異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館1年目・冬(7~8部分)

納村明野のウィンターホリデー

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小松空港を一歩外に出ると、そこは雪と曇天の北陸であった。
相変わらず気鬱になりそうな悪天候にげんなりしながらバスで小松駅に向かい、その間にダイヤの乱れがないかだけ確認する。
なんせうちはここから遠いので、ちょっとダイヤが荒れると帰るのが面倒くさくなる。
「……しらさぎには遅れなし、越美北線は積雪のため30分遅れね」
まあこの雪でも動いてるだけマシか、と呟きながらたどり着いた駅の窓口で帰りの切符と特急の指定席券を買っていく。
北陸新幹線が福井まで来たらしらさぎも本数が減ってしまうのだろうかと思うと複雑で、新幹線で帰る時は良いけど飛行機の時が不便になりそうで困る。
なんとも言えない気分で福井駅に辿り着くと、新幹線仕様で随分と綺麗になっていて半分迷いながら1時間に1本しかない列車に飛び乗る。
またここからが遠くて、最寄駅は福井駅から1時間半かかるのだ。
そうして列車に揺られながらお腹がぐうぅ、と鳴ってきて大事なことを思い出す。
「……弁当買うの忘れた」
もういいや、家でなんか食おう。

***

雪に埋もれた九頭竜駅に辿り着くと「久しぶり」と弟が声をかけてきた。
深山幽谷に閉じ込められるようなこのど田舎から逃げ出すために兄弟で必死に勉強してきたにも関わらず、都会育ちで田舎暮らし希望の嫁とネットさえあればどこでも出来る仕事であったが故に帰ってきた弟の出迎えはもはや恒例であった。
「父さん達は?」
「スキー場のバイト、今はなんでも値上がりする時代だから今から貯蓄して大きくなったらうちの子に進学資金として渡してやるって意気込んでた」
「……当分死にそうにないな」
そのコメントに苦笑いしつつ荷物を車の後部座席にどんどん詰めていく。
「というかお前の子どもってまだ赤ん坊だろ」
「来月ハーフバースデー」
「まだ1歳にもなってない?!」
弟のところに生まれた子どものことは聞いてたからお祝いの電報くらいは送っていたが、ちゃんと顔を合わせるのは初めてだ。なんかオモチャとか洋服でも持ってきた方が良かったか?
「姉貴はどうなの?異世界ってどんな感じ?」
「刺激しかなくて楽しい」
幸い話すことならいくらでもある。
空港で買った東京ばな奈でもつまみながら、いくらでも話を聞かせてやろうじゃないか。
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