異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館1年目・冬(7~8部分)

あの夜二人でした話

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「で、俺のことを知りたいってどういう話がしたいんだ?」
ココアを飲みながら真柴にそんなことを聞いてみると「そうだな、家族のこととか?」と尋ねられる。
(家族の話か)
両親のことは話したくないな、と思いつつも素直に答える。
「お前のところ兄弟多かったよな、確か」
「弟が3人と妹が1人」
「そこにお前と親御さんか、大家族だな。喧嘩もすごそうだ」
「上の弟とは4つ離れてたし妹なんか15も下だったからそこまででもないな」
大家族物の番組を見ると兄弟げんかが日常茶飯事のように思われがちだが、うちはみな年が離れていたので年下には甘く接しがちになり特に喧嘩は起きなかった。
これが逆に1歳2歳差だとまた違うのだろうが。
「15歳も下ってすごいな」
「実の親ながらちょっと引いた、妹は可愛かったけどな」
「そんなに離れてればそうだろうな。なんか可愛らしい話はないのか?」
可愛らしい話、というリクエストでちょっと記憶を掘り返す。
防大に入ったころはまだ辛うじて盆と正月に顔を合わせていたが、ゲイバレで両親との関係が悪化してからまともに顔を合わせた覚えがないので妹との思い出はあまりない。
掘り起こした過去の記憶からひとつだけ愉快な記憶がよみがえってきた。
「俺が20歳のころ正月に『おにーちゃんウル〇ラマンに変身して』って言われたことならある」
「なんだそれ」
「真ん中の弟が法螺吹きが趣味の奇人でな、『善泰にーちゃんはウルト〇マンになる素質があったから防衛大学校に入って訓練を受けていて、一人前になったら海底から生まれてきたゴ〇ラを倒すんだ』と教え込んだらしい」
真柴が笑いをこらえるように手で口元を覆うので気に入ってくれたらしい。
「5歳児の夢を壊すのも良くないかと思って『偉い人から指示がないとウ〇トラマンになっちゃいけないんだ』って言ったらそれをそのまま信じ込んでそのまま中学生まで訓練を受けた自衛官はウルト〇マンになれると思い込んでたらしい」
その話が真柴のツボに入ったようで思い切り笑い声をあげて応える。
「可愛いなお前の妹さん」
「まあ、可愛い妹ではあったよ」
(こんな風に笑うのか)
長年会っていない妹の記憶はあいまいで、今はどんな女性なのか、唯一俺と連絡を取ってくれる真ん中の弟から伝え聞くばかりである。
けれどあんな風に笑うお前が見れるのなら得をした。
「俺もお前について知らないことがひとつあるな」
「?何のことだ」
「お前の初恋だよ、俺の初恋のことは教えたんだから聞かせてくれてもいいんじゃないか?」
俺がふっと笑うのを見ると真柴は表情を曇らせながら東京バナ〇をかじって、ひとつ食べきると小さくため息を吐きながら「……別に大した話じゃないぞ?」と答えた。
「別にいいさ。で、いつごろ、どんな人が初恋の相手だったんだ?」
「小学生の時同じ児童館に通ってたよその小学校の女の子。本が好きで独特の雰囲気があったけど、俺と話が合う子だったよ」
「独特の雰囲気?」
「親御さんが海外の人だったせいでちょっと肌の色が濃くて学校で浮いてたらしい、でも日本生まれで会話に支障はなくてなんとなく一緒にいると嬉しくなれたんだ」
ほうほうと相槌を打ちながら、ふと考える。
(俺も真柴にとって一緒にいて嬉しく思える相手になれるだろうか?)
出来るならそうでありたいという個人的な欲についてはいったん置いておく。
「4年生ぐらいの時にその子が家の事情で引っ越すことになって手紙を送りたかったんだが聞けずじまいだったよ。
高校の時島崎藤村の初恋ってやったろ?」
「まだ上げそめし前髪の~っていうアレか」
「あの授業で自分の初恋について思い出してみながら読んでくださいって言われて、それで初恋について考えたらあの子かなって結論に至ってそこでようやく初恋だと気づく感じだったな」
「……あるな、そういうの」
そのエピソードがあまりにも真柴春彦という男の性格を映し出しているように思えた。
「じゃあ次はお前の番だな」
「いつから順番にエピソードトークする形になったんだ?」
まあいいさ、俺の知らないお前を見れるのなら。
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