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「シラノさんの仮戸籍申請しましょうか」
古内さんが俺とシラノに向けてそんな話を切り出してきた。
シラノが日本に来て半年ちょっと、日本での生活にある程度馴染めて手品で多少の収入が得られた事もあってそろそろその準備に移ろうという相談だった。
「そういやまだ戸籍の話してませんでしたね」
「お二人もある程度生活が落ち着いてきましたからね。あとは協力してくれる弁護士さんを探すのに少し手間取ってしまいまして……今回協力してくれる藤井弁護士です」
「藤井初音と申します」
若い女性の弁護士が早速仮戸籍取得についての説明を始めてくれる。
専門の書類を書き裁判所に提出、詳細な聞き取りや確認を経て仮戸籍取得となる。普通にやると半年程度かかるらしい。
「ただ今回は一つ問題があります、ビッテンフェルドさんが異世界人である点です。
これを公にした場合、帰国できないのでここに骨を埋めるしかない事を証明する必要があります。注目される事で生活に影響が出る可能性もありますし、就籍までの時間が延びたり最悪死ぬまで取得出来ない可能性すらありますが、公にして就籍に挑みますか?」
そういやシラノの苗字ってビッテンフェルドだったなと思い出したが、肝心なところはそこではない。
シラノの就籍に協力してくれる弁護士が見つからなかった理由が分かった気がした。
純粋に多くの弁護士は素直に異世界人という存在が信じられなかったんだろうし、信じるとしても間違いなく普通の就籍より厄介な事案となる。
「……注目される事でタモツやこの病院の人達が迷惑を被る事はな」
ポツリとシラノがつぶやく。
望めないという表現にはシラノなりの気遣いと迷いが滲む。
「異世界人として生きていきたいのか?」
「望む姿で生きることの大切さを教えてくれたのはこの国だ、俺もまた祖国への愛を隠さずに生きていきたい」
「ならそうすればいい」
シラノが真顔で俺を見たあと、古内さんは少し考えてから口を開く。
「異世界人である事を公にして生きていく事にはメリットもデメリットもありますので、それを承知の上でなら病院側として反対はしません。
異世界人として望まぬ注目をされ、毀誉褒貶や好奇の目をぶつけられ、それでもいいと思えますか?」
「構わない」
シラノの顔は覚悟し切ったものだった。
世界にただ1人の異世界人としてここで生きていこうと腹を据えてしまったのだ。
(この決断力は騎士団長っていう立場が育てたものかね……?)
シラノが望むのなら俺も覚悟を決めよう。
「タモツには迷惑をかける」
「別に良いよ。お前と出逢った瞬間からずっと迷惑かけられてんだ、ここまで来たら最後まで迷惑かけられてやるよ」
藤井さんは「では、長期戦覚悟で頑張りましょう」と真っ直ぐに応えた。
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