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17.5:大使館と秋の終わり
17.5 後編
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11月末、エルダールの島に派遣された医師たちが金羊国へ到着した。
大使館へ入国手続きに訪れた彼らのリーダーに一杯のお茶を差し出している。
『ベルナルディーニチーム長、この度はお疲れ様でした』
『ありがとうございます』
『この後全員に一通り書いてもらう書類などは揃えてあるので、一度お茶でも飲んで少し休んで頂ければと思います。その間にうちの医者による健康状態の確認や荷物の申請手続きなどを行ないます』
書類のまとめられた封筒をお茶の横に置いておく。
手続きに必要な書類は既にこの中に一通り揃えてあるが本人署名の欄などがあり、署名するにもせめてお茶の一杯でも飲んでからでないとペンをとる気にもならないだろう。
『では、署名など終わった頃合いにまた来ますので』
ベルナルディーニチーム長を一度部屋に置いておくと、隅に立ってた高槻くんと目が合った。
「高槻くん、この電話番号に以下の内容を電話しておいてくれ」
医師団一行が休憩と書類などを確認している間に国境なき医師団の事務所に通達して医療廃棄物の回収準備、更に飯島からも電話をくれと言われてたので飯島にも連絡しておく必要がある。
その為だけに紅忠から高槻くんを借りておいたのだ。
「このメモ通りに連絡したら良いんですよね?」
「ああ」
メモを受け取った高槻くんが「分かりました」と言って大使館を出ていくのを見た後、1階に降りて健康状態のチェックを手伝う。
咳や発熱があれば入国を待ってもらう事になるところだったが、ここにいるのは全員医療関係者ということで全員問題なしとされた。
「大使、研究用サンプルの数量チェック終わりました。事前の申し送りとの差異はありません」
「わかった。医療廃棄物のほうは?」
「深大寺くんと石薙さんにお願いしてますが、こちらも現時点で差異の報告はありません」
「分かった。なら後は書類書いてもらうだけだな」
長い船旅を終えて休憩中の医師たちが、残ったお茶を片手に書類に目を通しているのを見ながら「今夜までには全員日本に戻れるよう一踏ん張りか」とつぶやいた。
****
全ての手続きが終えた頃には金羊国もすっかり冬の宵となっていた。
「……疲れた」
国境なき医師団の面々が家族や友人からの出迎えを受ける横で、俺たちは医療廃棄物の処理だの国境なき医師団側からの今後の予定の申し送りなどを受けていてなんだかクリスマスもクソもないと言う気分だ。
しかもいくらか雨まで降ってきて、傘を持っていない事に舌打ちしたくなった。
「真柴」
そう声をかけてきたのはカッパを着てネックライトを下げた木栖で、その手にはビニール傘がある。
「わざわざ迎えにきたのか?」
「こんな寒い夜に冷たい雨に降られて帰ってくるのはあんまりだと思ってな」
ほら、とその手からビニール傘が差し出される。
傘に手を伸ばすと掠めた指先が少し冷たくて、こいつ待ってたのか?と言う気持ちになる。
「と言うかカッパだけで寒くないのか?」
「慣れてる。それに俺はお前が濡れる方が嫌だ」
つくづく俺はこの男から愛されている、と思う。
ささやかなお返しをしてやりたくなった俺はふとポケットに入れてあったものの存在を思い出した。
「なあ、お前無糖のカフェラテ好きか?」
「嫌いではないな」
「じゃあお前にやるよ、自販機で甘いの飲みてえなと思ったら間違えて買った奴で悪いが」
ポケットからまだ暖かいカフェラテのボトルを差し出すと「それは在庫処分と言わないか?」とツッコミを入れつつ受け取ってくれる。
「ちょうど良いお返しが無いんだ」
「まあお前がくれるもんならありがたく受け取るよ」
やれやれといいたげにカフェラテを受け取ると、そのボトルの温みで指先を温める。
