248 / 254
18:Chosen Family
18-8
しおりを挟む
「ATMで上限の100万おろしてきた、こんだけあれば当座の入院費の足しになるだろ。
ただしもう2度と俺から入院費を貰えると思うな」
上の弟に善泰が札束を押し付けると早歩きで退出するので、俺はそれを追いかけるように小走りで追いかける。
バス停に着くと善泰は足を止めて深呼吸をし、こいつほどの体力を持ち合わせない俺はベンチにへたりこんだ。
(……こいつの早足に追いつくのはしんどすぎる)
体力も足の長さも違いすぎることに男として若干の嫉妬を覚えていると、シャランとロザリオが揺れる音がした。
「善泰兄さん!」
「茂勝か」
「兄さんの幸せを俺はゆるすよ。今の兄さんの幸せが正しいかどうかを裁くのは僕や母さんじゃない、神様だ」
それは他の木栖家の人たちの口からは出なかった類の言葉であったが、善泰は「……神の教えに従うならばそうなるな」とつぶやいた。
「でも俺は自分の頭で導き出して得た幸せを胸に抱いて生きていきたい、それが神の導きかどうかは知らないがな」
「わかった。でも兄さんの幸福のために僕が神へ祈ることは?」
「好きにすればいい」
****
駅へ戻るバスの中でぐるぐると思考が回り続ける。
「本当にこれで良かったんだよな?」
「言ったのはお前だろう。『今の家族の姿を見て縁を切るかどうか決めろ』って」
それはそうなのだが実際に縁を切ることになったとなると、妙な申し訳なさが沸き上がる。
多分関係の回復は無理だろうなと言う直感と家族なのだからと言う捨てがたい情がぐるぐると回っているのだ。
「まあ、な」
「お前を悪魔と呼んだ父親と目の前の俺よりも何処にいるのかも分からない神を見る母親を見て、俺が一緒に生きることは無理だと思ったんだ。お前が何を言ったとしてもこれは俺の判断だ」
善泰は大宮駅の一つ手前のバス停で突然降りると携帯ショップへ足を踏み入れた。
「携帯変えるのか?」
「これを機に番号を変えようと思ってな、ちょうどショップがあったから」
携帯ショップに足を踏み入れるとさっそく受付に行って番号変更の申し込みを始める。
なんとなくついてきてしまった俺は店の隅に腰を下ろし、店内に流れる女性歌手の曲に耳を傾ける事にした。
『血の繋がりも、分かち合う苗字もないけれど、あなたは私の選んだ家族なのだから』
知らない女性歌手は英語で優しく俺たちに語りかける。
店の人と話をする姿を遠くに見ながら、ぼんやりとこいつは俺の家族になるのだろうかと思う。
両親を失った俺と両親と違う道を選んだこいつは似たような人生の途中にいて、俺がこいつの手を取って家族として生きて行くことも悪い選択肢ではない気がする。
「真柴?」
考え込んでいた俺に声をかけてきた善泰が「電話番号の変更終わったから、新しい番号渡しにきたんだが」と声をかけてくる。
「俺が最初でいいのか?」
「お前がいい」
「……お前はいつも俺を特別扱いするな?」
「俺がそうしたいからそうしてるんだ。他の奴には会った時に言っておくよ」
スマホの連絡先を開いて木栖善泰の携帯電話を新しい番号に修正する。
ずっとこの男は俺を選んでいて、きっと俺が望めば俺はこの男の恋人にも家族にもなれるんだろう。不意にそう思った。
「そうか。この後どうする?」
「これからホテル探して泊まって、明日以降は知り合いのいる草津でのんびりしようかと」
「じゃあ今夜はどこ泊まるとか決めてないんだな?」
「ああ、そうだけど……」
「今夜の宿決めてないならうち来るか?」
お前が俺を選ぶのなら、俺もお前を選ぼうと思った。これはその第一歩。
俺のその問いかけに木栖が数秒ほどポカンとした後「お前が誘ってくれるなら、喜んで」と微笑みと共に応じるのだった。
ただしもう2度と俺から入院費を貰えると思うな」
上の弟に善泰が札束を押し付けると早歩きで退出するので、俺はそれを追いかけるように小走りで追いかける。
バス停に着くと善泰は足を止めて深呼吸をし、こいつほどの体力を持ち合わせない俺はベンチにへたりこんだ。
(……こいつの早足に追いつくのはしんどすぎる)
