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大使館1年目・春(2〜3部分
日陰者
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「地球の戦争について教えていただけませんか」
ファンナル隊長からそうした打診が届いたのは彼が納村と共に訪日した直後の事であった。
「何故地球の戦争を?」
「私達は金羊国を護る者です、守るための知識や技術は大いに越した事はない」
「そうは言っても地球の戦争は残酷ですよ」
こちらには存在しない銃や毒物などを用いた近代戦争の残酷さなど、剣と魔術主体のこの世界には無縁そうなものであるし知ってなんの役に立てると言うのだろう。
「……どこであっても戦争は残酷ですよ」
隊長が冷たくそう言い放つ。
「日本は永らく戦争をしていないと聞いています、言っては悪いですが木栖さんも従軍経験は無いのでは?」
その指摘に言い返す言葉が出てこない。
日本の自衛官はあくまで国とそこにある人と財産を守る者であるのだから、ふっかけられない限り従軍などしようがない。
「戦争なんてどの世界でも醜く汚いものでしかない。しかしそれでも喧嘩をふっかける馬鹿はいますし、そういう者達からこのようやく勝ち得た自由の大地を奪われる訳にはいかないのです。
ここにいる者はみな自分のあらゆる自由を引き換えに生きていく生活はもうこりごりなんですよ」
ファンナル隊長の言葉はあまりにも重い。
ここはただの新興国家ではない、隷属させられてきた者が命懸けで逃れて勝ち取った自由の大地なのだ。
「……日本で一般人が調べれば分かる範囲のことであれば、構いません」
そのボーダーラインをひいたのは自分の立場というものを示すためだ。
同情や共感はすれどこの一線は超えてはいけない、今の俺たちの立場はそういうものだ。
「ありがとうございます」
ファンナル隊長は深々と頭を下げる。
神仏への祈りや血の滲むような交渉戦だけでは戦争は避けられない、戦争がなければ戦いを生業とするものの必要性は伝わらない。
そんな話、彼らは最初から知っていたのだ。
ファンナル隊長からそうした打診が届いたのは彼が納村と共に訪日した直後の事であった。
「何故地球の戦争を?」
「私達は金羊国を護る者です、守るための知識や技術は大いに越した事はない」
「そうは言っても地球の戦争は残酷ですよ」
こちらには存在しない銃や毒物などを用いた近代戦争の残酷さなど、剣と魔術主体のこの世界には無縁そうなものであるし知ってなんの役に立てると言うのだろう。
「……どこであっても戦争は残酷ですよ」
隊長が冷たくそう言い放つ。
「日本は永らく戦争をしていないと聞いています、言っては悪いですが木栖さんも従軍経験は無いのでは?」
その指摘に言い返す言葉が出てこない。
日本の自衛官はあくまで国とそこにある人と財産を守る者であるのだから、ふっかけられない限り従軍などしようがない。
「戦争なんてどの世界でも醜く汚いものでしかない。しかしそれでも喧嘩をふっかける馬鹿はいますし、そういう者達からこのようやく勝ち得た自由の大地を奪われる訳にはいかないのです。
ここにいる者はみな自分のあらゆる自由を引き換えに生きていく生活はもうこりごりなんですよ」
ファンナル隊長の言葉はあまりにも重い。
ここはただの新興国家ではない、隷属させられてきた者が命懸けで逃れて勝ち取った自由の大地なのだ。
「……日本で一般人が調べれば分かる範囲のことであれば、構いません」
そのボーダーラインをひいたのは自分の立場というものを示すためだ。
同情や共感はすれどこの一線は超えてはいけない、今の俺たちの立場はそういうものだ。
「ありがとうございます」
ファンナル隊長は深々と頭を下げる。
神仏への祈りや血の滲むような交渉戦だけでは戦争は避けられない、戦争がなければ戦いを生業とするものの必要性は伝わらない。
そんな話、彼らは最初から知っていたのだ。
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