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18:Chosen Family
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「ATMで上限の100万おろしてきた、こんだけあれば当座の入院費の足しになるだろ。
ただしもう2度と俺から入院費を貰えると思うな」
上の弟に善泰が札束を押し付けると早歩きで退出するので、俺はそれを追いかけるように小走りで追いかける。
バス停に着くと善泰は足を止めて深呼吸をし、こいつほどの体力を持ち合わせない俺はベンチにへたりこんだ。
(……こいつの早足に追いつくのはしんどすぎる)
体力も足の長さも違いすぎることに男として若干の嫉妬を覚えていると、シャランとロザリオが揺れる音がした。
「善泰兄さん!」
「茂勝か」
「兄さんの幸せを俺はゆるすよ。今の兄さんの幸せが正しいかどうかを裁くのは僕や母さんじゃない、神様だ」
それは他の木栖家の人たちの口からは出なかった類の言葉であったが、善泰は「……神の教えに従うならばそうなるな」とつぶやいた。
「でも俺は自分の頭で導き出して得た幸せを胸に抱いて生きていきたい、それが神の導きかどうかは知らないがな」
「わかった。でも兄さんの幸福のために僕が神へ祈ることは?」
「好きにすればいい」
****
駅へ戻るバスの中でぐるぐると思考が回り続ける。
「本当にこれで良かったんだよな?」
「言ったのはお前だろう。『今の家族の姿を見て縁を切るかどうか決めろ』って」
それはそうなのだが実際に縁を切ることになったとなると、妙な申し訳なさが沸き上がる。
多分関係の回復は無理だろうなと言う直感と家族なのだからと言う捨てがたい情がぐるぐると回っているのだ。
「まあ、な」
「お前を悪魔と呼んだ父親と目の前の俺よりも何処にいるのかも分からない神を見る母親を見て、俺が一緒に生きることは無理だと思ったんだ。お前が何を言ったとしてもこれは俺の判断だ」
善泰は大宮駅の一つ手前のバス停で突然降りると携帯ショップへ足を踏み入れた。
「携帯変えるのか?」
「これを機に番号を変えようと思ってな、ちょうどショップがあったから」
携帯ショップに足を踏み入れるとさっそく受付に行って番号変更の申し込みを始める。
なんとなくついてきてしまった俺は店の隅に腰を下ろし、店内に流れる女性歌手の曲に耳を傾ける事にした。
『血の繋がりも、分かち合う苗字もないけれど、あなたは私の選んだ家族なのだから』
知らない女性歌手は英語で優しく俺たちに語りかける。
店の人と話をする姿を遠くに見ながら、ぼんやりとこいつは俺の家族になるのだろうかと思う。
両親を失った俺と両親と違う道を選んだこいつは似たような人生の途中にいて、俺がこいつの手を取って家族として生きて行くことも悪い選択肢ではない気がする。
「真柴?」
考え込んでいた俺に声をかけてきた善泰が「電話番号の変更終わったから、新しい番号渡しにきたんだが」と声をかけてくる。
「俺が最初でいいのか?」
「お前がいい」
「……お前はいつも俺を特別扱いするな?」
「俺がそうしたいからそうしてるんだ。他の奴には会った時に言っておくよ」
スマホの連絡先を開いて木栖善泰の携帯電話を新しい番号に修正する。
ずっとこの男は俺を選んでいて、きっと俺が望めば俺はこの男の恋人にも家族にもなれるんだろう。不意にそう思った。
「そうか。この後どうする?」
「これからホテル探して泊まって、明日以降は知り合いのいる草津でのんびりしようかと」
「じゃあ今夜はどこ泊まるとか決めてないんだな?」
「ああ、そうだけど……」
「今夜の宿決めてないならうち来るか?」
お前が俺を選ぶのなら、俺もお前を選ぼうと思った。これはその第一歩。
