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大使館1年目・冬(7~8部分)
木栖喜泰のウィンターホリデー
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東京から高速バスで4時間弱、バスターミナルに降りると雪の隙間から湯煙の湧く日本屈指の温泉地・草津温泉であった。
自衛官になってから実家には長らく帰っていないし、真柴に勧められた温泉で思いついたのが草津の湯であった。
「ひさしぶりだな」
温泉宿の法被を着て迎えに現れた夜遊び仲間は前に会った時よりも落ち着いたように思えた。
最後に会った時は家業を継いだせいで男遊びがしづらいと前はぼやいていたが夜遊びをやめたのだろうか。
「ああ、しばらく世話になるよ」
「だとしてもなんで昔の男のところに泊まりに来るかね?」
「温泉に行こうと思ったらお前のことを思い出してな」
宿の車に荷物を積みながら互いの近況報告が始まる。
俺は異世界への赴任から始まるごたごたをかいつまんでざっくり伝えると「愉快だな」と笑っていた。
「そっちはどうだ?」
「俺結婚したんだよ、友情だけど。そんで妊活してるんでさすがに男は控えてる」
「初耳だな」
「最後に会った時に婚活してるって言わなかったっけ、1年半くらい前にしたのよ」
「俺がバタバタしてた時期だな、すまないな祝えなくて」
ちょうどその頃だと異世界への赴任準備でバタバタしてたし、連絡があっても気付けなかったのかもしれない。
もしかしたら疲労で意識を飛ばしつつ不参加の返事ぐらいは出していたのかもしれないが……。
「いいよ別に、代わりにうちの宿でたっぷりお金落としてくれれば」
「現金だな」
荷物の積み込みを終えて後部座席に腰を下ろし「じゃあ、行くなー」と言いながら車は走り出す。
バスターミナルから車は草津の中心部のほうへと向かっていく。
細く人の多い石畳の道をすり抜けるように走ると、目前にもうもうと湯煙の立ち上る場所が見えてくる。
「あれが湯畑か?」
「ああ、草津といえばの湯畑だよ。うちの宿はそこの通り入ってすぐだからここで降りて湯畑見てくか?」
指さした宿の場所なら迷わずに歩い置ていけそうだ。
「じゃあ頼む」
そう言って車を降りれば強烈な硫黄のにおいが俺を出迎える。
職業柄日本各地を転々としてきたが来たことのない場所というのはあるもので、テレビの旅行番組で見たことのある景色が目前に現れるとなんとなく旅気分が盛り上がる。
(……真柴は来たことあるのか、休暇が終わったら聞いておこう)
ここにはいない初恋の男のことを思い出し、指輪に目を向ける。
どこにいても思い出してしまう存在が恋だというのならやはり俺はあいつのことが好きなんだろう。
湯畑の周りをのんびり歩きながら俺は真柴のことばかり考えてしまうのだった。
自衛官になってから実家には長らく帰っていないし、真柴に勧められた温泉で思いついたのが草津の湯であった。
「ひさしぶりだな」
温泉宿の法被を着て迎えに現れた夜遊び仲間は前に会った時よりも落ち着いたように思えた。
最後に会った時は家業を継いだせいで男遊びがしづらいと前はぼやいていたが夜遊びをやめたのだろうか。
「ああ、しばらく世話になるよ」
「だとしてもなんで昔の男のところに泊まりに来るかね?」
「温泉に行こうと思ったらお前のことを思い出してな」
宿の車に荷物を積みながら互いの近況報告が始まる。
俺は異世界への赴任から始まるごたごたをかいつまんでざっくり伝えると「愉快だな」と笑っていた。
「そっちはどうだ?」
「俺結婚したんだよ、友情だけど。そんで妊活してるんでさすがに男は控えてる」
「初耳だな」
「最後に会った時に婚活してるって言わなかったっけ、1年半くらい前にしたのよ」
「俺がバタバタしてた時期だな、すまないな祝えなくて」
ちょうどその頃だと異世界への赴任準備でバタバタしてたし、連絡があっても気付けなかったのかもしれない。
もしかしたら疲労で意識を飛ばしつつ不参加の返事ぐらいは出していたのかもしれないが……。
「いいよ別に、代わりにうちの宿でたっぷりお金落としてくれれば」
「現金だな」
荷物の積み込みを終えて後部座席に腰を下ろし「じゃあ、行くなー」と言いながら車は走り出す。
バスターミナルから車は草津の中心部のほうへと向かっていく。
細く人の多い石畳の道をすり抜けるように走ると、目前にもうもうと湯煙の立ち上る場所が見えてくる。
「あれが湯畑か?」
「ああ、草津といえばの湯畑だよ。うちの宿はそこの通り入ってすぐだからここで降りて湯畑見てくか?」
指さした宿の場所なら迷わずに歩い置ていけそうだ。
「じゃあ頼む」
そう言って車を降りれば強烈な硫黄のにおいが俺を出迎える。
職業柄日本各地を転々としてきたが来たことのない場所というのはあるもので、テレビの旅行番組で見たことのある景色が目前に現れるとなんとなく旅気分が盛り上がる。
(……真柴は来たことあるのか、休暇が終わったら聞いておこう)
ここにはいない初恋の男のことを思い出し、指輪に目を向ける。
どこにいても思い出してしまう存在が恋だというのならやはり俺はあいつのことが好きなんだろう。
湯畑の周りをのんびり歩きながら俺は真柴のことばかり考えてしまうのだった。
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