異世界大使館雑録

あかべこ

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まだ大使館ができる前の話

翻訳の話

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それは言語学集会での一幕。
「……この都市国家という語、なんかおかしい気がする」
木栖さんががポツリとお茶を飲みながらつぶやいた言葉に真柴さんが「確かに」とつぶやいた。
「文脈や文章の内容からすると首長国と訳す方が正しい気がする」
「そうなんですか?」
私が2人にそう聞くと「俺たちの想像する都市国家と意味合いが違うんだよ」と告げる。
「ここで使われる都市国家って、古代ギリシャや中世イタリアみたいな市民による自治じゃなくて都市が首長一族によって治められてる感じだから日本語に当てはめると首長国の方が適切な気がするって話だ」
木栖さんもうんうんとうなづいている。
そう言われると誤訳なんかなと悩むがどうしたものか。
「直訳したからこうなったんでしょうけどねえ」
幕末の日本人も洋書の翻訳にこうして頭を抱えたんだろうか。
「……とりあえず今度からできる限り首長国と訳すようにします」
こういうミス無限にありそうで今から胃痛がする。でもここを超えないとフィールドワークが遠ざかる。


がんばろ、と言い聞かせながら関係者にこの件を報告するのであった。
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