会社を辞めて騎士団長を拾う

あかべこ

文字の大きさ
2 / 14

しおりを挟む
引っ越し手続きで役場に行こうと思ったら足の引きちぎれたプレートアーマーの男がいた。
意味が分からず周りを見渡すが特に誰もいなさそうで、質の悪いいたずらという線は消えた。
「えっと、大丈夫ですか?」
「う……」
一応生きてはいる。なら救急車か。
急いで119番通報すると『止血をしてほしいので布で押さえておいてください』と指示が飛ぶ。
車の中に置きっぱなしにしてあるタオルを水で軽くすすいで綺麗にしてから傷口に押し当てているとサイレンの音がしてきた。
救急車に引き継いでさて一安心と思っていたら「付き添いお願いしていいですか?」と言われ、断り切れず便乗することにした。
引きちぎれた足に止血帯を結んだ後、救急救命士の人とふたりがかりでプレートアーマーを外すことになった。
プレートアーマーは激しい戦闘を物語るへこみや傷がついており、もちろんその下の身体もひどく傷だらけであった。
そして引っかかったのは、プレートアーマーが妙に軽い事だった。
(アルミにしちゃー随分と軽いな……?カーボンを金属っぽく塗装してるのか?)
軽さへの違和感を抱きつつ到着した病院では関係性を疑われた。
まあ常識的に考えたら家の前に血だらけのプレートアーマー男はいないもんな、普通。
とにかくそうとしか言えない事を必死に説明すると不服ながらも一応納得してくれた、のだが。
その日の夕方に目覚めたその男にも問題があったのである。
「お名前は?」
「シラノ=ドワイト・ディ・ビッテンフェルトだ」
「ご住所などはわかりますか?」
「サルデニユ帝国帝都第7番街西だな」
「お仕事は?」
「サルデニユ帝国第一騎士団団長をしている……なあ、ここはどこだ?」
「日本という国の病院ですね」
「二ホン……?知らないな。川に落ちたとしても着くのは共和国だろうに……」
どうもこの男、自分を異世界の騎士団長だと思い込んでいるようなのである。
曰く『サルデニユ帝国南部のアレッサンドロ山に住みついたワイバーンの群れを辺境伯軍と合同で倒しに行き、瀕死の状態のワイバーンに足を食いちぎられた』という設定らしい。
「シラノさん、あなたを助けてくれた岩瀬さんとご面識はありますか?」
紺碧の釣り目が俺を頭から足の先まで見た。
いかにも白人系らしい純白の肌に威厳ある面立ちを引き立てる金糸の髪、がっしりとした骨格は傷だらけではあるが実用性に富んだ筋肉に包まれている。
(……よく見ると割といい男の部類だな、こいつ)
イケメンとか超絶男前言う訳ではないが海外の男前アスリート特集があれば掲載されそうな感じだ。
「いや、すまない。見覚えはないな」
「でしょうね。俺もシラノさん?に見覚えはないです」
そうですかと病院の人がため息を吐く。
「となるとご親族に連絡して入院費を工面してもらうのは無理そうですね」
「私の手持ちの金貨で足りるだろうか」
そう言って首からぶら下げていた小さな巾着から数枚の金貨を取り出す。
大きさは500円玉より一回り大きいぐらいだろうか、女性の横顔が彫り上げられたヨーロッパの古い硬貨に似たそれをスマホの画像検索で調べてみるが該当するものはなかった。
「場合によってはこれを貨幣でなく金の価値に換算してのお支払いになりますが大丈夫ですか?
「帝国金貨が使えないのか?!……まあ、使えないならしかたない」

「あと岩瀬さんに願いしたいのですが、シラノさんのお身内の方が見つかるまで付き添いをお願いしてもいいですか?」
「……はあ?」

FIRE生活一日目から、俺は面倒なものを背負い込むことになってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【連載版あり】「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。 ※加筆修正が加えられています。投稿初日とは誤差があります。ご了承ください。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

処理中です...