異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館2年目・夏(10~11部分)

愛と信仰と家制度

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「この世界における同性愛者ってどういう扱いなんだ?」
そう問われたヴィクトワール・クライフは「んー」と軽く頭を悩ませた。
政経宮の庭先、ちょっとした空き時間に聞くにはいささかヘビーな質問であったが彼女ならスラスラ答えてくれそうな気がしたのだ。
「前提条件として、この世界は教会が大きな力を握ってるけど教会の信奉する神は同性愛については肯定も否定もしていない。ただ『愛はすべて尊ばれるべきである』とのみ語られてる」
「愛は尊いっていうのはいささか雑だな」
「少なくとも公に神は同性愛を否定していない、だから誰が誰を愛そうとも神は肯定なさるだろう。っていうのが教会の態度だ。でも現実問題として同性を愛したところで子供は生まれないんで同性間での結婚を認めることにどういう意味があるのか?っていう議論が一時期存在してた」
「その議論はいつ終わったんだ?」
「600年くらい前だな。貴族階級では3男以降の男子に子供が産まれると相続で揉めるから結婚させないって風習があったんだが、当時の西の国の王が生涯1人は寂しいだろうからって言って3男以降は同性で婚姻することを勧めたんだ。それが広がって今に至る感じかな」
「同性での婚姻の場合って家での扱いはどうなるんだ?」
「貴族の場合は大抵は爵位の高い方が低い方の家に入る、庶民だと親族込みでどちらが婿入りするか話し合って決めるな。たまーに苗字を変えないとか両方の苗字を並べて名乗る場合もあるな」
その答えを聞くに同性婚であっても家制度を破壊するものにはなっていないのかと思ってしまう。
結婚相手に同性も選択できると言うだけマシと言うふうにも言えなくはないが、親族に反対されれば好きな男との同性婚はあり得ないということになる。
「新しい家を立てることはないのか?」
「無いねえ。苗字を名乗らないと後ろ暗い奴だと思われるし、苗字は親族や役場の許可を取らないと変えられない上勝手に苗字変更すると処罰対象になる」
この世界だと毒親持ちは逃げるのが過酷そうだな、と思いを馳せる。
そういえば最初から親がいない場合はどうなるのだろう?と思ったが、以前読んだ納村の報告書では国が特別な姓を与えると書いてあったことを思い出す。だから苗字で親なし子である事がバレるとか。
「ちなみに、生涯独身は選べるのか?」
「よほどの事情がないと無理だな。30過ぎて独身だと心身に不具合があるとか性格が超絶悪いとか前科者だと思われる」
つまり生涯独身は前科者でも無い限り選択不可ということか。
同性を愛することに信仰の壁は無くとも、家制度と結婚至上主義に追い立てられる。
「……とかく人の世は住みにくいな」
「日本は良いとこだけど同性婚できないって事だけが困るもんなあ」
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