異世界大使館はじめます

あかべこ

文字の大きさ
上 下
242 / 254
18:Chosen Family

18-2

しおりを挟む
冬至の前日を迎えた金羊国から東京へと一歩足を踏み出せば、街は御屠蘇気分の剥がれた1月半ばの空気が広がっていた。
例年通り霞が関・永田町での報告会を終え、例年通り緊急時の連絡先確認を終えると冬の休暇が始まった。
「なあ、あの件だが」
木栖が言うところのあの件―木栖が長年縁を切っていた家族に会いに行くのについて来て欲しい、という話―を思い出すまで5秒ほどかかった。
「あー……お前の家族の件か、いつ行く?」
「出来るだけ早めに片をつけようと思って、明日のヒトヒト、じゃなくて午前11時ぐらいに大宮駅の豆の木待ち合わせでどうだ?」
大宮駅の豆の木という単語に妙な懐かしさを覚えつつも「分かった」と軽く承諾をした。

―翌日。
平日午前中の大宮駅に降り立つと、思っていたよりも変わっていない事に妙な懐かしさを覚えた。
高校時代には何かあるたびに利用していた駅もしばらく来ていないからもっと大きく変わっている気もしたが、そうでもないらしい。
改札を出て豆の木の方を見ると背の高い男前が落ち着きなく改札の方を見つめており、俺と視線がかみ合った瞬間に少しだけ安堵の表情に変わった。
「落ち着きがゼロだな」
「悪い」
「別にいいよ。で、病院行くのか?」
「病院のお見舞いは午後からなんで、先に真ん中の弟と会う」
木栖には弟が3人いたはずだが、真ん中という事は2番目の弟(木栖家の3男)ということか。
まあ10何年振りなのだ、少しづつ慣らしておきたい気持ちも分かる。
「分かった。そう言えば、俺はお前の伴侶としてお前の家族に会う方が良いよな?」
厳密には伴侶といい難いが表向きは伴侶という事になっている俺達であるし、普通友達を自分の親の見舞いに同行させない気がする。まして10数年ぶりであるなら尚更。
木栖は数秒硬直した後、ちょっとだけ悩んで「言われてみればそうだな?」とつぶやいた。
「気づいてなかったのかよ」
「これは完全に俺が悪いな。お前が良いなら恋人という事で……次があったらその時は別れたことにする……」
なんとなく木栖の表情に淡い俺への恋心が滲む。
甘さを抑え込もうとするその表情が俺のために出ているものだと思うと、まあ悪い気はしない。
「じゃあそうする。全員木栖真柴だしお前への呼び方も変えた方が良いか?」
「あ゛~゛……」
長い逡巡ののちに「お前に任せる」と木栖が答える。
なんとなくからかいたい気分になった俺はニヤリとほくそ笑んでしまう。
「で、善泰。お前の真ん中の弟とはどこで会うんだ?」
「もうすぐ来ると思う」

「もう来てるんだけど」

知らない声が突然俺たちに向けられて、その方向に目を向けるとアーティステックな服に身を包んだ男とヒスパニック系の小さな少年が立っていた。
「おま、いつから……」
「『俺はお前の伴侶として~』の辺りから」
「ほぼ全部聞いてたのか」
「なんかそれどころじゃなさそうだから口挟まなかっただけだよ。ここで聞いたことは言わないでおくから」
兄弟での会話に一区切りついたところで、アーティスティックな服装に身を包んだ男性が俺の方を見た。
「木栖善泰の2人目の弟で、アメリカでアニメーターやってます木栖直元きすみ・なおもとって言います。こっちは俺の養い子のディエゴって言います、英語しかできないんでこの子と話す時は英語でお願いします」
改めて見比べてみると衣服や立ち姿こそずいぶん違うが、その面立ちなどは兄弟と言われれば納得の似通い具合だ。
ディエゴ少年は見た目6~8歳くらいだろうか、見慣れない人への警戒心がその視線に滲んでおり養い親の手をぎゅっと握りしめている。
少し腰を下ろして視線を合わせながら『真柴春彦です、よろしく』と英語で語りかける。
『ディエゴ。こっちのデカくてイカついのは俺の兄貴のヨシヤス、さっき挨拶してくれたのはその兄貴のパートナーのハルヒコな。帰ったら忘れていいから今だけは覚えとけよ』
『……わかった』
ディエゴ少年は軽く頷くがまだその顔には緊張感が薄く滲んでいる。やはりこの子は人見知りなのかもしれない。
「真柴さん、兄貴。立ち話もアレなんで先にメシにしましょ」
しおりを挟む
気に入ってくださったら番外編も読んでみてください
マシュマロで匿名感想も受け付けています、お返事は近況ボードから。
更新告知Twitter@SPBJdHliaztGpT0
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

異世界転移~治癒師の日常

コリモ
ファンタジー
ある日看護師の真琴は仕事場からの帰り道、地面が陥没する事故に巻き込まれた。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。それどころか自分の下に草の感触が… こちらでは初投稿です。誤字脱字のご指摘ご感想お願いします なるだけ1日1話UP以上を目指していますが、用事がある時は間に合わないこともありますご了承ください(2017/12/18) すいません少し並びを変えております。(2017/12/25) カリエの過去編を削除して別なお話にしました(2018/01/15) エドとの話は「気が付いたら異世界領主〜ドラゴンが降り立つ平原を管理なんてムリだよ」にて掲載させてもらっています。(2018/08/19)

処理中です...