体力も足の長さも違いすぎることに男として若干の嫉妬を覚えていると、シャランとロザリオが揺れる音がした。
「善泰兄さん!」
「茂勝か」
「兄さんの幸せを俺はゆるすよ。今の兄さんの幸せが正しいかどうかを裁くのは僕や母さんじゃない、神様だ」
それは他の木栖家の人たちの口からは出なかった類の言葉であったが、善泰は「……神の教えに従うならばそうなるな」とつぶやいた。
「でも俺は自分の頭で導き出して得た幸せを胸に抱いて生きていきたい、それが神の導きかどうかは知らないがな」
「わかった。でも兄さんの幸福のために僕が神へ祈ることは?」
「好きにすればいい」
****
駅へ戻るバスの中でぐるぐると思考が回り続ける。
「本当にこれで良かったんだよな?」
「言ったのはお前だろう。『今の家族の姿を見て縁を切るかどうか決めろ』って」
それはそうなのだが実際に縁を切ることになったとなると、妙な申し訳なさが沸き上がる。
多分関係の回復は無理だろうなと言う直感と家族なのだからと言う捨てがたい情がぐるぐると回っているのだ。
「まあ、な」
「お前を悪魔と呼んだ父親と目の前の俺よりも何処にいるのかも分からない神を見る母親を見て、俺が一緒に生きることは無理だと思ったんだ。お前が何を言ったとしてもこれは俺の判断だ」
善泰は大宮駅の一つ手前のバス停で突然降りると携帯ショップへ足を踏み入れた。
「携帯変えるのか?」
「これを機に番号を変えようと思ってな、ちょうどショップがあったから」
携帯ショップに足を踏み入れるとさっそく受付に行って番号変更の申し込みを始める。
なんとなくついてきてしまった俺は店の隅に腰を下ろし、店内に流れる女性歌手の曲に耳を傾ける事にした。
『血の繋がりも、分かち合う苗字もないけれど、あなたは私の選んだ家族なのだから』
知らない女性歌手は英語で優しく俺たちに語りかける。
店の人と話をする姿を遠くに見ながら、ぼんやりとこいつは俺の家族になるのだろうかと思う。
両親を失った俺と両親と違う道を選んだこいつは似たような人生の途中にいて、俺がこいつの手を取って家族として生きて行くことも悪い選択肢ではない気がする。
「真柴?」
考え込んでいた俺に声をかけてきた善泰が「電話番号の変更終わったから、新しい番号渡しにきたんだが」と声をかけてくる。
「俺が最初でいいのか?」
「お前がいい」
「……お前はいつも俺を特別扱いするな?」
「俺がそうしたいからそうしてるんだ。他の奴には会った時に言っておくよ」
スマホの連絡先を開いて木栖善泰の携帯電話を新しい番号に修正する。
ずっとこの男は俺を選んでいて、きっと俺が望めば俺はこの男の恋人にも家族にもなれるんだろう。不意にそう思った。
「そうか。この後どうする?」
「これからホテル探して泊まって、明日以降は知り合いのいる草津でのんびりしようかと」
「じゃあ今夜はどこ泊まるとか決めてないんだな?」
「ああ、そうだけど……」
「今夜の宿決めてないならうち来るか?」
お前が俺を選ぶのなら、俺もお前を選ぼうと思った。これはその第一歩。
俺のその問いかけに木栖が数秒ほどポカンとした後「お前が誘ってくれるなら、喜んで」と微笑みと共に応じるのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界転移~治癒師の日常
コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が…
こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします
なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18)
すいません少し並びを変えております。(2017/12/25)
カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15)
エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる