異世界大使館雑録

あかべこ

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大使館1年目・冬(7~8部分)

飯山満のウィンターホリデー

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「よー帰って来れたなぁ」
新大阪駅の改札を出てすぐにそう声をかけてきたガラの悪い岸和田弁と、子供たちからの予想外の出迎えに「迎えにきてくれたの?!」と驚きの声が出た。
「おかーちゃんしんぱいしてたからむかえきたの!」「がいむしょーのひとがおしえてくれたわ!」
息子と娘に抱きしめられつつ「あっちでくたばられたらうちらが困るからな」と素直でないコメントが返ってくる。
「せやねえ、ところでお店は大丈夫?そろそろランチ営業の時間やないん?」
「うちのアホが帰ってくるから臨時休業って言うてあるわ」
「にーなのあんちゃんは『どうせなら丸っと1週間休みがええわ』っていうてた!」
「新名くんらしいなあ」
うちの店を支えてくれるシェフのひとりの愚痴には苦笑いが漏れる。
子供たちと手を繋ぎながら家路を目指す。
新大阪から御堂筋線で2駅、中津で降りて10分も歩けば愛しい我が家である。
某大阪出身の兄弟芸人がなんもないとか陸の孤島とかネタにしていたが新大阪にも天王寺にも梅田にも乗り換えなしで行けるし、ちょっと前まではここが終点だったのでいろいろ楽だったのだ(最近はそうでもないが)
「ただいまあ」
「おとーさんおかえりー」
「一緒に帰ってきたやろ」
隣から聞こえる息子のボケを返しつつ、抱えてきた荷物をリビングで広げてくる。
「おとーさんおみやげないん?」
「ごめんなあ、持ってきてへんわあ。でも東京駅でおしゃれなカンカン入ったクッキー買うてきたからこれで勘弁なあ」
娘には東京駅の絵柄の書かれたこじゃれた箱入りクッキーを渡し、息子には新幹線のデザインのポーチセットを渡すと「やった!」と嬉しそうに受け取ってくれた。
離れて暮らしていたのに毎月手紙を送ってくれた子供たちが喜んでくれるお土産を選べてよかった。
「せや、今あんたのお母ちゃんが夜みんなで飯食いに行こうって言うてたけどどうする?うちのオトンとオカンも来るけど」
「お義父さんたち来とるん?」
「うん、あんた帰ってくるんなら久しぶりに挨拶がてら孫の顔見たいって」
「絶対孫メインやん……久しぶりやしみんなでご飯食いいこ」
「やきにくいきたい!」「すしがええわ」
子供たちがワイワイ言い出すのを「お父ちゃん久しぶりなんやしお父ちゃんに選ばしたり」と気を使ってくれる。
気が強いのにこうして僕のようなダメ人間のことをちゃんと立ててくれるのが好きだ。

「僕は美味しければどっちでもええわ」

そう言って笑うと「ほんならすし!」と娘が叫ぶのを僕は穏やかな気持ちで聞いていた。
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