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大使館1年目・秋(6部分)
獣人と角
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「オ-ロフさんの角を短くしたりってできますか?」
嘉神さんにそう問われた僕は思わず身をすくめた。
顔に緊張がにじみ脳内で何かしでかしたか?といろいろなことが駆け巡る。
どう答えたらいいのか必死に逡巡していると嘉神さんが小さく首をかしげながら口を開いた。
「角がとがってるので客人にけがをさせてしまうのではないか、と思いまして」
よかった、やらかしではないらしい。
「……すいません、ちょっとだけ言わせてもらっていいですか」
「はい」
大き目に息を吸って口を開く。
「僕のような角のある獣人にとって角を切られるという行為は奴隷時代の嫌な記憶とつながることが多いので、あまり言われると怖いんです」
ここに来る前、僕は奴隷として厳しい生活を送っていた。
牛や鹿など角のある動物を祖に持つ獣人は人に危害を加えぬように持ち主によって定期的に角を削られることが決められていて、これがすごく痛い。金属製のやすりで血が出る寸前まで先を丸く削られるのだ。
また角に血管の通っている牛を祖とする獣人への処罰として、角を切って切ったところを焼き鏝でふさぐのは定番の刑罰である。
その名残から金羊国の角あり獣人で角を切ったり削る人は少なく、せいぜい大きくて生活に支障が出るとか怪我をさせてしまう恐れがある人だけが石で軽く削って整えるくらいだ。
「そうでしたか。つらいことを思い出させてしまって申し訳ありません」
嘉神さんが頭を下げて僕にわびた。
「いえ、」
「この事は大使館で周知させておきます」
「そこまでしなくてもいいのに」
「いつも大使館と僕らのために頑張ってくれてるオーロフさんにつらい思いをさせない配慮をするのは普通でしょう?」
嘉神さんは僕の目を見てきっぱり告げる。
その言葉に嘘はないように見えた。
(こんなことを言ってくれる人がこの世にいるんだ!)
日本人は金羊国の獣人を対等に扱う、頭ではわかっていたつもりだった。
しかしただの下働きでしかない僕がそれを感じる機会がなかった。
「……ありがとうございます」
ここの人たちはいい人たちだ。そして、彼らを支えられる場所にいられて本当に良かった。
心底思った気持ちをその一言に詰めて声にすると嘉神さんは「どういたしまして」と告げた。
嘉神さんにそう問われた僕は思わず身をすくめた。
顔に緊張がにじみ脳内で何かしでかしたか?といろいろなことが駆け巡る。
どう答えたらいいのか必死に逡巡していると嘉神さんが小さく首をかしげながら口を開いた。
「角がとがってるので客人にけがをさせてしまうのではないか、と思いまして」
よかった、やらかしではないらしい。
「……すいません、ちょっとだけ言わせてもらっていいですか」
「はい」
大き目に息を吸って口を開く。
「僕のような角のある獣人にとって角を切られるという行為は奴隷時代の嫌な記憶とつながることが多いので、あまり言われると怖いんです」
ここに来る前、僕は奴隷として厳しい生活を送っていた。
牛や鹿など角のある動物を祖に持つ獣人は人に危害を加えぬように持ち主によって定期的に角を削られることが決められていて、これがすごく痛い。金属製のやすりで血が出る寸前まで先を丸く削られるのだ。
また角に血管の通っている牛を祖とする獣人への処罰として、角を切って切ったところを焼き鏝でふさぐのは定番の刑罰である。
その名残から金羊国の角あり獣人で角を切ったり削る人は少なく、せいぜい大きくて生活に支障が出るとか怪我をさせてしまう恐れがある人だけが石で軽く削って整えるくらいだ。
「そうでしたか。つらいことを思い出させてしまって申し訳ありません」
嘉神さんが頭を下げて僕にわびた。
「いえ、」
「この事は大使館で周知させておきます」
「そこまでしなくてもいいのに」
「いつも大使館と僕らのために頑張ってくれてるオーロフさんにつらい思いをさせない配慮をするのは普通でしょう?」
嘉神さんは僕の目を見てきっぱり告げる。
その言葉に嘘はないように見えた。
(こんなことを言ってくれる人がこの世にいるんだ!)
日本人は金羊国の獣人を対等に扱う、頭ではわかっていたつもりだった。
しかしただの下働きでしかない僕がそれを感じる機会がなかった。
「……ありがとうございます」
ここの人たちはいい人たちだ。そして、彼らを支えられる場所にいられて本当に良かった。
心底思った気持ちをその一言に詰めて声にすると嘉神さんは「どういたしまして」と告げた。
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