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婚約生活を始めまして
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婚約者として生活するようになって10日ほど経ったが、思いの外快適な生活だった。
まず生活コストが下がる。
木賃宿に長逗留するとどうしても地味に消えていく滞在費が全くかからない、というのは大きい。
次に飯が美味い。
オリヴァーは爵位こそ低いがいっぱしの貴族ということで朝昼晩とちゃんとした飯を出してくれ、しかも出てくる飯も美味いので生活が楽しくなった。
そして何よりも良かったのは、帰ってきた後の虚無感が無くなるということだ。
「エドウィン、おかえり」
家に帰ったとき俺の帰りを待ってくれる人がいることの心地よさなんてものは冒険者生活のなかですっかり忘れていた。
「今日はどこに行ってたの?」
「東の森でアルミラージ捕まえてた、秋ぐらいになると毛皮は需要が上がるからこの時期は良い値段つくんだよな」
「みんな寒くなってきたら防寒着を買おうってなるものね」
「今日は肉も売れたからそれなりの収入になったわ。家賃払うわ」
「今の君は僕の婚約者なんだからお金なんて要らないよ」
オリヴァーから真剣な眼差しでそんな事を宣われると、俺の方がむしろ困ってしまう。
根無しの風来坊に婚約者なんて言葉は似合わない。
「んな事言われてもなぁ」
「君がまだ僕を受け入れきれてないのは分かってるけど、仮とはいえ僕らは婚約したんだよ?僕を婚約者から家賃を取ろうとする吝嗇趣味の人間にする気?」
「……分かったよ」
オリヴァーに渡そうと思っていた銀貨をしまう。
「僕は君がここで暮らしてくれればそれでいい」
****
翌日も冒険者ギルドに顔を出し、依頼票を見ながら何にするかを考える。
「お、エドじゃねぇか」
顔見知りの冒険者仲間が俺の顔を見て一枚の依頼票を指さしてくる。
「お前がいるならちょうどいいや、お前もこの旅商人の護衛の仕事やらねぇか?ちょっと人数足りねぇんだわ」
依頼票を見た限り各種コストが依頼人負担で割のいい感じはするが、脳裏にあいつの顔がよぎってしまう。
(さすがに今出て行ったら嫌がられるかな)
嫌われたのではないかと不安がるオリヴァーの顔を想像したらむしろ申し訳なさが立ってしまう。
「悪い、しばらく王都暮らしだからちょっとやめとく」
「王都は金食うからっていつも2~3日で出てくのに珍しいな」
不思議そうな顔をして覗き込んでくる顔見知りにどう説明するか少しだけ悩んだ後、素直に答えてしまったほうがいいかと結論づけて口を開いた。
「……婚約することになったんで話がまとまるまで王都暮らしになったんだよ」
「ホントか!お前も良い縁に恵まれてんなー!うらやましい!」
バンバン俺の背中を叩きながら俺を祝福してくれるので、その様子を見た他の奴らにも話がどんどん伝わっていく。
「婚約ってことは親御さんの金問題片付いたのか?」
「その辺の話はまだしてない」
「おいおい、婚約するなら早めにしといた方がいいぜ。金の話は拗れがちだからな」
冒険者として各地を流浪する中で知った経験談らしいアドバイスと共に、ご祝儀がわりの銅貨を数枚譲ってくれる。
(まさかご祝儀まで貰ってしまうとは)
本当にご祝儀なんか渡されることになるとは思いましてなくて、じっと銅貨を覗き込んでしまう。
そもそも婚約話自体が半分冗談みたいなもんだったせいか、まだ俺自身が婚約をあまり実感しきれていないのかもしれなかった。
まず生活コストが下がる。
木賃宿に長逗留するとどうしても地味に消えていく滞在費が全くかからない、というのは大きい。
次に飯が美味い。
オリヴァーは爵位こそ低いがいっぱしの貴族ということで朝昼晩とちゃんとした飯を出してくれ、しかも出てくる飯も美味いので生活が楽しくなった。
そして何よりも良かったのは、帰ってきた後の虚無感が無くなるということだ。
「エドウィン、おかえり」
家に帰ったとき俺の帰りを待ってくれる人がいることの心地よさなんてものは冒険者生活のなかですっかり忘れていた。
「今日はどこに行ってたの?」
「東の森でアルミラージ捕まえてた、秋ぐらいになると毛皮は需要が上がるからこの時期は良い値段つくんだよな」
「みんな寒くなってきたら防寒着を買おうってなるものね」
「今日は肉も売れたからそれなりの収入になったわ。家賃払うわ」
「今の君は僕の婚約者なんだからお金なんて要らないよ」
オリヴァーから真剣な眼差しでそんな事を宣われると、俺の方がむしろ困ってしまう。
根無しの風来坊に婚約者なんて言葉は似合わない。
「んな事言われてもなぁ」
「君がまだ僕を受け入れきれてないのは分かってるけど、仮とはいえ僕らは婚約したんだよ?僕を婚約者から家賃を取ろうとする吝嗇趣味の人間にする気?」
「……分かったよ」
オリヴァーに渡そうと思っていた銀貨をしまう。
「僕は君がここで暮らしてくれればそれでいい」
****
翌日も冒険者ギルドに顔を出し、依頼票を見ながら何にするかを考える。
「お、エドじゃねぇか」
顔見知りの冒険者仲間が俺の顔を見て一枚の依頼票を指さしてくる。
「お前がいるならちょうどいいや、お前もこの旅商人の護衛の仕事やらねぇか?ちょっと人数足りねぇんだわ」
依頼票を見た限り各種コストが依頼人負担で割のいい感じはするが、脳裏にあいつの顔がよぎってしまう。
(さすがに今出て行ったら嫌がられるかな)
嫌われたのではないかと不安がるオリヴァーの顔を想像したらむしろ申し訳なさが立ってしまう。
「悪い、しばらく王都暮らしだからちょっとやめとく」
「王都は金食うからっていつも2~3日で出てくのに珍しいな」
不思議そうな顔をして覗き込んでくる顔見知りにどう説明するか少しだけ悩んだ後、素直に答えてしまったほうがいいかと結論づけて口を開いた。
「……婚約することになったんで話がまとまるまで王都暮らしになったんだよ」
「ホントか!お前も良い縁に恵まれてんなー!うらやましい!」
バンバン俺の背中を叩きながら俺を祝福してくれるので、その様子を見た他の奴らにも話がどんどん伝わっていく。
「婚約ってことは親御さんの金問題片付いたのか?」
「その辺の話はまだしてない」
「おいおい、婚約するなら早めにしといた方がいいぜ。金の話は拗れがちだからな」
冒険者として各地を流浪する中で知った経験談らしいアドバイスと共に、ご祝儀がわりの銅貨を数枚譲ってくれる。
(まさかご祝儀まで貰ってしまうとは)
本当にご祝儀なんか渡されることになるとは思いましてなくて、じっと銅貨を覗き込んでしまう。
そもそも婚約話自体が半分冗談みたいなもんだったせいか、まだ俺自身が婚約をあまり実感しきれていないのかもしれなかった。
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