異世界大使館雑録

あかべこ

文字の大きさ
上 下
45 / 137
大使館2年目・春(9部分)

宇賀神知事の秘密

しおりを挟む
河内舞花という女はどことなく底知れぬところがある、と思う。
例えば突然空いた時間に面会のアポを取ってくるところとか。
「と言う訳で受け入れできません?」
「……河内君がそういうのに積極的だとはな」
「私はあの地に恩を売りたいですからね」
「なるほど」
言い分は分かる。
しかしこの土地に受け入れの土壌があるか、と言われれば否と言うほかない。
「君も知っての通り、日本は難民の受け入れが少ない。いくら一時避難と言えど異世界人をまとまった数で受け入れるのは難しいのでは?」
「そこはうちのボスが動いてます」
彼女がボスと呼ぶ老商人の顔を思い出す。
確かにあのご老人は色々と顔が利くし、動いてそうな気はする。
「用地や生活手段については私のご提案で解決できますよね?」
「確かに差し押さえ物件を使えば早いだろうが……」
問題は住民の意見だ。
おそらく世論はかわいらしい見た目の獣人が戦火に巻き込まれるという事実に同情的になるだろう。
しかし突然地元に異世界人が来るという状況を受け入れられるのか?そこが最大のネックだった。
「宇賀神知事人気ありますし、地盤である栃木県北なら無理が効いて受け入れやすいんじゃないんですか?何よりあのエリアなら廃業したホテルが避難先に使える」
「そうは言ってもな」
県議会や対象になりそうな市町村の行政について考えてみるが自分一人で納得させられる自信はない。
何より自分の強権で避難民受け入れを進めれば、避難民と地域住民のトラブルが直接自分の政治生命に直結する。
「……知事、お好きですよね?こういうの」
その声色は疑問形であったがどこか確信めいたものがあった。
「獣人のコスプレを好むコミュニティに出入りしてる知人から、知事に似た人をよく見かけるという話を小耳にはさみまして」
(バレてるな、これは)
背筋が凍りつくような言葉を気にするまいというように、一度大きく呼吸をする。
そう、俺はケモナーだった。
いつからそうだったのかは分からないが、気づくと獣人と言う存在に性欲込みの好意を感じるようになってきた。
家族にも伏せてきた性嗜好をいったいどこで嗅ぎつけてきたというのだろう。
「個人的に好きだからと言ってごり押しするわけにはいかないだろう」
「でも、あちらに行けば自分の好きに包まれることができると思えば恩を売っといていいと思いますけどね」
「……前向きに動いておくよ」
「それ文字通りに受け取りますからね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...