異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
249 / 254
18:Chosen Family

18-9

しおりを挟む
うちに泊まりに来るにあたり、夕飯だけ一緒に買いに行くことになった。
電車を降りて地元のスーパーに立ち寄ると店は程よく混んでいた。
「夕飯どうする?」
「あったかいもんがいい」
「まあ寒いとそうなるよな。めんどいし鍋で良いか」
木栖に籠を持たせると鍋用の野菜を探しに行く。
ちょうど安くなっていた四分の一カットの白菜ともやしを籠に入れておくと、木栖が謎の味噌を手にしていた。
「なんだそれ?」
「とり野菜みそっていう鍋用の味噌だな、富山にいた時に何度か食べてたんだが売ってたの見てつい」
「お前昼間も味噌ラーメン食ってたろ」
「……たぶん癖なんだろうな。意識しないと味噌味選ぶの」
とり野菜みそは溶かして使うものらしく休暇中に使いきれない気がするので別のにしてくれ、と頼むとしばらく悩んでから醤油ちゃんこ鍋のストレートタイプのつゆを手に取って籠に入れた。
「にしても、そんなに味噌味好きなのか?」
「特別味噌味が好きってつもりはないんだけどな、うちの親父が味噌味好きだったんだよ。だから自然と味噌味と、あとは親が両方長崎だからとんこつ味が多くなりがちだったから、何も考えないと味噌かとんこつに手が伸びるんだろうな」
家族由来の癖か。心当たりがない事も無い。
「うちは死んだ父親がレバー嫌いだったから、大学ぐらいまでレバー系の料理食べたこと無かったな」
「家族が嫌いなものが食卓に出てこないのはよくあるよな」
「まあその父親は俺が物心つく前に死んでるんだけど」
今にして思えば亡き夫が嫌いだからと言う理由でレバーを出さなかった母も大概どうかしてるなと思うが、当時はそういうものと言う感覚で受け入れていた。
あの頃から母の中ではまだ父が生きていたのかもしれないし、俺を忘れて父を忘れない母へ繋がる伏線だったのかもしれない。これは物語じゃないので伏線などと言うものではないかもしれないが。
「お前の母親を悪く言うみたいでアレだが、どうかしてるな」
「俺も今になってそう思うよ。あと鍋に肉と魚どっち入れる?」
「個人的な好みで言うなら鶏肉だな、でも予算合わなさそうなら安いので良いぞ」
結局魚売り場と精肉売り場を見て安くなっていた豚コマと鶏つくねを籠に放り込んだ。
酒類のコーナーに足を踏み込むと見覚えのある姿とバッチリ目が合った。
「春兄じゃん、今日から休みなの?」
「昨日からだよ」
俺の従兄弟である沢村絃子が酒を籠に突っ込みながらキャッキャと近寄ってくる。
お使いついでで酒買ってるんだろうけど籠の中の大瓶の酒がカラカラと揺れている。
(これひとりで飲む気か?おじさんや叶の分も込みだよな?)
俺の内心のツッコミが口から出る前にイトは「あ、土曜日の食事の約束忘れてないよね?」と聞いてきた。
「覚えてるよ、土曜日の7時だろ」
「ならいいや」
イトが俺の横にいた木栖に気が付いて「春兄。この人が噂の木栖さんでいいの?」と聞いてくる。
「噂のってなんだよ。こいつが木栖善泰なのはあってるけど」
木栖の方にも「こいつは俺の従兄弟の沢村絃子な」と軽く紹介しておく。
「そっか春兄知らないか、春兄と木栖さんがガチで付き合ってるのかを探ったり考察してる人がいるの」
サラッと知りたくないタイプの情報が出てきてちらりと木栖の方を見ると、当惑のまなざしを俺に向けていた。
というか俺らの関係性を漁ってる人たちって何だ、俺たちはただの国家公務員なんだが?
「実際探りを入れられたことあるのか?」
「ある」「嘘だろ?」
イトの返答に間髪を入れず木栖が突っ込む。しかしイトがここでふざけた嘘を突っ込んでくる理由がない。
身内だけの場ならまだしもこれはただの立ち話であるし、木栖と言うイトにとって身内と言い難い相手もいる。
「この場じゃ聞かないけどそういう人結構いるから気を付けてね、木栖さんも春兄と一緒にいるならそういう事もあると思うし」
「忠告ありがとうな。土曜日楽しみにしてるって叔母さんに言っといてくれ」
「はーい、じゃあまた今度ね」
そう言ってイトはセルフレジの方へ歩き出していく。
イトからの忠告めいた話にちょっとだけため息が漏れる。

「……俺らがどういう関係でもよその人にはどうでもいい事だろうになあ」

叔母さんたちや木栖家の人々には俺たちの関係性は重要な問題だろうが、顔も知らないような第三者にはどうだっていい事だろう。
そもそも俺ですらまだ答えが出せてないというのによそ様が答えを知ることが出来るんだろうか?
「みんな下世話な話が好きだからな」
「そういう事なんだろうな」
やれやれという気持ちになりつつ、俺たちは夕飯の買い物に戻るのであった。
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...