異世界大使館雑録

あかべこ

文字の大きさ
上 下
27 / 135
大使館1年目・秋(6部分)

大森林を歩く・秋

しおりを挟む
秋の大森林は無料の市場だ。
生き物たちは冬眠に向けて蓄え、木の実や果実はたわわに実り、キノコや山菜も採り放題!これを市場と呼ばずに何と呼べばいいのか聞いてみたいくらいだ。
「だとしても取りすぎじゃないんですか?」
ソルヴィ森林保護官が呆れ半分にそう聞いてきた。
「保存食にすればいいかと思って」
「それはそうですが、1カ所から大量に収穫することは立場上あまり推奨できませんので……」
「みんなこの森の恵みを得て暮らしてるんだっけ」
国の周囲を山林に覆われたこの国で、大森林は国民を養う巨大な食糧庫の役割を担っている。
だからこそこの森の恵みが永続的に国民に配分されるよう監督するのは彼の仕事だ。
「1日ぐらい仕事休めれば人の少ないエリアで狩猟採集出来るんだけどねえ」
そう呟きながらいただいた森の恵みを箱詰めして背負子に乗せていく。
「今度北東の木こりさんが多いエリアに行ってみようかな」

***

で、沢山手に入った森の恵みである。
ソルヴィ森林保護管監修のもと、とりあえず確実に食べられるものだけを選んで取ってきたがそれでも結構な量になる。
「でもこの国で出来る保存法って限られてるんだよねえ」
現代日本であれば冷凍・冷蔵・レトルトパウチという方法があるが、こちらで再現するのは難しい。
「まずは定番の燻製かな?」
今回は日本から持ち込んだ金属製の家庭用燻製器と、こちらで手に入ったブナの木を細かくしたものを使う。
こちらにも燻製という調理技術はあるので種類にこだわらなければ燻煙用チップが容易に入手可能で、秋冬になるとみんなこぞって燻製用の木材を入手しに行くという。
燻製器の中で煙を起こしたらお肉を入れて後は待つだけだ。
「それと、定番の塩漬け~」
荒く砕いた岩塩をミルに入れてひたすらゴリゴリして粉末状にする。
いつも使ってる業務用電動ミル×2(太陽光パネルと繋いでる)だけでは追いつかないので手動ミルも併用しているけど、肉や野菜を全部塩漬けしようと思うとさすがにこれだけだと塩の量が心もとない。
「肉だけでも節約しよ」
粉末状の岩塩を摺りこんだだけのものとは別に、粗塩とハーブで作るパンチェッタや塩と砂糖(砂糖はこっちだと全然手に入らないので日本から持ち込んだ)で作る調味液で作るスウェーデン風塩漬け肉も作った。
さらに野菜や山菜も樽に塩と唐辛子(輸入品だから高い)を入れてお漬物にする。
「あっ、砂糖漬けも作らなきゃねぇ」
果実類には日本から持ち込んだ砂糖をまぶし消毒した瓶に詰め込んでおく。
蜂蜜もこちらにあるらしいけど今回は見つけられなかったしその気になれば日本から持ち込めるから省略。
「あとは乾燥野菜や干し肉にしてー‥‥…も一冬分はないよねえ?」
なんせ大使館の食事はほぼ毎日作らないといけない。ここにある分だけどう考えても足りないし、まだまだ保存食が必要だ。


「頑張ろ」

風が冷たくなってきたし、冬も近い。
それまでには保存食を完成させたいところである。
しおりを挟む
このお話は本編とセットで読むのがおすすめです
マシュマロで匿名感想も受け付けています
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...