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出来ない約束のはずだった

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仕事終わりのくたびれた空きっ腹に揚げ芋がゆっくりと落ちてゆき、それを一杯のビールで流し込むとようやく生きた心地がする。
「今回こそ死ぬかと思った……」
国内外を回りながら珍品逸品を探し歩いて納入する生活もかれこれ15年。流石に慣れたつもりだが今回の依頼品は流石に難易度が高過ぎた。
(水竜の剥がれた鱗とか誰が使うんだろうな……)
そんなことをぼんやり考えながら揚げた芋をつまみ、酒を呑むことが俺のささやかな楽しみだった。
「あんたはいっつもそれしか言わないねぇ~」
酒場のオーナーであるおばちゃんは呆れたように俺にそんなことを言う。
「他の冒険者連中は死ぬかと思ったなんて絶対言わないだろうに」
「あいつらのアレは願掛けだよ」
冒険者は生きのびて持ち帰ってナンボの商売だから、死ぬという言葉を知らないフリをすることで死なない願掛けをするのだ。
俺はまあそんな願掛けをしたいとは思わないからしないだけなのだが。
「エドウィン」
俺のことを愛称ではなく本名で呼びながら、隣の椅子に腰を下ろす。
地味ながら高価な生地を使ったフード付きマントで風貌を隠しているが、俺には声だけでわかる。
「オリヴァー、お前よく分かったな」
「そろそろ王都に戻ってここで酒を飲んでる頃合いだと思ってたから仕事を早めに切り上げたんだ」
フードの下から金髪碧眼のきらきらしい風貌がチラリと俺のつまらない顔を覗き込んでくる。
「そらご苦労さん。でも奢ったりはしないぞ」
俺のような根無草の貧乏人と違い、仮にも男爵の位を与えら騎士団で軍師補佐として騎士団長や国王からの覚えもめでたい男とは生活も収入も天と地ほどの差があった。
「別にいいよ。ところで、4年前の約束覚えてる?」
「4年前?」

「『30歳まで独身だったら俺と結婚するか?』」

わざと俺の声真似をしながらオリヴァーは一枚の紙を差し出してきた。
それはオリヴァーの名前が記された一枚の結婚契約書で、俺があとは名前を書き込んで役場に持って行けば成立してしまう状態まで仕上げられている。
「この国で同性婚はまだ認められてなかったはずじゃ?」
「しばらく王都を離れてたから知らないだろうけど、今月から同性での結婚も認められるようになったんだ」
証拠と言わんばかりに国から同性婚を認める正式文書を見せてくれる。さすが騎士団勤め、こういう正式な書類まで個人的に持ち出せるらしい。
「エドウィン、あの時の約束通り僕と結婚してくれる?」
煌びやかなイケメンが小汚い町の酒場で俺の顔を覗き込みながら、出来ないはずだった結婚の約束の履行を求めてきた。
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