俺のその問いかけに木栖が数秒ほどポカンとした後「お前が誘ってくれるなら、喜んで」と微笑みと共に応じるのだった。
ただしもう2度と俺から入院費を貰えると思うな」
上の弟に善泰が札束を押し付けると早歩きで退出するので、俺はそれを追いかけるように小走りで追いかける。
バス停に着くと善泰は足を止めて深呼吸をし、こいつほどの体力を持ち合わせない俺はベンチにへたりこんだ。
(……こいつの早足に追いつくのはしんどすぎる)
体力も足の長さも違いすぎることに男として若干の嫉妬を覚えていると、シャランとロザリオが揺れる音がした。
「善泰兄さん!」
「茂勝か」
「兄さんの幸せを俺はゆるすよ。今の兄さんの幸せが正しいかどうかを裁くのは僕や母さんじゃない、神様だ」
それは他の木栖家の人たちの口からは出なかった類の言葉であったが、善泰は「……神の教えに従うならばそうなるな」とつぶやいた。
「でも俺は自分の頭で導き出して得た幸せを胸に抱いて生きていきたい、それが神の導きかどうかは知らないがな」
「わかった。でも兄さんの幸福のために僕が神へ祈ることは?」
「好きにすればいい」
****
駅へ戻るバスの中でぐるぐると思考が回り続ける。
「本当にこれで良かったんだよな?」
「言ったのはお前だろう。『今の家族の姿を見て縁を切るかどうか決めろ』って」
それはそうなのだが実際に縁を切ることになったとなると、妙な申し訳なさが沸き上がる。
多分関係の回復は無理だろうなと言う直感と家族なのだからと言う捨てがたい情がぐるぐると回っているのだ。
「まあ、な」
「お前を悪魔と呼んだ父親と目の前の俺よりも何処にいるのかも分からない神を見る母親を見て、俺が一緒に生きることは無理だと思ったんだ。お前が何を言ったとしてもこれは俺の判断だ」
善泰は大宮駅の一つ手前のバス停で突然降りると携帯ショップへ足を踏み入れた。
「携帯変えるのか?」
「これを機に番号を変えようと思ってな、ちょうどショップがあったから」
携帯ショップに足を踏み入れるとさっそく受付に行って番号変更の申し込みを始める。
なんとなくついてきてしまった俺は店の隅に腰を下ろし、店内に流れる女性歌手の曲に耳を傾ける事にした。
『血の繋がりも、分かち合う苗字もないけれど、あなたは私の選んだ家族なのだから』
知らない女性歌手は英語で優しく俺たちに語りかける。
店の人と話をする姿を遠くに見ながら、ぼんやりとこいつは俺の家族になるのだろうかと思う。
両親を失った俺と両親と違う道を選んだこいつは似たような人生の途中にいて、俺がこいつの手を取って家族として生きて行くことも悪い選択肢ではない気がする。
「真柴?」
考え込んでいた俺に声をかけてきた善泰が「電話番号の変更終わったから、新しい番号渡しにきたんだが」と声をかけてくる。
「俺が最初でいいのか?」
「お前がいい」
「……お前はいつも俺を特別扱いするな?」
「俺がそうしたいからそうしてるんだ。他の奴には会った時に言っておくよ」
スマホの連絡先を開いて木栖善泰の携帯電話を新しい番号に修正する。
ずっとこの男は俺を選んでいて、きっと俺が望めば俺はこの男の恋人にも家族にもなれるんだろう。不意にそう思った。
「そうか。この後どうする?」
「これからホテル探して泊まって、明日以降は知り合いのいる草津でのんびりしようかと」
「じゃあ今夜はどこ泊まるとか決めてないんだな?」
「ああ、そうだけど……」
「今夜の宿決めてないならうち来るか?」
お前が俺を選ぶのなら、俺もお前を選ぼうと思った。これはその第一歩。
俺のその問いかけに木栖が数秒ほどポカンとした後「お前が誘ってくれるなら、喜んで」と微笑みと共に応じるのだった。
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