくとも公に神は同性愛を否定していない、だから誰が誰を愛そうとも神は肯定なさるだろう。っていうのが教会の態度だ。でも現実問題として同性を愛したところで子供は生まれないんで同性間での結婚を認めることにどういう意味があるのか?っていう議論が一時期存在してた」
「その議論はいつ終わったんだ?」
「600年くらい前だな。貴族階級では3男以降の男子に子供が産まれると相続で揉めるから結婚させないって風習があったんだが、当時の西の国の王が生涯1人は寂しいだろうからって言って3男以降は同性で婚姻することを勧めたんだ。それが広がって今に至る感じかな」
「同性での婚姻の場合って家での扱いはどうなるんだ?」
「貴族の場合は大抵は爵位の高い方が低い方の家に入る、庶民だと親族込みでどちらが婿入りするか話し合って決めるな。たまーに苗字を変えないとか両方の苗字を並べて名乗る場合もあるな」
その答えを聞くに同性婚であっても家制度を破壊するものにはなっていないのかと思ってしまう。
結婚相手に同性も選択できると言うだけマシと言うふうにも言えなくはないが、親族に反対されれば好きな男との同性婚はあり得ないということになる。
「新しい家を立てることはないのか?」
「無いねえ。苗字を名乗らないと後ろ暗い奴だと思われるし、苗字は親族や役場の許可を取らないと変えられない上勝手に苗字変更すると処罰対象になる」
この世界だと毒親持ちは逃げるのが過酷そうだな、と思いを馳せる。
そういえば最初から親がいない場合はどうなるのだろう?と思ったが、以前読んだ納村の報告書では国が特別な姓を与えると書いてあったことを思い出す。だから苗字で親なし子である事がバレるとか。
「ちなみに、生涯独身は選べるのか?」
「よほどの事情がないと無理だな。30過ぎて独身だと心身に不具合があるとか性格が超絶悪いとか前科者だと思われる」
つまり生涯独身は前科者でも無い限り選択不可ということか。
同性を愛することに信仰の壁は無くとも、家制度と結婚至上主義に追い立てられる。
「……とかく人の世は住みにくいな」
「日本は良いとこだけど同性婚できないって事だけが困るもんなあ」
そう問われたヴィクトワール・クライフは「んー」と軽く頭を悩ませた。
政経宮の庭先、ちょっとした空き時間に聞くにはいささかヘビーな質問であったが彼女ならスラスラ答えてくれそうな気がしたのだ。
「前提条件として、この世界は教会が大きな力を握ってるけど教会の信奉する神は同性愛については肯定も否定もしていない。ただ『愛はすべて尊ばれるべきである』とのみ語られてる」
「愛は尊いっていうのはいささか雑だな」
「少なくとも公に神は同性愛を否定していない、だから誰が誰を愛そうとも神は肯定なさるだろう。っていうのが教会の態度だ。でも現実問題として同性を愛したところで子供は生まれないんで同性間での結婚を認めることにどういう意味があるのか?っていう議論が一時期存在してた」
「その議論はいつ終わったんだ?」
「600年くらい前だな。貴族階級では3男以降の男子に子供が産まれると相続で揉めるから結婚させないって風習があったんだが、当時の西の国の王が生涯1人は寂しいだろうからって言って3男以降は同性で婚姻することを勧めたんだ。それが広がって今に至る感じかな」
「同性での婚姻の場合って家での扱いはどうなるんだ?」
「貴族の場合は大抵は爵位の高い方が低い方の家に入る、庶民だと親族込みでどちらが婿入りするか話し合って決めるな。たまーに苗字を変えないとか両方の苗字を並べて名乗る場合もあるな」
その答えを聞くに同性婚であっても家制度を破壊するものにはなっていないのかと思ってしまう。
結婚相手に同性も選択できると言うだけマシと言うふうにも言えなくはないが、親族に反対されれば好きな男との同性婚はあり得ないということになる。
「新しい家を立てることはないのか?」
「無いねえ。苗字を名乗らないと後ろ暗い奴だと思われるし、苗字は親族や役場の許可を取らないと変えられない上勝手に苗字変更すると処罰対象になる」
この世界だと毒親持ちは逃げるのが過酷そうだな、と思いを馳せる。
そういえば最初から親がいない場合はどうなるのだろう?と思ったが、以前読んだ納村の報告書では国が特別な姓を与えると書いてあったことを思い出す。だから苗字で親なし子である事がバレるとか。
「ちなみに、生涯独身は選べるのか?」
「よほどの事情がないと無理だな。30過ぎて独身だと心身に不具合があるとか性格が超絶悪いとか前科者だと思われる」
つまり生涯独身は前科者でも無い限り選択不可ということか。
同性を愛することに信仰の壁は無くとも、家制度と結婚至上主義に追い立てられる。
「……とかく人の世は住みにくいな」
「日本は良いとこだけど同性婚できないって事だけが困るもんなあ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる