会社を辞めて騎士団長を拾う

あかべこ

文字の大きさ
上 下
13 / 14

13

しおりを挟む
「シラノさんの仮戸籍申請しましょうか」
古内さんが俺とシラノに向けてそんな話を切り出してきた。
シラノが日本に来て半年ちょっと、日本での生活にある程度馴染めて手品で多少の収入が得られた事もあってそろそろその準備に移ろうという相談だった。
「そういやまだ戸籍の話してませんでしたね」
「お二人もある程度生活が落ち着いてきましたからね。あとは協力してくれる弁護士さんを探すのに少し手間取ってしまいまして……今回協力してくれる藤井弁護士です」
「藤井初音と申します」
若い女性の弁護士が早速仮戸籍取得についての説明を始めてくれる。
専門の書類を書き裁判所に提出、詳細な聞き取りや確認を経て仮戸籍取得となる。普通にやると半年程度かかるらしい。
「ただ今回は一つ問題があります、ビッテンフェルドさんが異世界人である点です。
これを公にした場合、帰国できないのでここに骨を埋めるしかない事を証明する必要があります。注目される事で生活に影響が出る可能性もありますし、就籍までの時間が延びたり最悪死ぬまで取得出来ない可能性すらありますが、公にして就籍に挑みますか?」
そういやシラノの苗字ってビッテンフェルドだったなと思い出したが、肝心なところはそこではない。
シラノの就籍に協力してくれる弁護士が見つからなかった理由が分かった気がした。
純粋に多くの弁護士は素直に異世界人という存在が信じられなかったんだろうし、信じるとしても間違いなく普通の就籍より厄介な事案となる。
「……注目される事でタモツやこの病院の人達が迷惑を被る事はな」
ポツリとシラノがつぶやく。
望めないという表現にはシラノなりの気遣いと迷いが滲む。
「異世界人として生きていきたいのか?」
「望む姿で生きることの大切さを教えてくれたのはこの国だ、俺もまた祖国への愛を隠さずに生きていきたい」
「ならそうすればいい」
シラノが真顔で俺を見たあと、古内さんは少し考えてから口を開く。
「異世界人である事を公にして生きていく事にはメリットもデメリットもありますので、それを承知の上でなら病院側として反対はしません。
異世界人として望まぬ注目をされ、毀誉褒貶や好奇の目をぶつけられ、それでもいいと思えますか?」
「構わない」
シラノの顔は覚悟し切ったものだった。
世界にただ1人の異世界人としてここで生きていこうと腹を据えてしまったのだ。
(この決断力は騎士団長っていう立場が育てたものかね……?)
シラノが望むのなら俺も覚悟を決めよう。
「タモツには迷惑をかける」
「別に良いよ。お前と出逢った瞬間からずっと迷惑かけられてんだ、ここまで来たら最後まで迷惑かけられてやるよ」
藤井さんは「では、長期戦覚悟で頑張りましょう」と真っ直ぐに応えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

彩雲華胥

柚月なぎ
BL
 暉の国。  紅鏡。金虎の一族に、痴れ者の第四公子という、不名誉な名の轟かせ方をしている、奇妙な仮面で顔を覆った少年がいた。  名を無明。  高い霊力を封じるための仮面を付け、幼い頃から痴れ者を演じ、周囲を欺いていた無明だったが、ある出逢いをきっかけに、少年の運命が回り出す――――――。  暉の国をめぐる、中華BLファンタジー。 ※この作品は最新話は「カクヨム」さんで読めます。また、「小説家になろう」さん「Fujossy」さんでも連載中です。 ※表紙や挿絵はすべてAIによるイメージ画像です。 ※お気に入り登録、投票、コメント等、すべてが励みとなります!応援していただけたら、幸いです。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

処理中です...