俺はその横で傘を少しだけ木栖に貸してやると「相合傘だ」と嬉しそうに呟いた。
大使館へ入国手続きに訪れた彼らのリーダーに一杯のお茶を差し出している。
『ベルナルディーニチーム長、この度はお疲れ様でした』
『ありがとうございます』
『この後全員に一通り書いてもらう書類などは揃えてあるので、一度お茶でも飲んで少し休んで頂ければと思います。その間にうちの医者による健康状態の確認や荷物の申請手続きなどを行ないます』
書類のまとめられた封筒をお茶の横に置いておく。
手続きに必要な書類は既にこの中に一通り揃えてあるが本人署名の欄などがあり、署名するにもせめてお茶の一杯でも飲んでからでないとペンをとる気にもならないだろう。
『では、署名など終わった頃合いにまた来ますので』
ベルナルディーニチーム長を一度部屋に置いておくと、隅に立ってた高槻くんと目が合った。
「高槻くん、この電話番号に以下の内容を電話しておいてくれ」
医師団一行が休憩と書類などを確認している間に国境なき医師団の事務所に通達して医療廃棄物の回収準備、更に飯島からも電話をくれと言われてたので飯島にも連絡しておく必要がある。
その為だけに紅忠から高槻くんを借りておいたのだ。
「このメモ通りに連絡したら良いんですよね?」
「ああ」
メモを受け取った高槻くんが「分かりました」と言って大使館を出ていくのを見た後、1階に降りて健康状態のチェックを手伝う。
咳や発熱があれば入国を待ってもらう事になるところだったが、ここにいるのは全員医療関係者ということで全員問題なしとされた。
「大使、研究用サンプルの数量チェック終わりました。事前の申し送りとの差異はありません」
「わかった。医療廃棄物のほうは?」
「深大寺くんと石薙さんにお願いしてますが、こちらも現時点で差異の報告はありません」
「分かった。なら後は書類書いてもらうだけだな」
長い船旅を終えて休憩中の医師たちが、残ったお茶を片手に書類に目を通しているのを見ながら「今夜までには全員日本に戻れるよう一踏ん張りか」とつぶやいた。
****
全ての手続きが終えた頃には金羊国もすっかり冬の宵となっていた。
「……疲れた」
国境なき医師団の面々が家族や友人からの出迎えを受ける横で、俺たちは医療廃棄物の処理だの国境なき医師団側からの今後の予定の申し送りなどを受けていてなんだかクリスマスもクソもないと言う気分だ。
しかもいくらか雨まで降ってきて、傘を持っていない事に舌打ちしたくなった。
「真柴」
そう声をかけてきたのはカッパを着てネックライトを下げた木栖で、その手にはビニール傘がある。
「わざわざ迎えにきたのか?」
「こんな寒い夜に冷たい雨に降られて帰ってくるのはあんまりだと思ってな」
ほら、とその手からビニール傘が差し出される。
傘に手を伸ばすと掠めた指先が少し冷たくて、こいつ待ってたのか?と言う気持ちになる。
「と言うかカッパだけで寒くないのか?」
「慣れてる。それに俺はお前が濡れる方が嫌だ」
つくづく俺はこの男から愛されている、と思う。
ささやかなお返しをしてやりたくなった俺はふとポケットに入れてあったものの存在を思い出した。
「なあ、お前無糖のカフェラテ好きか?」
「嫌いではないな」
「じゃあお前にやるよ、自販機で甘いの飲みてえなと思ったら間違えて買った奴で悪いが」
ポケットからまだ暖かいカフェラテのボトルを差し出すと「それは在庫処分と言わないか?」とツッコミを入れつつ受け取ってくれる。
「ちょうど良いお返しが無いんだ」
「まあお前がくれるもんならありがたく受け取るよ」
やれやれといいたげにカフェラテを受け取ると、そのボトルの温みで指先を温める。
俺はその横で傘を少しだけ木栖に貸してやると「相合傘だ」と嬉しそうに呟いた。
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