異世界大使館雑録

あかべこ

文字の大きさ
上 下
41 / 83
大使館2年目・夏(10~11部分)

大使館の台所

しおりを挟む
金羊国内の騒乱が止んで久しぶりに戻ってきた大使館の台所は放置されて少々荒れ気味になっている。
床やテーブルには埃やチリが積もり、管理のされていないかまどには放置された炭が溜まっている。
「掃除するかあ」
掃除道具を詰めたバケツを手に掃除を始めることにしよう。
3ヵ月ほど空けただけで蜘蛛の巣が張り始めた天井をほうきで払うと思ったより埃が落ちてくる。
「げほっ、けほっ……マスクすればよかったかなあ?」
ハウスダスト系のアレルギーがなくてほんとによかった。
次に壁を濡れ雑巾で拭えば、こちらも埃ですぐ真っ黒になる。
(やっぱ定期的な掃除って大事なんだなあ)
汚れた雑巾をすすいでは壁を拭きまた汚れては雑巾をすすいでを何度も繰り返すこと数十回。
壁全面を拭き終えたころには雑巾を洗う水は真っ黒に汚れていた。
「……次に長期で離れるときはちゃんと掃除もお願いしよう」
雑巾と水を変えて調理用の机も拭って食品用除菌スプレーで消毒、最後は床の埃やチリをちりとりで集めて捨てて……と。
「飯山さん、」
ひょっこりと顔を出してきたのは嘉神さんだ。
嘉神さんも自分の執務室や私室の掃除をしていたはずだが、もう終わらせてしまったのだろうか。
「そろそろ昼食お願いできないかと思いまして」
「すいませぇん、まだ消毒終わってなくて~」
「消毒ですか」
「みんなの食事を預かる身ですからねえ、ここで病気は出せませんから~」
「そういう事なら仕方ないですね、他の人たちにも伝えておくので夜ご飯期待してます」
「缶詰パンがあるのでこれでなんとかお願いしますぅ」
非常食として用意した缶詰パンを渡すとわかりましたという同意とともに戻っていく。
料理人としては申し訳ないけれどこればかりはどうしようもない。
「……続きやるかあ」
まずは調理器具の殺菌消毒だ。
こちらに置きっぱなしにしていた大きな鍋を洗ってからお湯を沸かし、その間ここに置きっぱなしにしていたフライパンやまな板を洗ってひとつにまとめておく。
大きな鍋やフライパンなどのかさばるものは日本へ持ち帰れなくてそのままにしていたから、使う前に洗浄・消毒しておきたいのだ。本当は塩素系漂白剤を使いたいけれど使い終わった漂白剤をその辺に捨てることに抵抗感があったから、基本的にここで使う道具は煮沸している。
そして食器類。これは日本から持ち込んだ食品用除菌スプレーで拭きつつ、割れ・欠けがないことを確認しておく。
皿を磨き終えたらフォーク・スプーンや箸もしっかり磨いて確認だ。
(お、お湯沸いたな)
調理用機材を大鍋に入れて煮沸消毒だ。
終わったものは清潔なふきんで拭いてからしっかり乾燥させる。
調理器具の煮沸消毒を終えたら火を消し、残った灰も回収してお湯とともに捨てたら……。

「やっっっと終わったぁ~」

朝から丸一日がかりで台所がようやく使えるところまで戻ってきたことに安堵のため息が漏れる。
この国に赴任してからいちばん長く時間を過ごしてきた場所がようやく戻ってきた気分だ。
「今夜は何にしよ~かなあ?」
笑みを漏らしながら掃除の達成感をかみしめるのだった。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,601pt お気に入り:3,399

転生お転婆令嬢は破滅フラグを破壊してバグの嵐を巻き起こす

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:72

異世界大使館はじめます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:12

処理中です...